ドラマ『震える岩』はなかなかよく出来ておりました。そんな訳で―。

 

「天狗風―霊験お初捕物控《二》

宮部みゆき著 講談社文庫

(564頁)

 

 今回は"サイコメトラーお初(オハツ)の冒険”を描いた第2弾でございます。

 

 本作では、『震える岩』でお初のバディを務めた古沢右京之介(フルサワ・ウキョウノスケ)が、何とか父の許しを得て、奉行所から退いております。

(前作では父親と揉めに揉めてましたしねニヒヒ

 

 ※※※※

 

 お初義姉・およしが切り盛りする一膳飯屋《姉妹屋》の元へ、久々に右京之介が顔を出しました。彼は南町奉行・根岸肥前守鎮衛(ネギシ・ヒゼンノカミ・ヤスモリ)からの言伝(ことづて)を携えておりました。

 

 奉行が二人を招待したのは、屋形船を仕立てての夜桜見物―。

 ただし、この桜というのが‥‥‥。

 

 ―根岸肥前守鎮衛は怪異や不可思議を集めた奇譚集《耳袋》の編纂者でございます。本作は"それらのお話の中にお初の活躍も記されている”という設定なのでございます。

 そして今回、お初・右京之介コンビとお初の兄・六蔵ロクゾウ)親分が挑むのはずばり、"神隠し”でございます。

 

 

 

 奉行から指定された船宿へ行き、そこから屋形船に乗ったお初右京之介―。

 

 奉行はなかなか現れず、二人の間は気まずい空気が流れます。

 まだ年若い二人ですが"船宿”という場所がどう言う場所かは知ってはおりますニヒヒ

(つまり、"そういう場所”です)

 

 人には見えぬモノが見え聞こえぬ声が聞こえるお初ですが、"男女の事”に関してはからっきしです。対する右京之介も、草食系の眼鏡男子でございます真顔

 

 別な船でようやく合流した奉行は一人の町方役人を連れていました。

 

 柏木と名乗ったその年配の同心は、"高積改役(たかづみあらためやく)”という役職に就いています。

 

 ―この高積改役というのは、市中を見回り商家や工事現場などで荷物を高く積み過ぎたりしていないかをチェックするのが仕事です。

 同じく街々に目を光らせる"定町廻(じょうまちまわり)”は犯罪捜査や取り締まりが仕事でしたから、それに比べると明らかな閑職でございます真顔

 

 

 

 この柏木という男は、市中見廻りにかこつけて殆ど番所(=事務所)に顔を出しません。彼は自分の職場が嫌いなのです。

 

 物好きな奉行が、この"役所嫌いの下っ端公務員”に興味を持ったのが今回の縁でもございました。

 

「この男は、町方が陥りがちな事件解決の方法に疑問を持っているのだよ」

 

 奉行からそう言われたお初には、柏木の真意が薄々わかります。

 彼女の兄・六蔵もお上の御用を務める岡っ引きですから―、

 

 逮捕した下手人が罪を認めない場合に、しばしば暴力的な手法が用いられる事は知っています。そして、それが時に冤罪を生んでしまう事も―。

 

 

 

 とある町にある下駄屋・政吉(マサキチ)の娘が不意に姿を消しました。

 こういう場合に真っ先に思い浮かぶのは、やはり家出でございます。しかし―、

 今年17歳になるその娘・おあきは惚れ合った相手との結婚を目前に控えていました。

 

「真っ赤な朝焼け――本当に切ったばかりの傷口から流れ出る血のように赤い朝焼けだったそうだ。その朝焼けのなかに一陣の物凄い風が吹き、その風がおさまったとき、おあきは姿を消していたという。娘の家出とはかんがえられないではないか」

 

 元々懇意であった政吉から事情を聞いた柏木は、そう話しました。

 それを聞いても、なお『いや、やっぱり心変わりとかあるんじゃないかしら』と思うお初なのですが―、

 

 確かに政吉の言葉が真実なら、紛れもなく"霊験”お初の出番ではあります。

 

 そして、ここで話題が奉行の最初の言葉に帰っていきます。

 

 一人の、年頃の娘が姿を消した。勿論、奉行所は簡単に「おあきは神隠しにあいました」と済ますことは出来ません。

 

 さらに、おあきの嫁ぎ先であった長井屋という料理屋から横槍が入りました。

 

 嫁に来るはずの娘が急に姿を消した。その現場にいたのは父親の政吉だけ―。

 いの一番に疑うべきは、やはり政吉なんです。

 

 加えて、長井屋には強力な手駒がありました。血縁に辣腕(らつわん)で知られる倉田主水(クラタモンド)という同心がいるのです。

 

 ―この倉田主水は手がけた必ず事件を解決するというお役人でございます。

 

 この場合の"解決”とは、きちんと記録に残せるよう調書を取るというという事でございます。もっと言えば、"誰もが納得のいくような筋書きにしてしまう”事も辞さない男なのです。

  

 お初は、もっと詳しく―出来れば政吉本人から当時の状況を聞いて、そして"視て”みたいと思いました。

 

「だが、それももかなわぬ」

 

 倉田の取り調べが余程キツかったのか、政吉「娘は神隠しにあった」という前言をひるがえし、そのすぐ後に自死しました。

 

 そこまで聞いて、ふと右京之介柏木に尋ねます。

 

「柏木様は、その神隠しを信じておいでなのですか?」

 

 信じるのなにも、柏木は幼い頃に神隠しにあっていました。

 実時間で半年もの間、彼は桜が怪しく咲き誇る不思議な場所にいたのです。

 

 ※※※※

 

 その後、別の娘が同様に失踪してします。

 

 お初は"神隠し”を証明し、二人を助ける為―、

 魔風を操る怪異に立ち向かうのです。