輪廻転生(りんねてんしょう) | すずき院長のブログ

輪廻転生(りんねてんしょう)

先日、美輪明宏さんのコンサートに行った。
長崎で被爆経験がある美輪さんは戦争の愚かさを訴え、そして歌の合間に
あの世の話もした。

「人間は輪廻転生するの、死後に生まれ変わるということ。何度も生まれ
変わりながら経験を積んで、人間としての徳が備わっていくのよ。そして
もう生まれ変わる必要のない最高位が如来。如来は仏陀、お釈迦様のこと。
観世音菩薩はその前の段階、修行中ってとこね。現世でたくさん功徳を積
みなさい。そうすれば最終的に解脱できるかもしれない、お釈迦様のように
ね。ほら、私の前に現世の悩める菩薩がこうして並んでいる、ボサツでなく
オサツならいいのにね、オホホ」

そんなジョークにも殆ど反応せず、皆、食い入るようにステージを見つめ
ていた。救いを求める人が何と多いことか。

輪廻転生の思想は古代インドで生まれ、仏教に深い影響を与えた。仏教を開
いた釈迦は、永遠に輪廻することは人間にとって「苦」であり、そこから
「解脱」することが究極の目標と教えたという。

今ひとつ分からないが、こんな説明もある。

人間の苦悩(煩悩)は執着から生まれる。現世で善行を積み、修行によって
悟りを開けば一切の煩悩から解放される。煩悩からの解放(解脱)によって
得られる安らぎの境地を仏教用語で涅槃(ねはん)という。

かつて一世を風靡した刑事ドラマ「太陽に吠えろ」の俳優が、「涅槃で待つ」
と書き残して命を絶った。彼は生きる意味を見失った。しかし、多くの人間が
同じ悩みを抱いたまま生きている。それに、命を絶てば涅槃に達するという
わけでもない。

世の中には悟りを求めて修行を積む人たちがいる。禅僧も山伏もそうである。
過酷な修行もある。比叡山廷暦寺の千日回峰行 は死を賭した荒行で、医師の
立場では到底お勧めできない。だが、その達成者は不安も恐れも欲望も消え、
世の中が見通せるようになるという。一般ピープルには想像もできない世界
である。

先日、JR横浜線の踏切で男性を助けようとした女性が犠牲となり、日本中が
胸を痛めた。故人との関係があってもなくても、現場には献花する人が絶え
間なく訪れた。日頃から人助けに躊躇しなかったという彼女は、とっさに行
動をとった。

自分ならどうか。恐らく足がすくんで動けないだろう。彼女はその瞬間解脱
し、涅槃に到達したに違いない。

美輪さんは功徳を積めと言った。功徳とは、人のために善行を積み、自らは
修行するという意味らしい。善行は分かるが修行は難しい。荒行などとんで
もない。小さな滝行でも窒息しかねない。いや、膝や腰が痛い中高年には、
座禅もヨーガのポーズもままならない。

その点、瀬戸内寂聴さんは実に分かり易い。「何時も笑顔でいなさい、誰に
もできる功徳です」と言った。これは以前、家政婦のトリさん
に教えられた
顔施(がんせ)のことで、仏教で言う行(ぎょう)のひとつらしい。

これならできるかもしれない。早速、精一杯の笑顔を作って女房に聞いた。
 「来世も会えるかな?」
すると、女房は困ったような笑顔で返した。
 「それだけは勘弁して」

功徳にも何もなっていない、だめだこりゃ。

ただ、医師として、病人としての経験から解ったことがひとつだけある。
 「病気も修行のうち」である。