彼に妊娠を告げてから2日後。


電話がきて

彼の家でもう一度
話し合うために行った。




そして彼が一言目に
言ったのは、


『まだ答えが出てない』



というものだった。



それを聞いて
あたしの気持ちを
彼に聞いてもらった。



『礼の中に
どんな選択肢があるのか
解らないけど



少なくとも
2つはあるわけよね?


あたしと一緒になって
育てるか
あたしと別れるか。



あたしは、
礼が楽しく生活できる方を
選んでほしい。


幸せになれるであろう方を
選んでほしいの』



『一緒になって
産んで育てたい気持ちは
ある。


でも…
その決断をためらってる
自分もおんねん



ごめんやけど、
一緒になれないんやったら
その子供はおろしてほしい』



『それは嫌!!!

それだけは絶対にしない。


誰に何と言われも

誰にも、そんな事
言う権利なんてない。


たとえ父親である礼でも』



あたし達の家は近い。


もしもあたしが
実家で産んで育てるとなったら

彼がいつか見かけてしまうかもしれない。



そんな時、
彼が苦しまないはずがない。



なら、あたしがここを離れる。


それぐらいの覚悟でいた。






今まで見たことないぐらいの
真剣なあたしの顔を見て


彼が聞いてきた。



『まぁちゃんの


幸せ


ってなんなん?

俺と居ること

子供を産んで育てる事?』



『あたしの幸せはね…

礼が幸せになること。


それも

誰かと一緒

て条件つきで。



格好良くて、若いのに経済力あって。

誰にでも優しくて。


ちゃんと貯金もあって
車もバイクも持ってる。


借金やローンが嫌いで
ギャンブルも嫌い。


申し分ないように見える



けど、礼には一つ欠けてるモノがあるの。



愛情だよ。



誰の事も本気で
好きにならないから


相手がどんなに大切に
想っていたとしても

礼は気が付かないんだよ。




でもね、どんなに周りが

「あなたは素晴らしい」
「あなたは掛け替えのない人」

って言ったとしても
礼の心には届かない。



礼の心に届けられるのは

礼が本当に好きになった人だけなんだよ。


だから、そんな人を見つけてほしい。



そして、いつか
「結婚しました。」
なんてハガキが届いたら

もっと幸せ。




あたしの幸せは礼が幸せになる事なんだよ』


すると彼はあたしの手を握ってきた。

『ごめん。

本当の事言う


今、付き合ってる子がおんねん

その子の事
嫌いやないし。


けど、子供を産んで欲しいって気持ちもあって


でも、自分でも


どうしたらいいんか
わからんくて…』


『そっか☆

簡単やん!!!


その彼女とこれからも
仲良くやったらええんよ。


あたしの事なんざ、
キレイさっぱり忘れて


彼女といままで通り
デートしたり旅行行ったり
いっぱい思い出作ったらええ。

考えただけで、
楽しそうやん。


それに比べて…
あたしと一緒になってからの事
考えてみい

遊ばれへんわ
欲しいもの買われへんわで


仕事仕事の毎日になんねんで。

子供がいるのは
たしかに幸せかもしれないけど
拘束されること
諦めなきゃいけないことも
増えるんだよ。



もう十分時間はあげた。
これでも
決まらへんのやったら


あたしの方が
一緒になるの無理やわ』



これがあたしの本音。


2日前に彼を見送った
あの夜から

ずっと考えて出した答え



彼に左右なんかされてちゃいけない。


あたしの人生だもん。

そして、お腹にいるこの子の為にも
母としてしっかりしなきゃ!!




去年の9月



気が付けば、
生理が2週間

遅れてた。



いつもはキッチリくるのに…



でも、女性ホルモンとか
生活習慣とかで

ズレる事はよくあると
聞いたことあるし。




あまり気にしていなかった。





けど、



日に日に



体調が悪くなり。




タバコも
気持ち悪くて吸えない。


食べ物も
いままでと食感や匂いが

違う気がして



吐いてばかりいた。




頭では解っていた。





あたしのお腹の中には


赤ちゃんがいる。





そんな私の姿を
見ていた母も気が付いていた。



妊娠したんではないかと。




母は1年前に
流産した事を知っている。



そして、

彼との
今までの関係も…





あたしが
赤ちゃんの時に
父さんと別れて、



それから
1人で、何不自由なく
育ててくれた。



母子家庭とは
思えないぐらい

裕福な家庭だったと思う。




その裏で
母が大変だった事も


知ってる。






もしも彼が
妊娠を喜んでくれないのなら、


1人でも
産んで育てるつもり、





でも、現実問題。

母の協力なしに
産んで育てる事は
できない。




母は
この妊娠を喜んでくれるのかな?






不安を抱えたまま

病院へ行った。




内診しながら見たエコー



この黒い渦のどこかに
居るのかな?






妊娠していた。



でも、動きが弱いらしい。



はっきり言って
安全な状態じゃない


だから、とにかく安静に。



そう言われた。




朝、病院へ行く時に


もしも赤ちゃんがいたら

帰りに本屋で
ベビー雑誌を買おう。




なんて思っていた事は、
すっかり忘れて




気が付いたら
家に帰ってきていた。




何も考えず
母に報告した。



そしたら


『何も心配することないよ。


きっと赤ちゃんは大丈夫だから。


彼が一緒に育てられないなら、この家で育てなさい。




でも、一つだけ条件がある。


彼にはちゃんと話しなさい。





そう言ってもらえて、


とても安心した。



あたしも
いつか、こんな強い母に
なれるのだろうか?





父さんが居なくて
嫌な想いをした事は

一度もない。



でも、やっぱり
両親はそろっていた方が

赤ちゃんの為にはいいだろう。



そして、あたしのこれからの為にも…。







その日の夜。


彼に電話で報告した




直接、
顔みて言いたかったのだけど、



彼の予定が合わなくて
当分、会えそうにないと

言われたので、


電話になった。




でも、
『おめでとう。
一応あなたはパパです』


と言ったら

すぐに駆けつけてくれた。





その気になりゃこれんじゃんよ!!!





そして、
あたしの顔を見るなり。


『こういう時って、


ありがとう?

おめでとう?』


『おめでとう。って他人行儀じゃない?』

『そうやんな。
ありがとう。嬉しいよ』



そう言って抱きしめてくれた。


その瞬間は
妊娠が発覚した時よりも

幸せだった。



けど



『ごめん。
ちょっと、突然の事すぎて


頭が混乱してんねん。



ここに来るまでも
考えとってんけど。


やっぱり、
まだ考えがまとまらない。



ごめんやけど、


少し時間をもらえる?
考える時間がほしい』





そう言って
彼は帰って行った。




そんな彼の
後ろ姿を見て



あたしも
また悩み初めていた。




お腹の赤ちゃんの為に

彼の為に



あたしはどうすれば
いいのだろうかと…。




今日たまたまテレビで
『めちゃイケ』

を観ていたら。



磯野貴理ちゃんが


元旦那さんとの
『思い出の交差点』


で、「どうしたいい?」
とスピードワゴンの井戸田さんに相談した。


という話を聞いて、




あたらめて、

この人、凄いな


と思った。




強くはないんだけど、

泣きそうになりながらも、


ちゃんと仕事をしている事が


笑いに変えられても、

頑張っている姿が



とても、凄いな…って。



上手い言葉が見つからないから

『凄い』としか
言えないけど。



頑張っている姿を見て




勇気をもらえた事はたしか。








あたしも

1週間ほど前に


彼との思い出の場所へ

行こうとした。





そこは、
入籍するはずだった日に


3度目のプロポーズをされた場所。





思い出に会いに行きたくて。



もしかしたら、
自分の中の何かが



変わる気がして…




1人車を走らせてた。





でも、

たどり着く事は


できなかった。





途中で、

息苦しくなって




車を停めた瞬間に




泣き出してしまった。






どうしてあたしは

こんな所に居るんだろう?



どうして


こんな想いを味わわなければ

いけないんだろう?




どうして


彼の側に



行けないんだろう?








まだ、こんなにも





好きなのに。