韓国映画「大統領暗殺裁判」、「16日間の真実」と言うちょっと余計な副題がつきますが実話です。現大韓民国大統領李在明(イ・ジェミョン)から三代前の韓国初の女性大統領朴槿恵(パク・クネ)さんのお父さん、第5代大統領朴正煕(パク・チョンヒ)の暗殺事件を描いた作品です。何年か前に「KCIA南山の部長たち」って作品でも描かれてました。この時はイ・ビョンホンが大統領暗殺の主犯だったKCIAの部長キムを演じてました。時代は1979年。日本はと言えば高度経済成長からバブル経済へ入り、この世の春を謳歌しようかと言うような時代です。パク・チョンヒ大統領時代はまさに独裁政権でこの人も軍隊からの叩き上げで軍事クーデターにより大統領になった人。まだまだ軍の力って強かったんですよね、この国は。軍が力を持つとろくなことはありません。日本しかり、ビルマしかり。南と北とで国が別れ、民主化を推奨したはずの南、大韓民国なのに「民主化」と呼ぶにはまだまだ未熟な国だったと思います。本作はその後日談。8名の犯人の中に一人だけ軍人がいました。そのためこの人だけ軍法裁判で裁かれます。一般の裁判なら最高裁(ん?韓国じゃ最高裁って言わへんの?)までの三審制。弁護士はその間、時間を稼ぎ世論の同情を買って罪を軽減して貰おうと言う戦法です。軍法会議はただの一回のみ、それで判決が出ます。この主任弁護に着いた弁護士がやり手だけど「裁判は善悪を決める場じゃなく、勝ちゃあいい」がモットー。裏工作、虚偽証言はお手の物のかなりダーティーな奴。ところがこの被告は「私は軍人、軍法会議で裁いてくれ」といった、まさにザ・軍人と言った人物。まあ、水と油みたいな2人なんですが、この2人が軍部の闇に立ち向かっていきます。韓国の暗黒時代を背景に2人の男のすれ違いと心の変化がなんとも観ててつらく、それでいて何処かに希望を見出そうとする当時の韓国の明日を思う作品です。
1979年10月26日朴正煕(パクチョンヒ)大統領暗殺。8人の犯人の中に1人だけ軍人がいた。主犯の中央情報部部長キム・ヨンイルの随行秘書官パク・テジュ大佐である。彼だけが軍法裁判で裁かれることとなった。裁判の指揮を執ったのは合同捜査団長に就任したチョン・サンドゥ少将。30名を超える大弁護団の中パク大佐の主任弁護士に就いたのはチョン・インフ弁護士。若いがやり手で「裁判は善悪を決める場ではなく、勝負の場」と言い放ち、裁判に勝つためなら偽証、裏工作も厭わないと言うかなり強引な男だった。彼は一審制の軍法裁判でなく、三審制の一般裁判に持ち込み時間を稼いで世論の同情を誘い減刑に持ち込もうとした。だが、肝心のパク大佐は首を縦に振らない。「私は軍人。軍人は命令に従わなければならない」あくまで、軍事法廷での裁判を望む、まさに絵をかいたような軍人であった。チョン・インフ弁護士は絶対不利になるにも関わらず、あくまで軍人としての信念を突き通すパク大佐の頑固さに半ば呆れながらも「命令に従った」その一点に焦点を絞り奔走する。だがその前に立ちはだかるのはこの事件をきっかけに軍を掌握しようとするチョン・サンドゥ少将。様々な妨害をめぐらし、時には暴力で脅しをかける。最初は融通の利かないパク大佐に嫌気がさしていたチョン・インフであったが頑なまでに軍人であろうとするパク大佐と接していくうち、そして軍内部の権力構造の闇を垣間見るうちに、本当の正義とは何か、真の民主主義国家とは何かを自問するようになる。そして硬く心を閉ざしていたパク大佐はチョウ・インフにだんだんと心を開くようになる。そんな中、遂に裁判のカギを握る軍の大幹部、陸軍参謀総長の出廷の了解を得ることができた。だが、12月12日チョン・サンドゥ少将による驚天動地の軍事クーデターが発生...。
この物語は事実を基に若干のフィクションを混ぜています。殺された朴正煕大統領以外は被告となるパク・テジュ大佐の実名は朴興柱(パク・フンジュ)、チョウ・インフ弁護士の実名は太倫基(テ・ユンギ)弁護士、裁判を影で牛耳るチョン・サンドゥ少将、この千原兄弟のせいじに似たおっさんは日本でもご存じの方は多いと思いますが、何を隠そう、後に大統領の座に就く全斗換(チョン・ドゥハン)なんですよね。微妙に名前を変えて演じています。しかし初代の李承晩(イ・スンマン)から始って、朴正煕(パク・チョンヒ)、全斗換(チョン・ドゥハン)とまあ、悪党ばっかしやな。韓国の大統領って退任したらすぐ逮捕されるってのもこの国の特徴です。このパク・チョンヒの時代に「漢江の奇跡」と呼ばれる経済発展を遂げ世界最貧国から脱出します。まあしかし、1965年の日韓基本条約で無償3億ドル、有償2億ドルの経済援助を日本はしてあげているわけやから、こんなん奇跡でもなんでもあらへん。今からわずか50年足らず前、まだ民主国家と言うものをよく理解していなかった、試行錯誤しているような時代の大韓民国と言う国家が描かれています。そんな時代を背景に「勝ちゃあいい」と思っていた弁護士の仕事に対し真に向き合い、被告に思いを寄せるようになる弁護士の心の移り変わりを描いているのが印象的でした。しかし現在は簡単に大統領の座から引きずり下ろす、この国の情勢から考えれば、大統領や軍が強権を発動するようなこの時代から大きく変わったと思います。韓国の方々が言う「漢江の奇跡」からオリンピックの招致、今では韓流ブーム、K-POP、アカデミー賞の受賞まで経済から文化、芸術に至るまで、ほんと大きく発展してきたと思います。まあ、これで日本を目の敵にしなきゃあんまり言うことはないんですが...。それはともかく、自分が初めて韓国映画を劇場で観たのが「シュリ」。それももう25年前の話。衝撃でしたね。韓国ってこんな映画作るのかって。それ以降、社会派ドラマ、人間ドラマからラブストーリー、オカルトもの、アクション映画に至るまで、そんな外れた作品はなかったように思います。この作品群の中で南北朝鮮半島を題材にしたりネタにした作品は多々ありました。本作のセリフの中でもそれを意識した会話があります。民族、国家の分断なんて我々日本人は経験してないですから。その一歩手前まで行きかけたけど我国には素晴らしい先人がいたおかげで今があります。それを思いながら自分は韓国映画を楽しみ、そして南北朝鮮民族の方々の心情を思いながら韓国作品を観せて頂きたいと思います。
