その後も小さな戦はあったが、竜二たち肉食恐竜軍は勝利を挙げ続けた。
「みんなまっすぐな木を折って来て、つる草で束ねていかだを作るの、できる?」
いかだのイメージは恐竜たちにテレパシーで伝わった。訓練で鍛えた体は大木を折るのも運ぶのも苦にしなかった。だがつる草でいかだを作るのは苦労した。肉食恐竜の手、前足は小さく指も短く退化している。それでも恐竜たちは懸命に手を使い、いかだを組み上げた。
「リュウジン、できた!」
恐竜たちは心から楽しそうだった。きっとこれから手を使う喜びをたくさん知るだろう。そうして恐竜たちも人間のように物を作ったりできるようになる。進化していく。類人鼠とどちらが、この惑星を支配する覇者になるのか…
「ダンガ、竜が陣地を出てこっちに来る」
類人鼠軍の神官にして将軍のダンガは報告を受け、肉食恐竜軍の動きを予測した。
「それはおとりだろう。奴らはいつも俺たちの背後を突く。今度は伏兵を背後に集中し、後ろから来る竜の本隊へ反転して戦うんだ」
しかし4個大隊の恐竜はそのまま横一列に並んで直進してきた。正面から突撃してきたのだ!
「正面攻撃だと!?しかもあれは何だ?」
恐竜たちは両手でいかだを持って、自分の正面に立てて進んでくる。
「ええい!どういうつもりか知らないが陣形を変更だ。正面の敵へ突撃!槍隊、先行して突っ込め!」
しかし類人鼠軍の槍は、巨木を組んだいかだの防壁に阻まれ刃が立たず、押し返される。本陣近くまで押し戻された類人鼠軍は、いかだを倒されて押し潰されそうになり散り散りになって陣形を乱した。そして肉食恐竜軍の一斉攻撃を受け、壊滅状態になって逃げ散っていった。
「ちくしょう!あんなものを使うとは。今度は攻略してやるぞ、憶えてろ!」
ダンガも命からがら逃げだした。今回も肉食恐竜軍の連勝だった。
夏も終わり、気温が下がって昼が短く、夜が長くなってきた。シダ植物がそれに連れて減り、それを食べる草食恐竜たちも野や森に転がって動かなくなることが多くなった。
火山活動はほぼ収まったし、空は噴煙もなく晴れている。それなのに冬が来る。以前は一年中暖かい常夏の気候だったという。今はここにも四季があるということだ。
何年か前、この惑星に大きな岩のようなものが空からやって来て、地上に落ちて大爆発を起こしたという。小惑星か隕石の衝突だろう。
きっとその影響で、惑星の地軸がずれた。ポールシフトによって赤道付近だったこのあたりの土地が、極地に近くなって四季のある地域になったんだろう。
南下すれば暖かい地域があるだろう。そこの方が恐竜たちが住みやすいかもしれない。いずれこのあたりの類人鼠軍を平定して、南へ進軍するべきかもしれない。
しかし当面は類人鼠軍との一進一退の攻防が続いて動けない。
秋か…すぐに冬が来るな。冬を越すための備えが必要だ。自分の一番の大仕事になるかもしれない。
竜二はまず食料を確保するため、気温が下がっても青々と茂っている植物を探し、それを繁殖させる畑に植え育てた。広々とした畑地に草や木の葉が生い茂ると、寒い日でも元気な草食恐竜を集め、逃げないように肉食恐竜に見張らせながら飼い、牧畜とした。草木も草食恐竜や牧畜も、寒くなっても活気を失わない品種を多く残し、出来ればそれらを掛け合わせて品種改良して寒さに強いものを作り出した。
「リュウジン、俺たち竜だけでは、草や肉獣の面倒は厳しい」
「そうだな…捕虜にした類人鼠に働いてもらおう!」
戦のたびに捕らえた負傷した類人鼠たちは、捕虜村を作って幽閉していた。彼らに肉食恐竜の餌になるよりはいいだろうと交渉して、畑や牧畜の面倒を見させ、品種改良の研究をさせた。彼らは文字通り、恐竜たちの手足となった。
あの類人鼠たちは強制労働させられる奴隷だな。後の世で問題になるかも知れない。こちらの肉食恐竜もたくさん殺されて食料にされているんだが、どっちが悪い行為だと批判されるかは、時代が変わってみないとわからない。
時代か…自分のいた、現代社会のような?