黒猫物語 過去からの来襲 幕間 3
2016-04-01 23:25:31
テーマ:クロネコ物語

この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。







瑞月が駆けてくる。
なんて可愛いんだろう。
半日で
ずいぶん元気になったものだ。




飛び付いてくる体を抱きとめれば
乱れた息遣いが
しがみつく華奢な腕が
鼻をくすぐるお前の匂いが
俺を満たしていく。





ああ
瑞月だ。
俺の恋人だ。





「あのね、
   教わったんだ。

   好きな人には甘えていいって!
   一緒にいたいとか
   もっと触りたいとか

    海斗!
    僕、
    甘えたい!
    それは当たり前なんだって」





お前は
一生懸命報告する。



いい学校だ。
甘えん坊の仔猫を
俺に
戻してくれた。



「瑞月、
   お前は俺の一番だ。
   甘えていいぞ。
   どうしたい?」



「こうしていたい。」



「俺もだ。
   お前はいい匂いがする。」




暫しの陶酔を
抱き締めた体に味わい、
そっと身を離した。




「帰るぞ。
   昼からは一緒にいてやる。」






後部座席に収まり、
早速
高遠は聞いている。



「俺たちに
   甘えてもいいか
   マサさんに聞いただろう?」




瑞月は答える。

「うん!
   一緒にいたい!
   仲良くしたい!
   って気持ちは
   いくら甘えても構わないんだって。

    甘えてみて
    だめなら
    それは我慢すればいいんだって」



マサさんか。
大した人だ。




たけるは
確認している。



「俺には何を甘えたい?」


「お風呂!
   一人で入りたくない。
  だめ?」



ダメだ。
許さんぞ。
高遠も困るだろう。




「なぜ俺なの?」


「だって…………。
   たけるなんだもの。」


「だからなぜ俺なの?」


「たけるを待ってるから。」




禅問答みたいだな。


「瑞月、
   高遠を
   待ってたときがあるんだな。」





高遠がむきになる。

「いつも一緒でしたよ。
  待たせたことなんてないよ。」




瑞月が戸惑う。

「え?
   でも、
   なんか待ってた気がする。
   えっと…………。」





まさか!
あの事件のときか?!
瑞月は更衣室で発見された。
隣には
シャワー室があった。





「瑞月!俺が入るから」

「瑞月!思い出した!ごめん!!」




俺たちの声がかぶる。
瑞月を驚かせた。

ダメだ。
落ち着け。

俺たちが落ち着けば
瑞月は忘れる。




高遠が
ゆっくりと言い聞かせる。


「ごめん
   そうだった。
   待たせたんだ。

   もう待たせたりしない。

    一緒に入ろう。
   いつもと同じに
   俺がついててやるよ。」


「瑞月、
   そうするか?」


「うん!
   たけると入りたい。
   安心するんだもの。」




瑞月が着替えに上がっている間に
俺たちは確認した。


「俺、
   寮長になる予定でした。

   練習の後、
   今日はシャワーしてる暇がないって
   言ったつもりでした。

    引き継ぎの会議を終えて
    部屋に戻ったら
   瑞月がいなかったんです。

    俺、
    俺、走り出しながら
    言ってました。


    聞き取れなかったかもしれません。
    シャワー室で捕まったのかも……。」



「お前は悪くない。
   考えるな。

   任せる。
   任せるから守れ。」






昼下がりは、
俺の部屋で
瑞月を抱いて本を読んでいた。
カナダにいた頃を思い出す。



武藤と咲さんは
それぞれに準備している。
俺は当日まで
することがない。
目立ち過ぎるんだそうだ。



お陰で
お前をこうして
見詰めていられる。




俺の胸に眠る瑞月は
あどけない。

ふっくらと柔らかな頬、
ピンクに色づく唇、
愛しくてたまらない。



愛されるために生まれてきたような
その容姿と裏腹な
捨てられた仔猫の怯え。



お前を愛してやりたい
そう強く願った。
まだ
固く身をガードしていた頃に。




突然
全てを俺に預けたお前の幼さに
一度は諦めていた。
お前の恋人となることを。




俺で終わりにしたい。
俺はお前を置いていかない。
お前の全ての顔を愛している。



それでも、
まだ
時に荒れ狂う思いを
いつか
お前も共にするまでに
お前は成長するのだろうか。




それとも
高遠の思いに
心を揺さぶられるのだろうか。




愛している。
愛している。
あまりに
愛していて、
忘れてしまいそうだ。
お前が一人立ちしていく日が来ることを。




甘えろ。
甘えていい。


お前が
いつの日か
俺を離れていくときにも
俺は
お前の甘えに酔っているだろう。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。