愛鷹決戦とはまた違った緊張感漂うフクアリ決戦。
栃木SCの運命が決まる2019シーズンJ2リーグ最終戦の朝は、秋の雨で開けました。
負けたら終わりの中、実に3試合を耐え抜き、最終節にまで残留の可能性を繋げて来た栃木SC。
最終戦となるジェフユナイテッド千葉に勝利し、他会場の結果を待つことに全てを懸けなければ叶わぬJ2残留決定戦。
それでも、藤枝MYFCというJ3チームの存在が気持ちを複雑化させ、降格圏内から脱出が叶わぬともJ2残留の芽が残ることが、厄介なことに感情をフラフラさせるのです。
瀬戸際まで追い詰められ、もがき苦しみ続けて辿り着いた最終節。
全ての運命が決するJ2残留争いは、ときには感動的で、ときには残酷で。それぞれのスタジアムによって様々なドラマを演出しました。
【結果】
ジェフユナイテッド市原・千葉 0-1 栃木SC
前半 0-0
後半 0-1
【得点】
後26 DF 田代雅也(栃木)
【警告】
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【スタメン】
GK 川田修平
DF 久富良輔
DF 田代雅也
DF 乾大知
DF 瀬川和樹→川田拳登(後33)
MF 古波津辰希
MF 大崎淳矢→西谷和希(後47)
MF 枝村匠馬
MF 浜下瑛
FW ヘニキ
FW 榊翔太→大黒将志(後24)
【控え】
GK 浅沼優瑠
DF 坂田良太
MF 西谷和希←大崎淳矢(後47)
MF 西谷優希
MF 川田拳登←瀬川和樹(後33)
FW 大黒将志←榊翔太(後24)
FW キム・ヒョン
【主審】 谷本涼
【天候】 曇
【観客数】 13,358人
【最終順位】 20位(J2残留)
スタメンは前節、V・ファーレン長崎戦と同じ。
中盤の要、ユウリ選手の復帰が期待されていましたが、最終節でも欠場となりました。
試合前の決起集会、そして、選手の練習中でも、その位置に入る古波津選手のチャントが何度も歌われます。
その思いに応えるように、古波津選手は素晴らしい闘争心で、最後までピッチに立ち続け、J2残留を掴み獲ってくれたのです。
決勝点を奪った田代選手の後ろにも、もう一人フリーでいたのも古波津選手。
位置取りも素晴らしく、もう少しでヒーローになっていたのかもしれません。
その田代選手の得点ですが、そこに至るまでの流れは決して綺麗とは言い難いもの。負けられないという思いが生んだ、執念のゴールでした。
相手を崩した訳ではなく、セットプレーでの攻撃残りで得たスローインから。
久富選手が入れたロングスローは跳ね返されましたが、それを回収してサイドへ流す。再びボールを保持した久富選手のクロスはニアに走り込んだ大崎選手へ出されますがシュートコースはありません。
誰かが背後に走り込むことを信じて流した絶妙な態勢でのパスは、後方で好機を狙っていたDF田代選手へと届きました。
千葉の選手は対応できていません。フリーでした。
ゴールネットに突き刺さった瞬間、決まったという思いと、オフサイドという思いが交差します。
僅か1秒にも満たない時間で副審を確認すると、ゴールを確信して駆けだす控え選手の間を縫ってセンターへと走っていました。ゴールを認める動きです。
そこから谷本主審へ目を動かすと、センターサークル方向へ得点を認めるジェスチャー。
その一瞬の動作確認のあと、一気に歓喜の輪に加わった感じでした。
前半は決して褒められた内容ではありませんでした。
パスは繋がらず、千葉の圧に押され続け、チャンスはありません。シュートは0本。
残留が懸かる試合としては、物足りなさを感じる内容に不安が募ります。
ただ、守備は安定していました。
ここ数試合同様に、無理な寄せは控えていた印象です。その分、連係を保ち中をしっかりとケアして、クロスに対して相手選手を自由にさせないという守備は、ここに来て相当に強固になっている印象を受けます。
特に、田代選手と乾選手の連係は良く、高いボールに対しては無類の強さを発揮してくれていました。
あとは攻撃。
後半、徐々に栃木の攻撃が発揮されていくことになります。
後半の立ち上がりこそ千葉のペースでしたが、時間の経過とともに栃木の攻撃が厚さを増していきます。
ゴールへ迫る回数が増え、得点の気配は少しずつ大きくなって来ているのがサポの応援熱量にも伝播しました。
後半23分に千葉が動きます。
2枚替で投入されたのはMF佐藤勇人選手と、DF増嶋選手。攻撃的な選手の投入ではなく守備的な交代なのかと、多くの栃木サポが感じたと思うのです。
引退が決まっている佐藤勇人選手がピッチに送り出されたとき、千葉サポから大きな拍手とチャントが送られたのですが、それを目にしたとき、本当に愛されている選手なのだなと感じずにはいられませんでした。
その交代から1分後、栃木はFW同士の交代を決行。榊選手に代わって大黒選手を投入したのですが、ここがこの試合の分岐点となります。
攻撃の圧を強めた栃木は、この大黒選手投入の2分後、前述した田代選手のゴールが生まれるのです。
千葉の2枚替、栃木の大黒選手投入から千葉のリズムが微妙になったように感じたのは私だけでしょうか。
特に、攻撃のパスが繋がる回数は減り、栃木が中盤で奪う回数は増えて行きました。
瀬川選手の途中離脱は痛手に感じましたが、ピッチ上の選手は一丸となって攻撃を跳ね返します。
それでも、瀬川選手の高さを失ったことで、千葉のCKでは生きた心地はしませんでした。
後半35分を経過した頃だったでしょうか。栃木のゴール裏では、FC町田ゼルビアがモンテディオ山形に逆転したという情報が流れ、勝っても残留は難しいのかと思われたとき、鹿児島ユナイテッドFCがアビスパ福岡に逆転を許したという情報が一気に駆け巡ります。
栃木SCの大逆転でのJ2残留条件は相手は変わりましたが整っている状況です。
その情報が流れてからは、長い長い試合終了までの時間でした。何度、後方にある電光掲示板の試合経過時計を見ても、一向に針が進んでくれないのです。永遠にさえ感じる時間の流れ。
アディショナルタイムの表示は5分。
想定内でしたが、そんなにあるのですかという思いも重なります。
この5分は本当に長かった。つき子さんがブログで「死ぬほど長かった」と表現していますが、その気持ちは十分に理解できるものです。
試合終了の笛がフクアリに響くと、少しの歓声が栃木サポから起きますが、それはこの勝利に対してだけのもの。
鹿児島がリードを許しているという状況は、栃木サポ全員が把握していたのですが、その結果はまだ出ていませんでした。
スマホでDAZNを起動させようにもアクセスが集中して動画を再生できません。
スコア速報だけでもと思うも、後半46分表示のまま更新もままなりません。
何とも言えぬ微妙な空気が漂う栃木のゴール裏。
そのとき、どこからともなく歓声が沸くと、それが一気に広がって、栃木サポ、選手での大歓声になったのです。
フクアリに流れる勝利の、いや、残留を勝ち獲った県民歌。
それは、愛鷹の空に響いた県民歌に勝るとも劣らない、感動を呼ぶ県民歌になりました。
感動だったのは、その様子を温かく見守ってくれた千葉サポーターの皆さま。
残留に対して祝福の拍手もくれました。本当に感動です。
栃木のために時間を与えてくれてありがとうございました。素晴らしいおもてなしだったと思います。
第21節から続いた降格圏内生活を脱したのは最後の最後。
残り4試合であった20位との勝点差は7でした。実に、2勝1分の差を4試合で追いつき、得失点差という紙一重での逆転を果たしたのです。
勝点40で残留が確定しなかったシーズンは過去にありません。
J2リーグ史上、最も過酷で、最も劇的で、最も激しかった残留争いでした。
フクアリの歓喜に沸いた栃木SC。
この逆転劇は決して忘れることは出来ぬものになりました。
残留、おめでとう。
試合後に届く多くの他サポさんからのメッセージやコメント。
感動するなと言うのは無理です。本当に感動しました。
また来シーズン。栃木SCはJ2を舞台に戦います。
きっと厳しい戦いです。
その厳しい戦いに参加できる喜び。それを得られたことだけで、今は満足。
ありがとう、栃木SC。
そして、栃木SCに関係する全ての人へ。
おめでとう。
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