$雑食食堂

★★★☆

ブラッド・ピットがクールな殺し屋ジャッキー・コーガンを演じるサスペンスドラマ。監督は「ジェシー・ジェームズの暗殺」(2007)でもピットとタッグを組んだアンドリュー・ドミニク。「優しく、殺す」をモットーにする殺し屋ジャッキーは、「ドライバー」と呼ばれるエージェントから、賭博場強盗の黒幕を捜索する依頼を受ける。ジャッキーは前科のあるマーキーを探し出すが、実際に強盗を仕組んだのは別の悪党3人組であることが発覚。さまざまな思惑が交錯するなか、ジャッキーは事件にかかわった人間を皆殺しにすることを決める。共演にリチャード・ジェンキンス、ジェームズ・ガンドルフィーニ、レイ・リオッタ、サム・シェパードら。(http://eiga.com/movie/77848/より)

宣伝だとブラッドピットが主演であることがだいぶプッシュされているが、彼は狂言回し的な役割で登場しており、本当の主役(と言いきっていいのか分からないが)は画像の男二人だ。

どん底の生活を送っており、強盗によって金を得ても事業を興すなどの考えには至らず、その資金で麻薬の買人になることを夢見るという馬鹿で哀れなジャンキーと、そんな馬鹿しかカジノ強盗をする相手がいないムショ上がりの青年。

どんづまった生活の焦りすら垣間見える必死さが伝わる強盗のシーンはあまりにもお粗末で、見ていると悲しみすら湧いてくる。ストッキングを被り素顔を隠しているのだが、布越しに見える悲壮感あふれる二人の表情は見ていられない。

しかし肝心のストーリーに中身がないので、強盗シーンの(「失敗するんじゃないか」というようなある意味の)緊迫感や、先述したジャンキーのトリップ描写やスローモーションを多用した暗殺場面、執拗すぎる暴力シーンなどの断片的な映像でなんとか場をつないでいる印象はぬぐえない。

ただ車で移動するシーンが多いため、カーラジオから流れるアメリカの破たんし切った経済状況を伝えるニュースや識者らしき人物によるアメリカの現状を嘆くコメントを随所随所に挟みこむ演出はクールでよかった。
暴力とドラッグと汚い金にまみれた舞台となる暗黒街が、アメリカの暗部の縮図となっているさまは『ノーカントリー』を彷彿とさせるが、比べてしまったらこちらが劣ることは否めない。

ラストではオバマ大統領が答弁を行っているテレビ中継を、バーでブラッドが見ながら皮肉を言う。このシーンもなんともクールで日本映画では見られそうにもないシーンだなと思った。


ドラッギーでバイオレンスでオフビート。グズグズでボロボロの現代アメリカを背景に、虚しさしか残らない強奪と殺しが交わされる映画。夜の暇つぶしには最適の映画かもしれない。