ウォーレン上院議員のISDS批判の背景と戦略が明らかになってきた。
ウォーレン議員は、「いかがわしい同盟」(注1)と言われている共和党保守派と茶会党にも呼びかけている。CNNの報道やオーストラリアのボブ貿易相は、反TPPは、民主党リベラルが結集する旗印になりつつあり、その相手はオバマ大統領でありヒラリー・クリントン前国務長官であると語っている。つまり、ウォーレン議員は2016年大統領選挙候補をうかがっているのが明らかになってきた。


 折しも、クリントン氏は、クリントン財団のHSBCスイス口座に、同行の顧客の外国人口座から寄付金が振り込まれていること(注2)、国務長官時代、自宅のサーバーを使用し公務に利用していたことが発覚して(注3)、4月に決意表明するとの話も怪しくなっている。


 上院財政委員会のハッチ委員長(共和)とワイデン民主筆頭理事とのTPA草案の話し合いは、貿易協定の透明性を求めること、そして締結後でも審査を行いたいというワイデン議員の要望が通らず、暗礁に乗り上げている。ワイデン議員としても、賛同できる民主党議員の票集めと、自分の2016年改選選挙問題を抱え、ハッチ委員長に安易な妥協はできない。(ボーカス元委員長の失脚時と同じ状況をむかえている。)


 TPPおよびTPA問題は、エリザベスとヒラリーの戦いの様相を呈してきた。


3月12日CNN
エリザベス・ウォーレンの貿易に関するオバマ(とクリントン)への挑戦
http://edition.cnn.com/2015/03/11/politics/elizabeth-warren-obama-hillary-clinton-trade/
(要約)
 ウォーレンと一緒に戦う、伝統的な民主党員への献金凍結を行ったAFL-CIOに支持され、大規模な貿易交渉を止めるウォーレンの圧力は、オバマ大統領とヒラリー・クリントンの頭痛の種になった。

 ISDSは多国籍企業による国家主権侵害になると、3月11日民主党リベラルが主催する電話会議で「全ての人々への警鐘を鳴らした」。民主党の大統領リベラルにも社会保守グループ(注4)にも影響を及ぼす。この動きに、フロマンUSTR代表はすぐ反応し、ザイエンツ委員長声明と同様の声明を出した。


 ウォーレンの動きは、オバマ大統領のTPP協定を遺産として残す計画を狂わせた。強化されたNAFTAと呼んだこの貿易協定へのリベラルの反対は、クリントンの2016年大統領選への大きな挑戦となった。クリントンはオバマ政権で国務長官としてTPPを指導してきた。


 ウォーレンは、アメリカの主権を信じる保守にも、リベラルにも、彼女を支持するよう頼んでいる。(いかがわしい同盟;“an unholy alliance” )オバマを疑っていて、どんな権力も与えたくない2ダース以上の保守と茶会党がいる。ホワイトハウスと下院共和党指導者はTPAを支持するが、左右のポピュリストはオバマには不適当だと言っている。


 TPPの交渉期間中のオバマ政権後期あるいは次期政権初期において、一斉にTPA論争を開始することになる。(この記事の筆者は次期政権までを想定している) 為替操作や自動車の輸入障壁を除きたいと訴える議員がいるが、何も得られないだろう。リベラルは労働と環境問題、保守は企業の知財の保護と外国企業の米国への挑戦能力に関心を持っている。


 ウォーレンは上院で最も目立つ批判家で、デラウロ下院議員はTPP問題について何年もこつこつとやってきた。(注5) ウォーレンは、「もし米国の交渉者が、強い貿易協定を持ったと確信するならば、それらの経緯を見せる時である」と語った。さらに「この問題を解決したと確信するならば、全ての新しい基準を明らかにする必要がある」と。


オーストラリア・ロブ貿易相の発言(要旨)
シドニー・モーニング・ヘラルド3月12日
http://www.smh.com.au/federal-politics/political-news/make-or-break-for-vital-trade-agreement-with-united-states-andrew-robb-20150312-141hby.html
 オバマ大統領のアジア・ピポット政策を支える巨大な貿易協定はあと数週間で終わるだろうとロブ貿易相は語った。しかし、ヒラリー・クリントンから左寄りの有権者の支持を求める立場をとる、ワイルドカードの

主党エリザベス・ウォーレン上院議員のおかげで、米議会からの承認手続のファストトラックを実施するのに失敗した。
(略)
 ウォーレンのTPPに対する猛烈な攻撃は、2016年11月大統領選挙の前までの、政治機会の現実的な窓が開かれている間に貿易協定を終結させるのに必要なファストトラック権限をオバマ政権に与えることを妨げた。彼女の干渉は、全ての政治を変えるのに極めて重要であった。彼女が潜在的に大統領選問題になるTPPの鍵となる要素に反対するならば、中途半端な民主党員を議会で整列させることを意味する。来月あたり、運命を決する時になる。
(略)
 ウォーレンはクリントンに対する挑戦者として言われている。彼女は秘密のTPP交渉とISDS条項を狙った。
(略)
 ロブ貿易相は、医薬品の特許問題について、オーストラリアの保険制度に悪影響のあることを受け入れるつもりはないと、語った。


TPA法案の準備状況と主要議員の動き


ワイデン上院議員(財政委員会民主党筆頭理事)への要求
SEIU(公共労働者、大学職員などの組合)の報道
http://www.seiu503.org/2015/03/politico-wyden-fast-track-article/
 現在議会で交渉が行われている数十年来の貿易協定のためのファストトラック保護を外すのを簡単にする。それは、一括採決の保障をしなければ米国が他国の信頼を得ることができない。
 貿易交渉権限(TPA)の協議は、上院財政委員会のハッチ委員長と民主党のワイデン筆頭理事の間で行われている。
 ワイデンは、2002年と1988年のファストトラック法と2014年のボーカス・ハッチ・キャンプTPA法案のファストトラック権限基準を外す提案をしている。 ワイデンがファストトラックに立法の変更性の削減を求めている変化に恐れているとハッチは語った。「妥協点があるとは思わない。」

 ワイデンは先月、時代遅れの、不透明な、秘密主義の基準を改革し、議論を通して議会の監視を活発にしなければならないと、語った。
(略)
 ワイデンがNAFTAを支持したこと、2002年TPAおよびその後のほとんどのFTAに賛成票を投じたことを紹介している。(ワイデンは自由貿易主義者と言われている) ワイデンが他の民主党員のへの影響力を発揮できるかという期待もあるが、共和党も疑問に思っている。

 全米製造業協会(NAM)のデンプシーは、「核心的なTPAの変化は、イデオロギー的に貿易協定に反対するグループにとって十分ではない」と語り、AFL-CIOのドレークは、TPAに根本的な変化が必要だと語っている。


ブルームバーグ報道、リード院内総務がウォーレン側に付いているとの記事
http://www.bloomberg.com/politics/articles/2015-03-11/warren-says-trade-deal-may-force-u-s-payouts-to-overseas-firms


The Hill 2015年3月18日 怒る民主党議員を前に、ホワイトハウスは貿易協定機密文書の制限を緩めることに
http://thehill.com/policy/finance/236114-white-house-provides-more-access-to-trade-deal-details

@outlet24さんの訳
http://www.twitlonger.com/show/n_1sla548

下院民主党のペロシ院内総務は、透明性を求める民主党議員に理解を示している。2007年5月10日合意と2008年4月10日のペロシ議長の行動(下記)から、TPA,TPPに対する姿勢が推定できる。
http://ameblo.jp/study-houkoku/entry-12000912680.html



(注1)いかがわしい同盟(下記ブログ中、FT(フィナンシャルタイムズ)記事)
http://ameblo.jp/study-houkoku/entry-11694866649.html


(注2)
ブルームバーグ 2015年2月9日
かつてのHSBC秘密口座リストに王族からテロ容疑者まで
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NJHEPY6S972M01.html


(注3)
日本経済新聞 2015年3月11日
クリントン氏「規則を完全順守」 私用メール問題で釈明
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM11H1Y_R10C15A3EAF000/
時事通信 2015年3月21日
個人サーバーの引き渡し要求=クリントン氏メール問題-米下院委員長
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201503/2015032100115&g=int


(注4)社会保守グループ
フィリス・シュラフリーに代表される右派の保守(支援するのは共和党議員)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%A9%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC


(注5)デラウロ議員は毎年反TPPの下院議連をまとめてきた。今年1月9日には下院民主党議員151名の署名を集めオバマ大統領に書簡を送った。)
デラウロ下院議員のHP
http://delauro.house.gov/index.php?option=com_content&view=article&id=1455:delauro-miller-lead-151-house-dems-telling-president-they-will-not-support-outdated-fast-track-for-trans-pacific-partnership&Itemid=21


3月20日 甘利大臣の記者会見
http://www.cao.go.jp/minister/1412_a_amari/kaiken/2015/0320kaiken.html
(問)TPPのスケジュール感について
(答)アメリカに関して言えば、オバマ大統領が自身にとっての最大の案件ということを宣言されているわけであります。そして、その最大の案件をオバマ大統領の任期中に処理していくためには、TPA法案が早期に可決するということが必須であります。しかも、反対しているのがオバマ大統領を本来支えるべき与党・民主党でありますから、与党の反対に対しては、大統領自らが、あらん限りの努力をしていただきたいと、関係国としては思っております。
 日本のみならず、他の国がTPP合意にとって必須案件はTPAの成立であるという認識でありますから、最大限の努力をしてもらいたいと思います。


(問)日米間では総理訪米の前に閣僚間で決着したいというのはTPAが通るというのが前提か。
(答)まずは、日米首脳会談を行う際には、最大案件以外は解決のめどがしっかり立っているということが必要だと考えるわけであります。そのためには、TPA法案の少なくとも見通しが立たないと、TPAが全く見

通しが立たない中で日米を決着させるというのは非常にハードルが高いと担当大臣としては思っております。

(以上甘利大臣記者会見抜粋)


 民主党のトップのリード上院院内総務とペロシ下院院内総務はTPAとTPPに慎重であり、デラウロ下院議員が取りまとめたTPP反対署名の151人の民主党下院議員等の統一戦線が出来上がってきている。オバマ政権で国務長官を務め、TPPを推進してきたクリントン氏は、この統一戦線に入ることができるだろうか。また、ウォール街や民主党支持のセレブ達の支持を受けるクリントン氏がこの統一戦線に入ることを困難にしている。オーストラリアのロブ貿易相が語るように、まもなくこの4月に決断の時が来る。


混迷する米議会、反TPA議員の票読み


 民主リベラルと共和右派とのいかがわしい同盟(注1)の票読みを直近の投票事例から推定する。下院での2015年度国土安全保障省(DHS)歳出予算審議の経緯を紹介する。

 アメリカの下院の議員総数は435人、民主党188人、共和党237人であり、過半数は最多218人である。(可決は出席者の過半数)
 
 共和党内ティーパーティ派(茶会党)とは、草の根のティーパーティ運動団体が支援・推薦する政治家であり、メンバーも議会内で議連としては発表されていなく、運動団体や報道の発表による。2010年中間選挙で、60人の下院議員を当選させたと言われ、2014年中間選挙では、当落の出入りがあったものの48人の勢力を維持している。茶会党は、大きな政府に反対し、オバマケアや移民法改正などの政策を推進するオバマ大統領には、徹底抗戦の構えである。TPA法のように、大統領権限を強化することには、強い拒絶反応を示す。2013年より、政治信条が正反対の民主党リベラルと共和党の保守+茶会党が、TPA法案については「いかがわしい同盟」を結ぶだろうと言われていた。その同盟の可能性が高まったのが、DHS歳出予算案の採決であった。


2014年中間選挙、茶会党当落名簿(IREHRの調査)
下院当選者は48人、現在の第114議会議員
https://www.irehr.org/issue-areas/tea-party-nationalism/tea-party-news-and-analysis/610-tea-party-election-2014


下院のHP
第114議会の投票結果の一覧は下記。
http://clerk.house.gov/evs/2015/index.asp


DHS歳出予算案の共和党内茶会党議員と保守の投票行動

2月27日 
投票104番「共和党提出の3週間暫定予算に反対した共和党議員」

茶会党21人、保守31人、合計52人(民主党は172人が反対)


3月3日 
投票109番「DHS本予算に反対した共和党議員」
茶会党40人、その他127人、合計167人
(賛成;共和75+民主182、反対;共和167)


 投票104番が「いかがわしい同盟」の典型的な例である。共和党が提出した3週間の暫定予算案に対し、民主党と同一行動を取った共和党議員は52人。上記IREHRの名簿と付き合わせると、21人の茶会党議員がいる。そして、投票109番では、反対票を投じた茶会党は40人になる


茶会党のTPA推進議員

 茶会党の48人の内の6名が自由貿易推進派であることが分かった。さらに、DHS本予算に反対した茶会党40名に4名が名を連ねている。
ウォルターズ議員のHP
https://walters.house.gov/media-center/press-releases/rep-walters-rep-emmer-send-pro-tpa-letter-president
26人の共和党新人議員の署名を集めて大統領にTPA推進の書簡を送った。


民主党の票
 1月9日、151人の民主党議員が、TPA法案とTPP協定に反対声明を出した。(注5参照)

TPA反対票の推定

 以上を集計すると下記のように、TPA反対票が過半数を超える可能性がある。選挙区支持母体からの民主党議員への圧力が強まれば、さらに反対が増える。


投票104番(最強硬派)、茶会21+保守31+民主151=203人
投票109番、茶会40-TPA推進4+保守31+民主151=218人


上院のTPA法案準備状況

 共和党のハッチ財政委員長と民主党のワイデン筆頭理事との考え方の違いが大きく法案調整の見通しがついていない。 この法案は超党派で提出しなければ、議会運営中の討論終結などの動議(クローチャーモーション)可決に必要な60票に達しなくブロックされる。(共和党は54人)ハッチ委員長が共和党単独でTPA法案を出せば、法案の最終採決(過半数)に行く前にブロックされる。


結論
第114議会におけるTPA法案の審議・可決は、困難を極める。
(2002年TPA法は、下院で1票差で可決、成立まで10ヶ月要した。)


3月15日債務上限引き上げ問題と2016年度歳出予算審議開始の、第二ラウンドのゴングが鳴った。


米連邦債務上限問題が再燃―共和党内分裂で複雑化
WSJ 2015年3月14日
http://jp.wsj.com/articles/SB10030317691824024149004580516773418388074
 このままならば15日には到達してしまう米連邦政府の債務上限をめぐる政治的駆け引きが再燃している。以前の駆け引きと同様、党利党略と瀬戸際戦略に基づく戦いになりそうだ。

 米財務省は、現在の上限のままでもその到達を先に延ばす具体的な準備を始めた。この財務省の緊急対応と歳入が前回の景気後退以来最も多くなる見通しから、上限の引き上げなしにもある程度の先延ばしが可能なようだ。一部の試算では、ある部分の年金支払いを中断するなどの例外措置を使えば上限到達を10月ないし11月まで先延ばしできる。

 今回については、上限引き上げの交渉を複雑化させかねない二つの力学が働いている。今や上下両院を支配する共和党がその賛否について内部分裂していることがその一つだ。共和党長老議員らは、デフォルト(債務不履行)転落の脅しをせずに上限を引き上げると公約しているが、それは政治的にまずいとみる同党の一部議員が反乱を起こす様相だ。もう一つは、交渉期間が来年度予算の承認期限の今秋まで続く可能性もあることだ。(以下省略)


米共和「9年で財政赤字を解消」 下院、独自の予算決議案
日本経済新聞 2015年3月18日
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM18H1D_Y5A310C1EAF000/

米上院共和党が16年度の予算決議案公表、国防費で下院案と隔たり
ロイター 2015年3月19日
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0MF0CF20150319



ハワイTPP交渉
 ハワイでのTPP12ヶ国会合の情報も少なく、マスコミは想像記事を掲載している状況。各国が米国のTPA法案の成立を待っていると思われる。

 3月12日、国際貿易女性協会;The Association of Women in International Trade (WIIT)の式典に招待されたサピロ前USTR次席代表が、「大統領がTPAを得るまでは、アジアもヨーロッパの交渉相手も、最終合意に達するのに必要な本当のギブアンドテイクに入りたくない。彼らは待っているだけだ。」と語った。
http://wiit.org/wiit-chamber-celebrate-international-womens-day/


この行事には、カトラー次席代表代行も出席していた。
カトラー氏の行動は下記。
3月5日、6日 大江首席交渉官代理と二国間交渉
3月8日~11日 韓国訪問 米韓FTA3周年記念行事など
3月12日 ワシントンでWIITの式典に出席
(ハワイの12ヶ国会合には出席していない。ハワイ会合の後半からベッター農業首席交渉官(次席のランクで大使待遇)が出席)


韓国中央日報の下記記事では、「今年公職を離れる予定のカトラー氏」と紹介されていた。
http://japanese.joins.com/article/637/197637.html

この記事によれば、カトラー氏は、韓国にTPP参加のアドバイスをしているようだ。
そして、韓国政府担当者はハワイで各国の交渉官との接触を試みている。
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201503/2015031400234&g=int