著者の松本健史さんは、「介護現場の理学療法士」として生活リハビリの実践方法を教えてくれる方です。難しい専門用語を使わずに、たのしくお話しされるところが大好きで、私は自分の職場にも来てもらって研修をお願いしたこともあります。
先日、松本さんとお話する機会があったので、予習のために本書を読んでみました。
「筋トレ」vs「お風呂」
松本さんは介護予防の研修会で、「運動プログラムを無理して取り入れるより、生活動作にきちんと関わるケアを!」というメッセージを語りました。
「筋トレマシンにお金をかけるぐらいだったら、いいお風呂を用意した方がいいと思いますよ。高い設備投資をするぐらいだったら、断然おふろですよ~」
生活行為に関わらずして、訓練室にお年寄りを呼びつけるセラピストを引き合いに出し、「入浴」を始めとした生活行為に関わることこそ、生活の場での専門家の役割ということを伝えます。
1、人前ではだかになるのに安心感をもってもらう
2、ベルトが持てないなど介助が大変な状況で理にかなった介助ができる
3、温度や手順など、その方の好みを考えられる観察力が身につく
お年寄りの「極楽、極楽」の言葉に喜び合える、「ふろフェッショナル」になろう。
【私の感想】
私は理学療法士の仕事をしていた頃、老健の現場で求められているのは、生活へ繋がる関りだと痛感していました。私自身、いわゆる「治療手技」のようなものが苦手で、そういうことより、トイレや車いす、といったところに活路を求めていたので、共感します。とはいえ、入浴に関わろうとして、適切な関りができず、介護職員さんたちの前で恥ずかしい思いをしたこともありました。
私が現場で十分にできていただわけではないのですが、現場を一歩離れたところで、私自身が利用者だったら、という考えが浮かんできました。
私自身がスポーツジム通いを何度も試み、継続できなかった過去があります。筋トレは、苦しいし、苦手です。毎日のルーチンのなかに、自然と必要な動きをしていけるのが一番いいです。私も自分が利用者だったら、イヤイヤ筋トレさせられるより、自分の能力を活かせる動きで気持ちよく入浴したいと思いました。
その介助にメッセージがこもっているか?
松本さんは古武道の動きを介護に役立てる試みについて質問をうけたとき、
「その介助にメッセージがこもっているかを考えてください」と言いました。
その人の残っている力に見合った適切な介助を、地道に繰り返していくことでお年寄りの力が戻り、介護量も軽減していくのです。「こう動いたら○○さん、また立てますよ(立って欲しいよ)」というメッセージをこめて、自立を促せるように介助することが大事です。
古武道は、古来から伝わる知恵の集積であり、学ぶべきところはたくさんあります。とはいえ古武道の介助法は、相手の動きを大切にするというより、自分の技を出すために相手を動かします。介護現場での優先順位は、あきらかにメッセージのこもった介護が上です。
【私の感想】
最近の私の趣味は、自分の体の使い方に日本人古来の動きを取り入れることを探求しています。それで疲れにくくて、自分の能力を発揮しやすくなる可能性も感じています。
自分ひとりでの動きなら、それでいいのです。
介助は、介助される人がいるわけです。体の動きを通じて、言葉にならないようなメッセージを伝えられるというのが素敵だと思いました。「こうやって動いて、また立てるようになってほしい」そんな思いのこもった力を合わせる動きができるのがいいですね。
男の居場所と役割
松本さんは、老紳士の利用者から、こんな話をされました。
「カラダは特段つらいわけでもない。血圧や体温に異常があるわけでもない。でも誰からも頼りにされない、肩身も狭い、これがツライ。この気持ちになにか病名はついとるのか?」
人間は、幼児から老人まで、「ここにいてもいいのか?」と生涯にわたって居場所を確認し続ける生き物なのです。
施設に居る男性陣の元気のなさも、居場所と役割がなくなったからだと考えると合点がいきます。振り返れば、仕事バリバリ、上司・部下との付き合いもあった、取引先など社会に広く人間関係のつながりもあった。しかし退職してしばらくすると交流は途絶え、会いたい人はいない、行きたいところもない、仕事一筋だったので趣味もない・・・
三好春樹さんが提唱する、「生きがいを消失した人たちに効果があるケア」3条件
1、かつてやっていたことかそれに近いこと
2、今でもできること
3、周りの人たちから認められること
これにハマると本当にピタリ。落ち着くし、主体性が出てきて、元気になります。
【私の感想】
私は最近、自分の住宅ローンを抱えたことで、将来の生活設計について考えることが増えました。そんな中で読んだ、森永卓郎さんの著書で、老後への備えは節約することより大事なのは、「職場以外に居場所を持つこと」、「趣味の仲間を持つこと」、といった内容が書かれていて、自分の身に迫る感じがしたのを思い出しました。
私は、今の職場で大事な役目を任されてやりがいも大きい。良い仕事に恵まれてありがたい。でも、その役目がなくなったら、居場所はあるのか??
自分にそれを問い、自分の生きがいをしっかり持ててこそ、周りの方々にそんな関りが考えていけるのかもしれないと、思いが巡りました。
松本さんとも自分たちの将来を考えると語らいができて、楽しかったです。
ありがとうございました。