新緑の季節になった

木々に芽吹いた新しい緑の葉が 日の光を浴びて 輝き

暖かな風にゆれている

イチョウの木に ほんとに小さな可愛い葉が生まれたときには

何とまあ一人前に! と 大人の葉と同じ形をしていたのを

微笑ましくながめていたけれど

今では 小ぶりながら しっかりとした葉に成長している

 

いつの間にか 淡色の世界が 色鮮やかな世界に変わった

 

様々な樹木が花をつけ始めた

カシやシイ、ナナカマドの白い花

リンゴやハナミズキの白とピンクの花

見上げると 青い空を背景にして 咲き誇っている

 

その中で 山法師の花を見つけた

初めてその花の名前を知ったのは

遠い昔 老舗の旅館に 母と姉と三人で泊まった時だった

 

子供たちが成長して 一泊ぐらいの外泊はできる程度になって

姉が 一人暮らしの母のために

娘二人と母との 楽しいひと時を計画して招待してくれた

私だけだと日頃泊まれないような 立派な旅館

自然に生育した草や花 雑草もすべてその庭の仲間に入れていて

余分な手を加えていない 楚々とした庭

眺めていると 本当に安らかな気持ちになれた

 

夜の食事が部屋に運ばれたとき

箸置きに使われている小枝に 目を奪われた

その枝の先には 可愛い白い花

何という素敵な おもてなしだろう

 

あまりの可愛さに 旅館の方に尋ねた

  それは 山法師(ヤマボウシ)というんです

  その白い花は 枝や葉より少し上に咲くんですよ

  丸い部分が僧兵の頭に 周りの花びらが頭巾にみえるので

  その名前がつけられました

 

そう説明を受けたものの

私にはその白い可憐な姿が どうしても僧侶とは結び付かなかった

それでも それ以来 私はヤマボウシが大好きな花になった

 

その旅館の静かなたたずまいや おいしい料理

決して強く主張しない 配慮の行き届いたもてなし方

私たち三人は その夢のような非日常を 思いきり楽しんだ

日頃 ひとりで過ごしている母は

娘ふたりと ゆっくりと語り合えることが 本当に嬉しそうだった

年老いた母親に 娘二人で楽しい時を贈れたことで

私の方も 心の底から癒されていた

 

 

あれからどのくらい過ぎたのだろう

あの時の母も姉も 今はもういない 残っているのは私ひとり

あの時と同じ 山法師の白い花は

毎年 毎年 私の前に現れてくれるけれど……

 

この季節 山法師の花を見るたびに浮かぶ あの素敵な時

 

私が 白い花を好きなのは

もしかしたら あの時の記憶が 強く残っているからかもしれない

 

今年もまた 山法師の花が咲いた…