嵐BL妄想(お山OS)

登場人物等全てフィクションです

 

 

 

 

side 大野智

 

人の気配のない廊下の向こうには、翔の部屋。

 

そこは教師が多く住むマンションで。

 

俺は、ほとんど来た事がない。

 

震える手で、インターホンを鳴らす。

 

何度押しても、返事は無い。

 

外から窓を見ても真っ暗。

 

翔のことを考えたら、ここに居たらダメなんだと思って家に帰った。

 

 

 

家に帰っても、携帯電話も、翔からは何も来ない。

 

何度電話をかけても、電源は入っていない。

 

 

 

……捨てられた。

 

 

 

そう思ったら、泣く気にもならなかった。

 

俺が悪いんだ。

 

気を付けなかったから。

 

噂になってることも知らなかった。

 

すっかり、何も見えなくなっていたから。

 

 

 

 

 

翌日、学校なんて行く気にもならない。

 

ぼうっと座ってたら、ドアを叩く音。

 

「翔?!」

 

跳ねるように、ドアを開けたら。

 

「智! ごめん!」

 

「なんで……?」

 

俺の母ちゃんが、泣きながら立っていた。

 

 

 

 

+++

 

 

 

「泣き止みなよ? どうしたの?」

 

相変わらず美人で、少女みたいな母ちゃん。

 

巻いた栗色の髪も、綺麗な色の爪も変わらない。

 

ただ、化粧もせずに走ってきたらしく、ずっと泣いてばかりだった。

 

スッピンは、顔が俺にそっくりで、気持ち悪いんだよな。

 

 

 

「私が悪かったの、全部私が悪かった。許してね?」

 

おいおい泣くけど。

 

意味わかんねえし。

 

男に捨てられたのかな?

 

親子で同じ日に捨てられるって、笑えないじゃん。

 

「里子っ!」

 

いきなり玄関から、男が入って来た。

 

「武志?」

 

男が追いかけて来たんだな、良かったな、母ちゃん。

 

なんか言い合ってるけど、分からない。

 

母ちゃんが、必死に俺の前に来て叫ぶように言った。

 

 

 

「智、昨日ね、翔さんて人が来てねっ」

 

言いながら泣くけど。

 

翔……? まさか?

 

「何だよっ? 翔がどうしたんだよっ!」

 

「里子を責めないでくれ!」

 

「うるさい! さっさと言えよ!」

 

他人は、黙ってろ!

 

「わ、私にね……」

 

 

 

 

 

翔は辞職した足で、母ちゃんへ会いに行ったらしい。

 

俺の連絡先は、ふたつある。

 

今の家と母ちゃんのいる住所だ。

 

 

翔は、母ちゃんへ頭を下げて頼んだそうだ。

 

『智のところへ帰ってくれ』と。

 

俺が、ずっと一人で苦しんで来たって。

 

重度の人間不信で、傷付いてるって。

 

それは、母ちゃんのせいだって。

 

 

「ご、ごめんね……智がいいよって言ってくれるから、甘えちゃって」

 

「そんなことは、今更どうでもいい! 翔は?」

 

「翔さんは、いなくなるからって……」

 

母ちゃんの言葉に、俺は呆然とした。

 

 

 

「一人になっちゃう智を、お願いしますって……」

 

気が付けば……俺は、母ちゃんを平手で殴っていた。