実在の人物・団体に関係はありません。
お前は
今、
俺の中に常に揺らめく。
お前はどうなのだろう。
鷲羽海斗は、
高遠と共にエレベーターに乗り込んだ。
そして、
二人は黙って階数を目で追った。
「卵焼き、
甘すぎです。」
「すまん。」
ふふっと笑う高遠が
何か
すべてを見通しているように感じられた。
いつも
迷いながら
それでも一つのどうにもならない証を信じて
ここまできた。
内に感じる揺らめきがあってなお、
高遠の存在は海斗を迷わせる。
10階の点滅を受けて高遠は囁いた。
「明日は、
分かりませんね。」
「ああ、
分からない。」
ドアは開き、
高遠はすっと先に立つ。
「選び損ねないでください。
瑞月は二度と戻らなくなります。」
その言葉が
海斗の足を床に縫い止め、
高遠の背は振り返ることなく進んでいった。
わかっている
そう心に呟き
海斗も
エレベーターから踏み出した。
10階の廊下は
ガランとして
警護の影はなかった。
高遠が
部屋に消えていく。
そして、
本当に無人となった。
今夜は天王山だった。
この砦の手薄さは、
それを示して余りある。
武藤拓也は
出店する生産者の陣中見舞いに行くと
車を出して行った。
今夜は戻るつもりがあるかどうか。
その宿泊先に、
5人を配置した。
女は
駅近くのビジネスホテルに入ったという。
西原はそこに新たに5人を配置した。
影が凝り固まった幽体は本体の在処が知れない。
そして、
秦伊周の姿は、
ここ20年近く見た者がいない。
その屋敷に咲が手配したのも5人。
政五郎は
この辺りの食い詰めた輩に目を光らせている。
傀儡となって襲い来る者は、
大方がその類から選ばれてきた。
さしずめ今夜は、
あぶく仕事にそいつらも潤っていることだろう。
公園の櫓からテントの続く一帯には
10人があたっている。
瑞月に手が及ばなくとも鷲羽に打撃を与えることはできる。
事故の一つもあれば、十分だ。
入れ替わりに出ていった西原は、
その警護をチェックしているだろう。
“総帥がなさったんでは、
現実離れしすぎです。”
そう言っていた。
伊東が指揮をとっている。
めったなことでは
破られまい。
無人の廊下を
鷲羽最強の戦闘員たる長は歩を進めた。
この砦を今夜守るのは、
長その人だった。
俺がいる。
誰であれ、
ここに侵入することはさせない。
守りは固められた。
あとは、
己が何を選ぶかだけのこと。
海斗は改めて思う。
高遠
明日は分からない
そうだな‥‥‥‥。
ノブを回すと、
カチッ
と
ドアは開いた。
「瑞月、
鍵はかけておけ。」
そう言いながら
ぱっと明るむ波動に胸は揺らぎ、
その胸に飛び込んできた小さな身体が
その揺らぎを熱くする。
求め
求められる
その熱量が共に体内で爆発するようだ。
頬に手を添える。
仰向き震える唇のくっきりとした輪郭に
誘い誘われて
唇は重ねられた。
吐息が頬をなぶり
耳元に甘く届く。
白熱して
ゆらゆらと漂う波動が
瑞月の膝から力を奪っていく。
ずっ
と
合わせた胸を滑り落ちようとする身体を腕に止めて抱き上げた。
ぐらぐらと揺れる小さな頭、
微かに震えながら身を預け、
下肢は揺れる。
ソファーに下ろすと
静かにその唇を啄んだ。
一回、
二回、
ただ啄むキスに
小鳥は目を開ける。
「鍵だ。
瑞月、
西原に言われただろう。」
海斗は
声を弾ませることはない。
隠すことができる。
目の色に
声に
それを現さずに耐えることは習性だ。
そして、
瑞月は
じいっと見上げるのだ。
「海斗って‥‥‥‥うそつきだ。」
その口許はぷっくりと膨らみ、
海斗は
危険水域を脱したことに安堵しつつ、
その愛らしさを楽しむ。
「俺は嘘は言えない。
お前に隠し事などできるものか。」
大真面目に覗き込み、
心外だと言わんばかりに声を落とした。
そして、
瑞月がまた苛っとしたのを見済まして
ぷっくりさんの唇をまた啄んでやった。
「そうだよ!
だから‥‥‥‥わかるもん。」
唇が離れたとたん、
フーーーッと
仔猫は毛を逆立てた。
その目を
まともに覗き込んでやったが、
今度は効き目がない。
「何が嘘なんだ?」
ソファーに瑞月を寝かせたまま
宥めるように海斗は尋ねた。
ぐっと言葉に詰まった瑞月が
パクパクと口を開こうと足掻いた結果、
きっ
と
海斗を睨んだ。
「知らない!海斗の意地悪!!」
パタン!
と
海斗に背を向けて瑞月は丸くなる。
見えない尻尾がパタパタ揺れるようだ。
海斗は
その可愛さに
危うく危険水域に押し戻されそうになるのをぐっと堪えた。
「俺は
いつだって
お前に欲情している。
ほら‥‥‥‥。」
ぐっと抱き上げて
膝に乗せると
その手を導き探らせた。
あっ
と
引いた手をとらえ、
その指に舌を這わせる。
「ち、ちが‥‥‥‥。」
狼狽えながら
白熱していく瑞月を感じながら
海斗はもう片方の手をそっと下に滑らせた。
ニットの裾は
たやすく男のての侵入を許す。
胸の突起はもうツンと布を押し上げていた。
そこを擦り上げるとその全身に震えが駆け抜けた。
その震えを楽しんで
下腹へと伸びる手にようやく瑞月の手がかかる。
「だ、だめ‥‥‥‥。
ほら、
飛ぼうよ。
ねっ‥‥‥‥。」
海斗は
全身を包んで光り出す馴染みの波動を感じ、
その誘いを捩じ伏せた。
えっ?
と
瑞月の眸が泳ぐ。
「瑞月、
今、
俺が欲しいのは
お前の肌だ。
‥‥‥‥感じただろ?
俺は嘘はつかないしつけないんだから。」
海斗に見下ろされ、
瑞月は竦み上がった。
波動は白熱して溶け出そうとしながら
必死にとどまろうとしている。
ああっ‥‥‥‥。
すっと海斗の手が下腹へと滑り、
瑞月は堕ちていった。
ミヅキ
ミヅキ
‥‥‥‥‥‥‥‥
ミヅキ
ミヅキ
メヲアケテ
メヲアケテゴラン‥‥‥‥‥‥‥‥。
穏やかな翠の光の中で
瑞月は
そっと目を開いた。
その瞼に
優しい唇が触れる。
そっと手を上げると逞しい胸がある。
とくんとくんと頬はその鼓動を受け止め、
背は力強い腕に支えられていた。
「いい子だ
瑞月、
俺は精一杯に我慢している。
明日はショーだ。
今夜はいい子でいてくれ。
愛している。
愛しているんだ。」
小さな頷きが返り、
海斗は
ようやく完全に危険水域を離れた。
次は夕食だな
部屋で
と
聞いているが‥‥‥‥。
何しろ
砦は
待機のメンバーしかいない。
瑞月は海斗と置き、
そのまま動かさないのが最善の策だ。
もちろん、
その前に海斗は咲に誓っている。
咲ほど会場設営の最中に
胸の携帯は着信に震えたのだ。
“総帥、
今夜も瑞月とお過ごしになると
伺いましたが?”
“はい
離れることは危険です。”
“そうでございますね。
危険はよくわかります。
ですが、
総帥ご自身も危険ではございますが?”
“明日はショーです。
体力の消耗はさせません。”
“‥‥‥‥分かりました。
確とお願い致しましたよ。”
海斗は時に思う。
総帥だ
確かに俺は総帥だ
だが‥‥‥‥鷲羽の真の総帥は別に厳然といるのではないか。
慈母の微笑みをもつ無慈悲なカーリーは、
今ごろ屋敷の執務室で
何を考えているのだろう。
瑞月の額に
もう一度キスして、
海斗は立ち上がった。
そして、
固まった。
テーブルの上には
確かに食べ物があった。
ただし、
そのまま食べることはできない。
葉もの野菜
根菜
キノコ数種類
‥‥‥‥。
そして、
何やらメモが脇にある。
本日のメニュー
豚シャブサラダ
きのこ汁
ひじきの煮物
漬け物
お風呂は九時までに済ませてください。
10時には寝かせるようお願い致します。
民
海斗は冷蔵庫を開けた。
瑞月は堕としてある。
あとは‥‥‥‥30分ほどで夕食を作ればいい。
いいのだが‥‥‥‥思った。
咲は
いったい
どちらの危険をより重要に考えているのだろう。
料理しながら、
この砦を守れというのか。
できる。
もちろんだ、
だが‥‥‥‥‥‥‥‥どっちだろう。
海斗は
椅子に掛けられていたエプロンを手に取った。
用意のいいことに
それは瑞月が選んだ黒のギャルソン風エプロンだった。
ギュッ
と
腰にその帯を結び
海斗はキッチンを見回す。
30分きっかりで
作り上げてやる!
もう悪さを楽しむつもりもなかったが
どこか悔しい海斗だった。
イメージ画はwithニャンコさんに


