唱歌「花」の歌詞について | ボラとも先生のブログ

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このブログは日本語ボランティアを始めた人、やっている人が疑問に感じたこと(特に文法など)について説明するために作りました。

ボラQ82:教室のみんなと近くの公園に行って、そこで花見をしながら唱歌「花」を合唱しました。帰ってから歌詞について簡単に説明したのですが、2番の「みずや」は「水や」だと思っていたら「見ずや」だと知って驚いたそうです。この「見ずや」はどう説明したらいいでしょうか。


ボラとも先生A82:この「見ずや」は「見ないのか」という意味で、「いや、見るべきだ」、「ぜひ見なさい」という「反語」を表しています。「花」の歌詞に関する詳しい説明は以下のサイトをご覧ください。


http://www.niigata-u.com/files/oita/tk_hana.html

http://www.worldfolksong.com/songbook/japan/hana.htm

http://oshiete.goo.ne.jp/qa/1914062.html


「反語」は「修辞的疑問文」(rhetorical question)とも言われ、相手に問いかけることで自分の主張を強調する方法です。「反語」と言うことからわかるように、肯定の内容を強調するときは否定で、否定の内容を強調するときは肯定で問いかけるのが普通です。


この「反語」という方法はどの言語でもよく見られる現象で、特に感情を高める必要のある詩や文学作品に多く見られますが、以下のように日常生活でもよく使われます。


①「桜の花、見ない?」(疑問文=勧誘)

A)「桜の花、見ないの?」(「んです」状況説明)

B)「え?桜の花、見ないの?」(感動詞+「んです」)

C)「どうして桜の花、見ないの?」(疑問詞+「んです」)

③「桜の花、見たら?」(「たら」条件)

④「桜の花、見なきゃ。」(「なければならない」義務)

⑤「桜の花、見たほうがいいよ。」(「たほうがいい」アドバイス)

⑥「桜の花、見るべきです。」(「べきだ」義務)

⑦「桜の花、見なさいね。」(命令形)


上の例文を見ると、使われている文型は違っていますが、言いたいのは話し手が「桜の花を見る」ことをいいことだと思っていて、それを聞き手に勧めているということです。その気持ちが強すぎると最終的には⑦のように聞き手の意志を無視した「命令」になってしまいます。


日本語の教科書などで学習する内容は上記のカッコ内で示した「文型」が大きな部分を占めていて、その文型を実際の場面でどのように使うかということについてはあまり詳しく勉強しないため、実際の場面で使った場合にそれがどのような効果を発揮するかは、教科書を勉強しているだけではなかなか分かりません。


ですから、教科書を使って教える場合は、学習者には文型を使う場面とその効果(特に聞き手の気持ち)をできるだけ詳しく説明してあげたほうがいいと思います。また、そうした話し手や聞き手の気持ちは歌の歌詞によく現れているので、たまには学習者の好きな日本語の歌詞を一緒に勉強してもいいのではないでしょうか(これも反語です)。


ことわざや明治時代に作られた「花」のような唱歌は、特に日本に長く住んでいる人や日本の古典に興味がある人に教えるのに「現代に残る古文」の導入として適していると思います。


さらに作曲者である滝廉太郎の短い生涯と明治時代の日本の置かれた世界情勢(開国や文明開化など)にも触れることができれば歴史の勉強にもなります。


「花」よりも短い唱歌としては「赤とんぼ」などもありますが、歌の背景や歌詞についてはネットなどで前もって調べておいたほうが無難です。


『はなちゃんがいる風景』p.27

82『はなちゃんがいる風景』p.27