幻想・海斗 ガーディアン18 幻影と狼 | すずき古書店

すずき古書店

情報にはうとく、
綴る思いを店先に並べております。

大好きなアスリートに導かれ
こうして書いて参りました。
変わらず書いてまいります。


テーマ:
この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。







佐賀は車に戻り、
寝袋を片手に抱え、
バッグを肩にかけた。



路上を叩く雨音が
駐車場の低い天井に谺した。


エレベーターに向かう。
その足取りに迷いはない。

佐賀は
もともとが迷うことのない男だった。
この僅かな期間に
躊躇いも
戸惑いも
懊悩も知った。


それは
惑溺も知ったということだ。



少年のことしか考えていなかった。
佐賀を突き動かすのは
橘瑞月だけだった。





 この音は届くまい

雨音は
佐賀に思わせる。
少年の安らかな眠りを思わせる。


雨音は
いきなり激しさを増した。
轟音はエレベーターの向こうに消え
佐賀は小さな城に寝かせた少年のもとへ戻る。




平凡なアパートの一室。
そこに暮らす少年の空洞は
衣食住を与えても埋まらない。



人形のように無関心に
そこに置かれている少年の眸は
対する人間を見ない。



去ること
それだけが望みの者に
生きるための何を準備してやっても意味はない。


少年に生きてほしいのは
佐賀だった。
少年ではない。
佐賀は生きたがらぬ少年に囚われていた。



少年が微笑めば
佐賀は幸せになる。
少年が涙すれば
佐賀は胸を刺される。


そして、
生きてもらうために佐賀が提供する食事は
少年には苦痛でしかない。



何のためなら
生きようとしてくれるのか。
食事を拒む少年の緩慢な動きは
佐賀には己を拒むも同じものに感じられた。


生きてほしい。
それが
少年の眸を曇らせても生きてほしかった。



エレベーターを出て
音を立てず
ドアを開ける。


寝室の前を通り
リビングへと抜ける。


バッグを下ろし、
少年からの呼び出しを受ける小さな器機をテーブルに乗せ、
寝袋を広げ、
佐賀は横になる。


短い夜は
既に残りわずかだった。





その夢は花の香に満ちていた。
白い花弁が幾重にも重なる。






純白の花が
すっくりとそこに咲いていた。




その花弁の重みに耐えかねたように
ゆらり
その花は傾ぐ。



佐賀は思わず手を伸べた。



〝佐賀さん……。〟

甘い声が耳を打ち
佐賀は腕の中でしなる白い肢体に
目を奪われた。







はっ
目を開ける。


自身の男の熱さに
佐賀は驚く。
明け方の欲情は下腹に重かった。




目を閉じて
深く息を吸う。



白い花は既に消え、
佐賀は己が抱える少年を突き刺す剣に
向き合っていた。


側にいたい
その思いにつきまとう後ろめたさは
ねじ伏せていくしかない。
それは、
もう決着をつけた問題だった。



そっと起き上がり
廊下を抜け
身仕舞いし
佐賀はリビングに戻る。


カーテンを開ける。
日は既に上り
陽光は部屋を満たした。






佐賀は
しばし公園を見下ろし
意を決したように
部屋を見回した。


片付けた様々を思い出し
ダイニングの食器棚の引き出しを開ける。
メモ帳とペンを出すと
少年に書き置くことをしたためた。


 側にいる


それは
揺らがぬ決定事項だった。
もう間違える訳にはいかない。


だが、


少年を守ることは
さらに重要だ。



バッグのジッパーを開き、
佐賀は
着替えを済ませた。

脱いだものは
洗濯機に入れ
バッグは少年の勉強部屋に置く。



鍵をもち
佐賀は玄関に向かった。




 走ってこよう


佐賀はそう決めた。
少年を離れること
体をくたくたにすること
その両方が必要だった。


狼は牙をもつものだ。
そして、
狼は己の牙を恐れた。



画像はお借りしました。
ありがとうございます。



人気ブログランキングへ

すずきさんの読者になろう

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります

Ameba人気のブログ

Amebaトピックス

    ブログをはじめる

    たくさんの芸能人・有名人が
    書いているAmebaブログを
    無料で簡単にはじめることができます。

    公式トップブロガーへ応募

    多くの方にご紹介したいブログを
    執筆する方を「公式トップブロガー」
    として認定しております。

    芸能人・有名人ブログを開設

    Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
    ご希望される著名人の方/事務所様を
    随時募集しております。