こんばんは。
大好きな安城市の在宅医療に貢献したい!
日だまり訪問看護ステーション
看護師 山田万理です。
2月7日 12時35分
事務員からLINEが入り
至急の新規利用相談が入ったことを知る。
医療用麻薬を皮下注射していて
毎日訪問を希望されている
49歳女性 胃がん末期状態
退院を急いでいる状況で
なるべく早く返事が欲しいと。
12時38分 LINEの返信。
『(命の時間が)短そうだね
受けると返事して』事務員に返信。
翌日2月8日11時 退院前カンファレンス
参加者は、ご主人、退院コーディネーター
緩和ケア病棟の医師と看護師
地域包括支援センタースタッフ、私。
今までの経過と継続する医療処置を確認
要望に沿うべく方針を話し合いました。
血圧が70台になることや
せん妄を認めることから
その時(死)は刻刻と近づいています。
せん妄と言うのは
過去と今、夢と現実がごっちゃになったり
考える力が落ちて判断することや
言葉にすることができなくなる状態です。
カンファレンス後、ご本人と面会して
呂律が回っていない感じと
質問が理解しにくい様子を見て
友達と家を認識できる今のうちに
少しでも早く家に帰らなくては!と
焦りました。
ご主人は自宅看取りを覚悟しています。
今すぐにでも診療可能な
在宅専門クリニックと
年中無休24時間体制の
日だまり訪問看護がタッグを組んで
地域包括支援センタースタッフが
介護ベッド、マットなど療養環境を整えて
15時に病院を出発することになりました。
16時に在宅医が初回訪問診療をして
18時に私と地域包括支援センターが訪問。
在宅医が訪問した時も
私が訪問した時も友達がいました。
明るくて面白くて面倒見が良い人の周りには
たくさんの人が寄ってきます。
夫婦の時間と友達と過ごす時間を
大切にしてもらいたくて
日だまり訪問看護に報告相談する
基準と連絡先をご主人にお伝えして
早々に退室しました。
日をまたいで2時45分 緊急コール
「呼吸はしてます。脈も触れるけど
声をかけても視点が合わない。
まるで聞こえていないような感じです」
ご主人に
「病院からの移動が負荷になったのは確かで
急変するリスクは高いです。
今日が山場です。
もしかすると明け方にも。
耳は聴こえるので話しかけて
ご主人の声を聞かせてあげてください。
大切なご夫婦だけの時間を
過ごして頂きたいですが不安なら伺います。
どうしましょうか」
ご主人は
「山場ですか・・・分かりました。
妻から目を離さないようにします。
様子を見ますので来なくて大丈夫です」
5時45分 ご主人からの電話連絡
「5時36分 妻が息を引き取りました」
訪問して心肺停止を確認してから
在宅医に報告です。
在宅医が到着するまでの時間は
呼吸と鼓動がとまり
目覚めることがない眠りについたけど
まだ旅立ちの時を宣告されていない。
生きてはいないけど
死んでもいない時間です。
この時間に私はライフレビューをします。
ご夫婦の物語を聴かせて頂くのです。
一昨年に横浜まで
鈴木雅之のクリスマスコンサートに
出かけた時の動画を観ながら
ご主人が語るご夫婦の物語は
私が理想とする愛のカタチそのものでした。
「ケンカばかりしてたんだ。
1日でも長く生きて欲しいと思うから
酒を飲む妻を止めてケンカになって
飛び出した妻を追いかけて
迎えにいく繰り返しだった。
でも今年に入ってからは
1回もケンカしていない。
痛くて苦しい思いをしているのは
こいつだからね。
こいつが何を言っても
そうかそうかと受け止めて
よし分かったと理解するようにして
やりたいことは止めなかった。
病院では痛い痛いばかり言って
会いたい人にも会えずに寂しそうで
こいつに会いたい人がたくさんいるのに
会わせてやることもできなくてね。
連れて帰って友達に会わせてやるのが
1番の薬になると思ったんだ。
良かったよ、友達の顔みたら
バンザイして
やった~会えた!って笑ってね
グラタン、ハンバーグ、冷やし中華を
少しずつ食べて、美味しいって喜んで
でもまあ、こいつの1番の好物は
自分が作るカレーなんだけどね。
先生が痛そうなとき苦しそうな時は
副作用とか気にするよりも
なるべく早く楽にしてあげた方がいいから
ポンプを押すようにと言ったから
9時(21時)に押したら
この薬すぐ効くんだね。
12時(24時)までぐっすり寝てたよ。
こいつの穏やかな寝顔を見たのは久しぶり。
毎日祈ってた。
こいつが苦しむのは辛いから
お袋さん早く迎えに来てやってくれって。
祈りが通じたのかもしれない」
そばにいたい。手放したくない。
けど、手放さなければならない。
ご主人の苦悩が伝わってきました。
聴かせて頂いた物語は、
出会いは、部下に面白いママがいると
連れて行かれたスナックだったこと。
ご本人が韓国籍であることや
ご両親とお兄様と死に別れ
弟は行方不明で天涯孤独であること。
ご主人も会社経営していた時の
羽振りの良いお金の使い方で
血のつながりがある家族を失って
天涯孤独であること。
籍を入れると無縁仏になってしまうから
お互い母親の墓に入ろうと
約束をしたこと。
リーマンショックの煽りを受けて
経営の歯車が合わなくなったときに
支え合って生きてきたこと。
2年前の検診でがんが見つかり
前向きに生きるためにキツイ治療を
頑張ってきたことの労いなど
病める時も健やかなるときも
人生の酸いも甘いも共にしてきた
お2人の絆の強さを目の当たりにしました。
愛するとは
信じること、許すこと、守り守られること
素敵なご夫婦に出会えた奇跡に感謝します。
ご本人とご主人は18歳の差があります。
ご本人にとってご主人は
いつも愛する人で
時に父親で、兄弟で
親友だったのかもしれない。
ベッドの横にはそれぞれの
お母様の写真が飾られています。
出会いから別れまで19時間45分。
もっとご夫婦に寄り添いたかった。
でもそれは、
少しでも長く一緒にいたいのに
苦しみから解放されるように
早く迎えに来てくれとお母さんに祈った
ご主人の悲願を思うと
私のわがままというもの。
お母さんに会えましたか?
ご冥福を心よりお祈り申し上げます。
そしてお願いします。
片割れを失ったご主人が
心満たされて健康に暮らせるように
これからもずっとお守りください。
訪問看護のお仕事は、外来や病棟よりも
家族ケアの割合が多いです。
暮らし慣れた家に訪問して
家族写真や子供の作品を目にしたり
愛犬が吠えるのを聞いたり
奥様が料理する匂いを感じたり
利用者とご家族の日常や
思い出に触れる機会がたくさんあるから。
看護実践国際分類は「家族」を
『血縁関係あるいは情緒的または
法的な関係によって結ばれた構成員からなる
社会的な単位または集合体』
と定義しています。
訪問看護に転職してから
表に出せない事情や
抱え込んでいる問題があったり
複雑な背景を持つ家族が多いことに
気づきました。
だからこそ訪問看護師は
どんな環境も思いも受け入れる
覚悟や柔軟さが必要です。
先入観を持たず
まっさらな気持ちで向き合って
文化の違い、ルーツ、価値観を
受け入れて尊重する
一昨年の秋に
フィリピン人の奥様が肺がんのご主人を
ご自宅で看取りました。
こちらのご夫婦も入籍はされず
情緒的なつながりで夫婦、家族でした。
夫婦は男と女であるべき
結婚したら同姓を名乗るべき
といった世間の大半の思い込みや
差別的言動や嘲笑といった
あからさまな偏見に悩まされる
カップルや集合体がいるのだと思う。
でも、お互いを心から信頼して
思いやる絆の強さは
世間の大半の思い込みや偏見を
軽く飛び越えてしまうのものだと
信じればいい。
誰しも愛されて当然だし
幸せに生きていい。
私も幸せな家族の時間を過ごしました。
先日大学受験した息子が
すべり止めとボーダー校に合格したので
本命校の合格発表はまだだけど
息子が好きな焼き肉で
プチ祝いをしました。
まだ入るの?
って驚くほど食べる息子と
10億の借金を背負う夢を見た
と話す旦那さんと
全然目的地にたどり着かない
エレベーターに乗って焦る夢を見た
と話す娘を眺めて
ハイボールをたしなむ幸せ。
大切にしよう。
それでは今日はこの辺で。
最後までお読み頂き
ありがとうございました。