OS ・お山妄想です
BL妄想
お話の全てはフィクションです
side 翔
その日は、朝から雨だった。
なかなか帰らない色んな人々が、智の個展会場から消えた頃。
様々な道具や、全ての絵は、運び出された。
会場跡には、智と俺と智のマネージャーだけだった。
個展は終わり、もう明日からは別の作家の個展の準備になる。
小さなキャンバスに描かれたカズヤ君の絵だけは、自分で持って帰ると智が決めて残されていた。
「誰も来なかったなあ……やっぱ、無理だよな」
智が、小さなキャンバスを丁寧に布で包みながら呟いた。
カズヤ君を知っている人物は、この会場には現れなかったから。
「また、どこかで聞いてみようよ?」
「うん」
この絵は、綺麗で評判も良く、売って欲しいという声も多い。
絵の人気が、カズヤくんの情報へに繋がると、俺は思ってる。
二人で椅子に腰掛けながら、外へ車を取りに行ったマネージャーを待っていた。
「ん?」
フッと音が聞こえたようで、振り返ると確かな足音が聞こえ始めた。
コツコツ。
大股らしい足音が、扉の前で止まった。
「あ……」
思わず扉を開けると、立っていたのは、カズヤくんを守って一緒に病院へ行った男性だった。
上品な白のスーツに、背が高く、体躯のいい外国人のような男性。
「あなたは……」
「お久しぶりです。翔さんですよね? それと智さん」
「アンタ……」
智も、驚いて立ち上がった。
「ずいぶん有名になられましたね。驚いてました……カズヤも」
「カズヤ君、無事なんですか? あれから、ずっと俺たち……」
「……まあ、無事では、ありませんでした。だから連絡しませんでした。カズヤが嫌がるので」
「え?」
少し、厳しい目つきで彼は智を睨んだ。
「……悪かった。俺はカズヤを守れなかった」
そう言って智が頭を下げると、男性は視線を落として……小さく息を吐いた。
「カズヤの願いは、叶ったようですね。それを確認しに来ただけですから。失礼しました」
くるっと向きを変えて帰ろうとするから、俺は慌てた。
「ま、待って!」
思わず彼の腕を掴むと、太い筋肉が巻かれていて、弾かれそうな感触に驚いた。
「うわっ、すごっ」
軽く彼が腕を振るだけで、俺の手は振り落とされる。
「……カズヤの知り合いでなかったら、無事にはすみませんよ」
「す、すみません。あの、俺たち……カズヤ君に会いたいし、それに願いって……」
「カズヤの願いは、ひとつだけ。あなたたちがやり直す事です。あの子は、自分の願いなんてありません」
智は棒立ちで、声も出ないようだった。
俺が、なんとかしなくちゃ!
「カズヤ君に会いたいんです、お願いします!」
「……本人に聞いてみます」
「じゃ、じゃあ、貴方の連絡先を教えてください」
「……こちらから連絡します。2、3日待っていて下さい」
彼は、静かにそう言って出て行った。
智が、力が抜けたようにストンと椅子へ落ちるように座った。
「生きてた……」
ポツンと智が、つぶやく。
俺は智に駆け寄って屈んでその体を抱きしめた。
「生きてた! 夢じゃないよ! 会える! 智、良かったね!」
「うん……」
智はまだ、ぼんやりしてるけど。
俺だって、まるで夢みたいだけど。
「やったあー!」
俺は嬉しくって、智を抱きしめたまま大声で叫んでしまった。
「ど、どうしたんですか?」
戻ってきたマネージャーは、俺がどうかしたと思ったらしい。
どうかしちゃうよ。
智が嬉しいなら、それだけで嬉しいんだもん。
『大袈裟なんだから』
カズヤ君なら、そう言って笑うんだろうな。
続く