若くして故人となった友人、Sの話。

 

 

友人のSは、嫌な奴です。
ひねくれてるというか、厭味ったらしいというか、面倒くさいというか・・・いや、全部ですね(笑)

でも、顔は割と整ってるし、スポーツ万能だし、みんな「勿体ない奴」っていう評価をしてました。

 

そのSと仲良くなったのは、大学2年の頃。
夏休みに、仲良かった教授が受け持つ一般の方向けの講座の助手をしてたんですけど、そのアルバイトが終わって、バスを待ってる時でした。

 

「暇?テニスせん?」

 

と、テニスサークルに入ってるSが声を掛けてきました。
今まで、しゃべった事あるか?・・・あるか、一言二言。っていうレベルの接点しか無かったのですが。

 

急ぎの用事も無かったし、テニス自体は少し興味あったので

 

『おう、ええよ。でも全くやった事ないけどええか?』

 

「うん、教えるわ」

 

『じゃあやるわ。さんきゅー』

 

それから3時間くらいみっちり教えられ、まぁ、何回かラリーできるようになる?くらいになったんです。


まぁ、その間もいきなりすごいサーブ打ってきたり、『本当にテニスに興味もって欲しいのか?』と疑いたくなるようなセリフを言ってきたりしたのですが、まぁ、そこそこ楽しく過ごせました。

 

『さんきゅー。楽しかったわ。そろそろ約束あるから帰るわ』

 

「おう。・・・デート?」

 

『え?あ、うん』

 

「え?ホンマに彼女おんの?」

 

『お前、見た目で判断したやろ?』

 

みたいな話をして、その日は帰りました。その日以降、助手のバイトの日は必ずテニスをして帰るようになりました。

 

1週間程経った頃、それを見ていた教授が「君もバイトする?」とSに声をかけ、一緒に助手をする事になりました。

 

一緒にいる時間が増えました。


Sは、ひねくれてて、厭味ったらしくて、面倒くさい奴です。でも、そのおかげで・・・というのも変ですが、全く気を遣う必要を感じない奴でした。

 

こちらも言いたい事言います。すると、Sが「ごめん・・・」と謝ってくるようになりました。その時に『あ、こいつは境界線引くのが下手なんだな』と思いました。

ここまでは言っていいかな?という部分ってあると思うんですけど、Sはその部分を確かめる為に全部言う、をしてるだけ。

だから、相手の反応が悪ければ謝るんですけど、大抵の人は「ははは・・・(なんやこいつ)」となるので、確かめる事なく去られちゃうんですね。
実際どうだったかは今となってはわかりませんが、そう思うと可愛げが出てきました。

 

好きな本を紹介してくれたり、漫画貸してくれたり、テニス教えてくれたり。

 

書いてて気づきましたが、なんかずいぶん献身的な奴ですね(笑)
そんな奴とは知らない周りの評価は最低でしたが。

 

 

 

そして、大学3年の秋。Sは、バイク事故で亡くなりました。

 

 

 

免許取って半年程。その日は雨で、事故多発ポイントでの単独事故だったそうです。

事故の話を聞いた時、同級生みなが唖然としていました。そして、色んな話が出ました。

 

「無茶な運転したんやろうな・・・」


「うん、あいつスピード出すの楽しいとか言うてたし」


「よく、 攻めたわ とか言うてたもんな」


「俺も運転気を付けよう・・・」

 

みんな勝手に色々思って話してます。


でも、私は知っています。Sは怖がりです。スピードなんか実際にはそんなに出しません。大事なバイクが傷つくかもしれないのに、無茶なコーナーリングなんかしません。そもそも、雨の日に運転した事自体が不思議です。だって、大事なバイクが汚れるんですから。

 

好き勝手言って、Sの過去話をしてます。


『こいつらとSの話をしても無駄だな』と思いました。

 

そして、お葬式の日が伝えられました。
私は、行かないつもりでした。

またいつか詳しく話す事があるかもしれませんが、私が絶対に行かないと決めているものが2つあります。


お葬式と結婚式です。なので、Sのお葬式も行かないつもりでした。


でも、当時はまだ今ほど意思も強くなかったので、他の友人に


「え?行こうよ。そもそも仲良くなかったっけ?」


「仲良かったからこそ行きたくないとかあるかもしれんけど、行かな後悔するで?」

 

とかなんとかやたらと言われ、行かない理由をちゃんと説明するのが面倒になり、結局行く事になりました。

 

同級生たちは神妙な面持ちでいます。女の子の中には、泣いてる子もいます。

いや、お前ら涙出す程接点無かったがな。そもそも、避けてたやん。

 

Sがバイクを乗るきっかけになった友人のHは、泣きながらこう言いました。


「俺がバイクの事話したばっかりに・・・」

 

いやいやいや、あいつめっちゃ楽しそうやったで?
免許取ったとき、敵の大将の首取った時みたいな誇らしい顔で見せにきたで?
バイク興味無い私に「免許取らへんの?」とか遠回しに誘ってきたで?

幽霊がいるとは思ってないけど、仮に幽霊になってその辺にいるにしたって、「バイク乗らんかったらよかった・・・」って思ってると思えんけど。


何勝手に自責の念に駆られとるんや・・・。

みんな、盛り上がったり盛り下がったり、勝手です。

 

友人のSは、嫌な奴です。
ひねくれてるし、厭味ったらしいし、面倒くさい。

 

でも、私の人生で唯一、一切気を遣った事が無い友人です。
昨日、大学の同窓会(オンライン)をしたのでSの事を思い出し、思いつくままに書きましたが、案外理想的な友人関係だったのかもしれませんね。

 

 

 

二人の障害児の父
すけじろう