帰宅願望は認知症のBPSD(周辺症状)のひとつです。
基本的な対応方法として、「帰宅願望の裏にある本人のストレスをケアすること」「なじみの関係や居心地の良い空間を作り、本人の居場所だと思ってもらうこと」がよくあげられます。
残念なことに介護職員の中には「帰宅願望自体が問題だ」と思う人が一定数存在します。
確かに一日何回も利用者様に「なんで家に帰れないの?」と責められるのは辛いし、もしも施設から一人で出て行かれたら行方不明になる危険もあるので、ついつい問題だと思ってしまうのでしょう。
その気持ちは痛いほど分かります。
しかし、問題のポイントを間違えればその後の対応も間違ってしまいます。
ここで誤解がないように説明すると『帰宅願望』自体に問題があるのではなくて、帰宅願望があるということは必ず何かストレスを抱えているということです。
それを放置することに問題があるのです。
あくまでも問題はストレスの方です。
ではそのストレスとは何でしょうか?
問題解決の第一歩として、利用者様本人の言葉を聞いてみましょう。
「夕飯の準備をしなくちゃいけないから。」
「泊まるお金を持ってないから。」
次に言葉に出た不安をやわらげる声かけをしてみます。
「夕御飯は今うちで作ってますよ。」
「お金は家族さんが払ってくれてますよ。」
ここで解決する場合もありますが、そのケースは少ないです。
何故かというと、言葉に出た不安は実は帰る為の方便であることが多いからです。
施設では、外も自由気ままには出かけられない。
多くの知らない人との集団生活。
出される料理も決まっている。
入浴する時間も曜日も決まっている。
そう!施設生活は人によってはストレスのオンパレードなんです。
とても一朝一夕で解決するものではありません。
コツコツ信頼を積み上げ、関係性を築いていくしかないんです。
利用者様の趣味や得意なことを情報収集し、一緒にしたり、やって頂いたりする。
好きな飲み物を提供する。
お話しできるタイミングで
本人の話したい話しを聞く。
家にあるなじみの物を居室に置く、家族様の写真を置く。
好きな音楽をかける。
人員不足で忙しい中、トライアンドエラーを繰り返していくしかないんです。
ここまで読むと問題解決の近道はないのでは?と思うかもしれませんが、
実はあります。
それは情報と技術を蓄積していくことです。
トライアンドエラーの結果を記録に残し、共有し、次に帰宅願望のある利用者様が入所した時の助けとする。
当然一人ひとりストレスの原因も個性も違うので、以前に蓄積したノウハウを全て活かすことは出来ませんが、必ず活かせる部分はあるでしょう。
そしてその経験をまた蓄積し、次の利用者様の対応に活かす。
これを繰り返すことで、職員みんながスペシャリストとなり、問題解決のプロとなっていくのです。
それこそが近道だと私は思います。
利用者様のために、施設全体のために、そして介護業界のために、情報と技術の蓄積を。
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