幻想・海斗 ガーディアン17ジュリエットのように | すずき古書店

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情報にはうとく、
綴る思いを店先に並べております。

大好きなアスリートに導かれ
こうして書いて参りました。
変わらず書いてまいります。


テーマ:
この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





寝室に戻り、
少年は
カーテンを開けた。


雨が窓を流れる。
外は闇だ。
白々と浮かぶ己の顔が映る。



 雨……。


指先に
微かに湿るシャツと髪を感じて
少年はその手を上げる。

そっと差し上げた指先で
窓ガラスを辿ると
男の匂いが苦く鼻腔によみがえる。






抱き寄せられ
その匂いに包まれた。

 あっ……。

声が洩れて
少年は
額を窓ガラスに押し付けた。



冷たいガラスに
少年は自分を取り戻す。

少年を抱く腕と胸は消え、
閉じた目に
リビングから見下ろす公園が浮かぶ。



10階の高さからは
道の向こうがすぐ目の下に広がる。

 あのベンチ……。

点々と並ぶ
何の変哲もない木のベンチの一つを
少年は見つめる。



 白いシャツも
 着るんだ……。



薄暗い街灯の灯りが
そこに座る男を仄かに照らす。


高い鼻梁は頬に影を濃く落とし、
引き締まった頬から顎は
彫り込んだ凄烈な美を陰影に刻み、
その唇は引き結ばれて強い意志を語る。


そして、
その眸が少年を真っ直ぐに捉えた。



 佐賀さん……。


〝ミ ヅ キ〟

その唇が動く。


低く
よく響く声が
少年の名を呼んだ。


ミヅキ
ミヅキ
ミヅキ………………


少年は橘瑞月という名だった。




カーテンをそのままに
少年はベッドに入った。




寝室の照明は
仄かな灯りを残している。
少年は暗闇が嫌いだった。



窓ガラスが
しだいに薄れていく。

 もう休んでいいんだ。
 佐賀さんが
 休めと言ったもの……。




少年は
ふうっと目を閉じた。
寝息が静かにベッドから流れる。




短い夜が
ようやく帳を下ろした。






 まぶしい……。


少年は
目をしばたく。
細い手が目に差し込む光を遮ろうと顔の前に上がる。



寝室は
少年がやってきてから初めて
陽光に満たされていた。



んっ……。


少しの抵抗の後、
少年はころんと寝返りを打ち、
目を開けた。



シーツは真っ白だった。
掛布は明るい紺、
壁はクリーム色、
少年は初めて見る寝室の様々な色彩の鮮やかさに驚く。



 ここ
 綺麗な部屋だったんだ



うーん
もう一度寝返りを打った。







窓が見えた。
真っ青な空を抱いた額縁が
少年を迎えた。


その額縁の端が
輝く光の矢で白く輝いている。



 凄い……。


少年は
起き上がる。



その空に呼ばれるように
少年は立ち上がり
歩き出す。



窓辺に立ち見上げる。
青かった。
雨上がりの空は瑞々しく晴れ上がり
一点の曇りもない。



 空って
 こんなに青い
 ねぇ
 すごいよ……。



少年は
パッと身を翻す。


ドアを
バーンと開ける。


パタパタと
裸足のまま廊下を駆ける。



そして
リビングに飛び込んだ。




満面の笑顔は
しんと静かな空間に迎えられた。
佐賀はいなかった。



レースのカーテンが
明るい窓を静かに覆っていた。
柔らかな朝の光の中、
少年は呆然と佇む。



 いない
 佐賀さんいない


頼りなさに
足下が
ぽっかりとなくなったようで
膝が崩れた。



ぺったりと座り込んだ少年の目に
ソファーセットのテーブルの上の白いものが見えた。



 何か書いてある…………?
 …………佐賀さん!?




飛び付いて
手に取った。


〝走ってくる
 ブザーしっかり持っていろ
 すぐに戻る〟



ぎゅっ
紙を握り締めていた手が
パタンと膝に落ちた。







長い吐息が
少年の唇から洩れた。
安堵が少年を包むと同時に
頬が染まる。



 佐賀さん
 いなくてよかった……。


一緒に
空が見たくなった。
そんな他愛ないことで夢中で走ってきた自分が
気恥ずかしくなっていた。



 鍛えてるんだ
 そうだよね
 

広い肩幅は
腰に向かい美しく収斂していく。
無駄のないその体は、
しなやかな鞭のようだった。


 すごく強いもの……。


佐賀は
少年にとって
強くて美しい一匹の狼だった。



 すぐ戻るんだ。
 どこ走ってるんだろう……。




少年は
跳ねるように立ち上がった。
レースのカーテンをさっと開く。



道の向こうの公園は
青々と繁る木々に覆われ
ところどころ林の切れ目から
うねうねと続く散歩道が覗く。



早起きの市民たちが
めいめい
鮮やかな色の短パンやらノースリーブやらの姿で
その切れ目を走っていくのが見えた。






少年は待った。
一心に待った。



 来た!


心臓がドキンと打った。



黒い風が
その鮮やかな色彩の中を
抜けていく。


次!
少年の目は切れ目を辿る。



風は抜ける。


抜けて
抜けて
道路沿いの散歩道に
黒い影が飛び出してきた。



狼が走る。
筋肉は躍動する。
空気は一文字に切られ
軌跡を残す。



 佐賀さんだ……。



顔はまだ見えない。
それでも
それは佐賀でしかありえなかった。



狼は
どこにいても狼だった。



少年は
魅せられたように
走る狼に見入っていた。



あっという間に
その最後の2キロほどは終わりに近づいた。





顔が
見えた!

ドキンとしたとたん
狼は
ちらり
こちらを見上げる。



少年は
窓から飛び離れた。



レースのカーテンが
少年のいた名残に
揺れている。


少年は
その裾をぺたんと座って押さえ込む。






 見えた?
 ぼく
 見えた?


窓辺に踞り
少年は
そればかりを気にしていた。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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