先のタカラジェンヌの話のついでに、世界のダンス冒険を主題にした私の創作童話「新ちから姫」の中で、宝塚歌劇団とミュージカルについて語っている個所を抜粋する。この童話の中では、楓彩さんをイメージモデルにした‘アヤラー’という登場人物が出てくる。

(返す返すも小説投稿サイト「ハーメルン」がロックされて、童話「新ちから姫」全体を見てもらえないのが残念である!!!)

 

 

童話『新ちから姫』(SF編) 第23話 あるタカラジェンヌとの出会い

 

 

 そのオペラ劇団の中の一人の女性が、TS劇団の中で特にオペラに興味がありそうな二人、ユイリィとアリンスに声をかけてきた。

 彼女の名前はアヤラ―と言った。オペラ劇団はフランス人ばかりと思っていたが、彼女は人種が違っている。本人は自分のことを日本人という。

 彼女は、日本の宝塚歌劇団に入っていて、歌の勉強をしていた。エリート教育の一環として、ヨーロッパのオペラを勉強するために宝塚歌劇団から派遣されたのだと言う。そして、派遣先はオペラの本場先進国であるイタリアかドイツのはずだった・・・ところがどうしたことか、フランスのオペラ座へ。しかも、時代が昔になっていたというのである。

 

 ユイリィはハッとした。「やはり時空間が乱れている!アヤラ―は遠い日本の国から、そして時代を越えてタイムワープしてきたのだ。」

 ユイリィは、アヤラ―と逆の方法を辿れば、ちから姫一行を現代の日本にタイムワープすることができるだろうと考えた。

 ところが、アヤラ―には記憶がないと言う。派遣の準備をしているまでは記憶があったが、「さあ行くぞ!」と寝床の中で思った瞬間、いったい自分がどうやってタイムワープしてきたのか皆目見当がつかなかったのだ。

 

 いずれにせよ、これから先のヒントを求めて、ユイリィとアリンスはアヤラ―にこれまでの話をしてもらうことにした。

 まずは、アヤラ―の所属団体である宝塚歌劇団のことを説明してもらった。

 最初に、アヤラ―は自分のことをタカラジェンヌだと言った。タカラジェンヌは宝塚歌劇団のメンバーのことを指す。その言葉の響きがフランスらしくてオペラ座のみんなを喜ばせているようだ。タカラジェンヌは宝塚歌劇団の創業者である小林一三が発案したもので、宝塚と「パリジェンヌ(フランス語: Parisienne)」を合成した言葉であり、おしゃれな団員をパリジェンヌのイメージに連想したものである(和製の合成語であって、フランス語としては正しくない)。

 

 宝塚歌劇団は、日本の兵庫県宝塚市に本拠地を置く歌劇団である。阪急電鉄創始者の小林一三が、三越少年音楽隊や白木屋少女音楽隊に想を得て、1913年(大正2年)に結成した宝塚唱歌隊を前身とする。そうした沿革から、歌劇団員はすべて阪急電鉄の社員として雇用契約されている。大正3年(1914年)に初の公演がなされ、そのときの演目は桃太郎を題材とした歌劇『ドンブラコ』だった。

 舞台に出演するのは宝塚音楽学校の卒業生であり、全員が未婚女性である。団員は、歌劇団付属の宝塚音楽学校で予科1年・本科1年のあわせて2年間の教育を受ける。その宝塚音楽学校の2年課程を終えて、卒業認定されたのちに入団式を経て、正式に宝塚歌劇団の研究科1年生(研1生)となる。本人の技量や容姿などの理由で歌劇団から入団を認められないこともある。

 入団した研1生は、初舞台公演を経て、組の所属が決定する。これを「組配属」と呼ぶ。現在は花(はな)・月(つき)・雪(ゆき)・星(ほし)・宙(そら)の5組と、いずれの組にも所属しない専科に分かれている。

 なお、生徒は未婚でなければならないため結婚、健康、経済など諸事情で今後の活動が困難となった場合は、歌劇団を退団する。退団と同時に阪急電鉄との雇用契約も消滅する。

創設の当初から「老若男女誰もが楽しめる国民劇」を目指し、日本で初めてレヴューを上演した劇団として、一躍有名になった。現在も、健全かつどの世代の人が見ても楽しめる演目を中心に、芝居(ミュージカル)やレヴューを上演し続けている。ジャンルは古今東西を問わず、歴史劇、ファンタジー、SFなど多岐にわたる。

 現在は、兵庫県宝塚市にある宝塚大劇場と、東京都千代田区にある東京宝塚劇場を中心に公演している。

 

 アヤラ―の説明にアリンスが興味を示した。

 宝塚歌劇団の一番のポイントは徹底的に歌を鍛えること。その点はオペラに共通している。

しかし、アヤラ―の説明を聞くところによると、オペラとは違った舞台の華やかさがある。なんか、バレエとオペラの中間に位置しているような気がしてきた。アリンスは舞台俳優として興味津々になった。

 アヤラ―は、アリンスの疑問に答えるために、現代にはミュージカルという新しい芝居が出来ていること、宝塚歌劇団はむしろミュージカルに近いことを話し、そして、まずオペラとミュージカルの違いについて説明してくれた。

 

 最初に、それぞれの発祥の経緯について話すわね。

 既に述べたように、「オペラ」は、16世紀末にイタリアで生まれました。その後、ドイツ、フランスへと広がりました。「オペラ」はもともと、貴族や上流階級などの富裕層向けに上演されていました。ですから、大衆がオペラを観る機会はありませんでした。

 そこで、19世紀半ばにフランスで「オペレッタ」という舞台芸術がうまれました。「オペレッタ」では、地のセリフが多用され、楽しい題材が扱われました。庶民も楽しめるものにするためです。

 そして、「オペレッタ」の影響を受け、題材をさらに日常的にし、ポピュラー音楽を増やしたものが「ミュージカル」なのです。19世紀後半にアメリカのブロードウェイで発祥しました。「ミュージカル」はすごく新しい舞台芸術なの。

 だから、「オペラ」から「オペレッタ」がうまれ、「オペレッタ」が派生して「ミュージカル」が誕生したことから、「オペラ」が発展したものが「ミュージカル」であるともいえるわね。

 

 オペラとミュージカルは、どちらも舞台で行われます。また、歌が披露される点も共通している。

 しかし、両者には3つの相違点があります。

 

 一番大きな相違点は、音楽の特徴ね。これを、歌の占める割合・歌唱法・音楽の種類という3つの観点に分けて解説するわね。

●歌の占める割合が、あくまで「オペラ」は歌がメインなのに対し、「ミュージカル」は歌だけでなく、ダンスや劇も披露されること。

「オペラ」は日本語で「歌劇」と訳されるように、歌が最も重要視されます。そのため、地のセリフはほとんどありません。セリフも含めて歌で表現されるのです。また、ほとんどの作品には踊りが含まれません。踊りが披露される場合は、歌う人とは別にダンサーが登場し、バレエを踊ります。

 一方、「ミュージカル」では、歌だけでなく、劇や演技、ダンスも重視されます。ですから、歌以外に地のセリフもあります。また、役者が歌いながら踊ることも多々あります。

●次に、歌唱法の違い。「オペラ」はマイクを使わず、特殊な方法で歌うのに対し、「ミュージカル」はマイクを使い、ポピュラー音楽の歌唱と同じように歌うこと。

「オペラ」では、歌はマイクを通さずに披露されます。後方の席に座る観客まで声を届けるためには、声量が求められます。そのため、オペラ歌手は、のどに負担のないように、横隔膜をゆっくりと上下させて歌います。この方法を「ベルカント唱法」といいます。

 一方、「ミュージカル」では、演者はマイクを通してセリフを発したり、歌唱したりします。マイクの力を借りる理由は、「ミュージカル」では、歌唱だけに体力を使うわけにはいかないからです。

●「オペラ」と「ミュージカル」では、劇中に使われる音楽・歌の種類も異なります。

「オペラ」では、クラシック音楽が用いられます。しかし、「ミュージカル」で登場する歌や音楽の種類は多岐にわたります。たとえば、ジャズ、ポップス、民族音楽などが挙げられます。

 

 その他にも、「オペラ」と「ミュージカル」はストーリーの特徴に違いがあります。「オペラ」は悲劇が多く、「ミュージカル」には娯楽的なものが多いという点。ただこれはそういう傾向があるというだけで絶対ではありません。

 また、「オペラ」と「ミュージカル」は、運営スタイルも大きく異なる。

 公演の頻度を見ると、「オペラ」は公演の頻度が少ないのに対し、「ミュージカル」は公演の頻度が多いことがあげられる。これは「オペラ」ではマイクを通さず歌が披露されるから、一度の公演でオペラ歌手はかなりの体力を消耗します。このため、同じ歌手が2日連続で舞台に上がることはない。また、ひとつの作品の公演が長期間続くこともない。

 一方、「ミュージカル」では、1日に複数回公演が行われます。また、公演は、千秋楽まで数か月間続く。「オペラ」よりも上演スケジュールが過密かつ継続的なのです。

 そのため、劇場を運営する際の経済的な基盤も、両者間で異なってくる。「オペラ」は上演頻度が少ないことが特徴であるため、チケット収益のみで劇場を運営することは困難です。そこで、国や地域からの補助や民間寄付を得て経営を安定させます。

 一方「ミュージカル」は、公演の頻度が高いことが特徴であるから、観客が支払うチケット代のみで劇場を運営することができます。

 

 こうした色んな違いや経緯が、新しい芸能を作り出していくことを学びました。

 アリンスは、宝塚歌劇団にもミュージカルにも興味を強く示し、いずれ生で学びたいと思った。

 新生TS劇団は、「私たちはこのままでいいのか」「新しい何か別のことを取り込んでいかなければいけないのか」等…こうして自分たちの進むべき道を模索し始めました。

 いずれ、アリンス始め、ちから姫一行はストリップの世界に飛び込むことになるが、こうした知識や経験はストリップに活かされていくことになる。

 

 新生TS劇団はさまざまな劇団や人と出会い、交流を深めることで、お互いに刺激し合い、芸を磨いていくことになる。なによりTS劇団メンバー個々人のレベルがぐんぐん上がっていった。

 

                                    おしまい