墓地には静けさだけが漂っていた。
ロック家の碑の前に、彼らは静かにたたずんでいた。
「ロックにとっても、俺にとっても、ロック家の人たちは、特にジョンはかけがえのない友達だった」
勇悟の声は重かった。
ロックはうるんだ目で墓石を見つめていた。
「何がいけなかったのかしら」
ハニーがつぶやく。
「なぜこの人たちは、死ななければならなかったのかしら」
「そして・・・」
ロックもつぶやいた。
「僕たちはなぜ、こんなにつらい思いをして生きているんだろう」
MISサイキックフォースのボビーとフレッド(ハニーと呼んでと気さくに言う女子大生にならって、彼らもボブ・アレンだがボビー、フレデリック・ターナーだがフレッドと呼んでくれと言った)も、沈痛な面持ちで花束を供えた。
「この事態を予測するのは、あの時点では困難だった。すまないと思っている。ロンリーランナーにこれ以上犠牲者を出させないよう、全力を尽くすことを誓う」
ロンリーランナー(孤独な走者)?
「正気を失い、組織の意図しない単独行動を取っている現在のマーク・ブラウンを、俺たちはそういうコードネームで呼んでいる」
一人で突っ走っていると言われているのか、あの青年兵士は。
ボビーの携帯電話が鳴った。アフリカ系黒人の彼のほうが、赤毛のフレッドより上官に当たるらしい。
「LRが動いた形跡?爆破事故がそんなところで?妙だな・・・わかった、すぐ行く」
LRとはLonely Runnerの略だと、すぐに気付いた。
「マークが何か?」
尋ねる勇悟に、「ユーゴについていたほうがいいと思ったんだが」とボビーは言った。勇悟もまた、全員に「新堂勇悟。ユーゴと呼んでくれ」と言っていた。
「あいつのサイキック能力の仕業と思える爆破事件が、マンハッタンであったらしい。TNT火薬などとは違う特徴があったそうだ。情報確認をしたいというから、現場に行ってみる」
マークが市街で騒ぎを?
勇悟も腑に落ちないと思ったが、相手は正常な精神状態にない、強い能力を持つエスパーだ。モンスター映画やSFみたいに、街中で暴れたくなった可能性もある。というより、MISとしてはその疑いを持たざるを得ない。
「気をつけてね」
気遣うハニーに、調子が狂ったように笑みを浮かべて、ボビーとフレッドが「そっちも。特にユーゴは油断するなよ」と言い残して立ち去った。
昼食に行こうと移動した途中で、ロックはトイレに行きたいと走り去った。
「その辺でしないの?」
「レディーの前だからかな」
それを聞いてハニーが笑う。
「笑顔、素敵だね」
「え?」
それをきっかけに、二人はその場に立ち止まってとめどなく話した。
「普段は私も笑わないよ。今日だって大学で知人たちに会うのが苦痛で。みんなに原因があるというわけじゃないし、大学の勉強も研究も楽しいんだけど、テレパシーで考えていることが読めることを知られないように気をつけたりとか、すごく疲れることがあって」
「わかるよ」
「今日はだから気晴らしに街を散歩したくなって、そしたら空港でテロ?みたいな話を聞いて、現地に行ってみようかなって気になって、そしたらあなたたちがテレポートで逃げてきて、テレパシーで話して、テレキネシスで消火活動やって、逃げようとしたらボビーとフレッドがテレポートしてきて・・・もう、ドキドキして見入っちゃった」
興奮気味に話しながら、勇悟はハニーの胸の高鳴りを感じた。そして同じ気持が自分の中にもあることに気付いた。
話してて楽しい
隠してきたつらい思いを打ち明けて気持ちが軽くなる
同じ気持の仲間がいて嬉しい
それに目元がきれいで、いつまでも見ていたくなる
笑顔が素敵で、もっと笑ってほしいと思う
首筋が滑らかでまぶしく見える
唇がやわらかそうでキスしたくなる・・・
二人は同時にハッとなって、互いをじっと見た。
二人の魂が共鳴し、互いの喜びと、好ましいと思う気持ちが虹色の光を差し出してつながり、虹の架け橋が二人の心をつないだのを感じた。
これは、愛し合っているという気持ちだ
勇悟にしてみれば、ロックにしか感じたことのない、かけがえのない存在に出会えたという印だった。
二人は互いをしっかりと抱きしめた。テレパシーで通じ合うもの同士であり、二人とも若かった。二人は恋に落ちたのだった。
「ユーゴ、私ひとりぼっちでさびしかった」
「僕もだ。誰も愛せないと思っていた。君に会えて、本当に嬉しいよ」
口づけを交わして、涙を流した。
その瞬間だった・・・
殺してやる!
その殺意は、血に飢えた悪鬼の叫びのように、二人のオープンになっていた心に叩きつけてきた。
悲鳴を上げて飛び退いた二人の間に、マーク・ブラウンがボッと独特の音を立てて出現した。
(7へ続く)