「川のほとりに立つものは」。 | 机の上のちいさな箱

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「川のほとりに立つ者は」寺地はるな 双葉社



【Amazonの紹介より。】
カフェの若き店長・原田清瀬は、ある日、恋人の松木が怪我をして意識が戻らないと病院から連絡を受ける。 松木の部屋を訪れた清瀬は、彼が隠していたノートを見つけたことで、恋人が自分に隠していた秘密を少しずつ知ることに――。 「当たり前」に埋もれた声を丁寧に紡ぎ、他者と交わる痛みとその先の希望を描いた物語。


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読み終えた時の 漠然とした気持ちは
 たくさんの人がいて
 皆 様々なことを抱えて生きていて
 自分からは見えていないものがある
というものでした。

この作品を読んで
 ”わかった気になること” について考えました。
そして、わかった気になること で
そこから何に繋がるのかを考えました。

作中で 主人公の原田清瀬は
意識不明になった恋人の松木を
  わかっている  と思っていたのに、
知らないことが次々と浮き彫りになり
清瀬自身が認識していた彼とのズレが出てくる
一連の流れが描かれています。


読んでいて 少し不思議な感じになりながらも
こうなるのは自然なことなのだと思いました。


人は誰しも他人を全てわかることは難しいです。
自分を生きている、から。


全てを理解できないからこそ 
”知らないことがあるのだ” と
謙虚な姿勢でいることが必要だと思いました。


また、相手を知ったつもりになって
人間像を固定してしまうことが
危うさを含んでいることに気付かされました。

その危うさは、暴力的なものになる時があります。
暴力的とは言い過ぎなのかもしれませんが、
自分目線のみで判断して行動すると
誰かを知らず知らずのうちに
傷つけてしまうことにも繋がります。
自分には 全く思いもよらぬところで
誰かを深く傷つけてしまうかもしれません…


自分からの視点を大切にしながらも、
多面的・多角的な視点を持つ癖をつけ
思慮深く居られたら いいな… と思いました。



 何だかごちゃごちゃと書いてますが
  誰かを知る時、誰かと出会った時、
  何かを見聞きした時、
  心を平らにして 
  共感する気持ちや思いやる気持ちで
  それらを受け止めてみて
  そして、考えられるいくつもの視点から
  その人・その事について
  よく考えてみることが大切
 ということが書きたかったです…
 


*


この作品は一言で言い表せない
複雑さ、曖昧さ があります。
心にぐっとくる所が 読む人の数だけあると思います。
 
そして、時間が経ち 読み返した時にも
新たな発見や感慨深さが押し寄せると思います。


月日が経ってから、またこの作品の世界に
触れてみたいと思います。




*



【心にささった文章。】

川のほとりに立つ者は、水底に沈む石の数を知り得ない。
『夜の底の川』だけではない。これまで、数多の美しい物語を読んできた。傷ついた人びとが他者に救われ、再生する物語に、幾度も涙を流してきた。物語の中の人びとは、差し出された手を振り払わない。途中までは主人公に反発していても、最終話までには心を開いて相手に感謝する。 読んでいるあいだ、清瀬はそれを然るべき展開だと感じ、本を閉じた後もずっと疑ったことがなかった。
それこそがいちばんの罪かもしれないと、清瀬は今ようやく思い知る。手を差し伸べられた人間はすべからく感謝し、他人の支援を、配慮を、素直に受け入れるべきだと決めつけていた。歪みを抱えた者はみな「改心」すべきだと。 勇気を出して差し伸べた手を振り払われた瞬間の痛いほどの恥ずかしさ、いたたまれなさ。 天音さんに出会って、清瀬は嫌というほどそれを思い知った。でも実際のところ誰の手を選ぶかも手を取るタイミングも、その人自身が決めることなのだ。 「せっかく助けてやっているのに」と 相手の態度を非難することは、最初から手を差し出さないことよりも、ずっと卑しい。
天音さんは清瀬の伸べた手を振り払った。今はその事実を事実のまま抱えていようと決めた。 事実の重みに両腕が軋み、激しい痛みに襲われても、今はそのまま。 清瀬はせめて願う。 天音さんがこれから迎える明日が、よい日であり続けますように。 あなたがわたしを嫌いでもいい。それでもわたしはあなたの明日がよい日でありますようにと願っている。
       Chapter8 7月30日の原田清瀬 P213〜214

川のほとりに立つ者は、水底に沈む石の数を知り得ない。でも清瀬は水底の石がそれぞれ違うことを知っている。川自身も知らない石が沈んでいることも。 あるものは尖り、あるものはなめらかに丸く、またあるものは結晶を宿して淡く光る。 人は石を様々な名で呼びわける。 怒り。 痛み。慈しみ。あるいは、希望。
     Chapter9 10月25日の原田清瀬と松木圭太 P222




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今日もお立ち寄り ありがとうございました。*



いつも 読んでくたりさり
ありがとうございます*




如奈。