しかし年いったと思います。日本映画を観ると名前を知っている役者さんより知らん役者さんの方が多い。若い役者さんは殆んど知りません。先日、西田敏行さんが亡くなりました(合掌)。松方弘樹さん、緒形拳さん、千葉真一さん...いろんな映画やドラマで主演を張っていた方々が次々に亡くなられています。ああ、もうそう言う時代、世代なんやなぁと思ってしまいます。大病を患って運よく生き延びた自分ですがエンターテイメントの世界に目を向けた時、かつて今の自分の年代をお迎えになった皆々様はこんな寂しさ、空虚感を感じたことはあるんでしょうか?
今回の新作「十一人の賊軍」を観てつくづく思いました。メガホンを撮った白石和彌監督って日本映画の中じゃあ「映画」の面白さが分かっているええ監督やなぁ、と思うのは「孤狼の血」2作品を観てもようわかります。(ちょっとどぎついんやけどね)。けど出演者の半数以上は自分は知りません。もうこの頃数年、テレビドラマなんて観んようになったからね。面白さがないうえ、斬新さもないもん。この作品で知ってる若手って山田孝之くんくらいかな。彼だってもう中堅ですよ。まあ、千原せいじやナダルは知っとるよ。地元やもん。
今回その腕のいい白石監督が手掛けた作品「十一人の賊軍」は幕末が舞台。旧幕府軍が壊滅寸前に最後の抵抗を見せた戊辰戦争に於いて、最後まで忠義を尽くそうとする東北から越後にかけてのいわゆる奥羽越列藩同盟。その中の小藩であった新発田藩の生き残りをかけた家老の苦渋の駆け引きと、それによって命を玩ばれる結果となった罪人たちのあまりにも悲惨な戦いを描きます。まぁーこの監督さんですから血飛沫は飛ぶわ、無数の首は転がるわ、数々の人体破壊はありますが決して誰もハッピーエンドにならない虚無感の美学。それを土台に、文明開化の世がくると言うのは何とも切ないですわ。
幕末、戊辰戦争。会津藩松平容保を要とする旧幕府軍は新政府軍=官軍に徹底抗戦の意を表した。長岡藩を中心に陸奥、出羽、越後の諸藩からなるいわゆる奥羽越列藩同盟は官軍を迎え撃つが長岡城を官軍に奪われもはや旧幕府軍は風前の灯火であった。そんな中、小藩の新発田藩は生き残りをかけて瀬戸際に立たされていた。家老溝口内匠は列藩同盟の米沢藩より出陣の催促に追い立てられていたがのらりくらりとはぐらかしどっちつかずの態度をとり続けていた。だが、業を煮やした米沢藩の軍は出陣の際に新発田に立ち寄り恫喝を繰り返すのだった。藩主溝口直正はまだ年も若く、おまけに「勝ち馬にのればよい」と容易く考えているような暗愚である。だが、旧幕府軍の壊滅は日を観るより明らかである。家老溝口は苦渋の決断の末、官軍に対し徹底抗戦をとなえる剣術道場の若手家臣、鷲尾兵士郎と娘の許婚、入江数馬らを中心とした少数の部隊を結成、その下に10人の罪人たちを付け決死隊として領内の外れにある砦の警護に当たらせた。彼等には同盟軍の旗を持たせ新発田領内にいる米沢藩の軍が出ていくまでの時間稼ぎをさせる。それが決死隊の任務だった。ことが成った暁には罪人たちを無罪放免にすると口約束した。だが溝口は米沢の軍が出て行った後に官軍を招き入れ新政府軍に恭順の意を示すと言うのが思惑であった。小藩生き残りのための苦渋の決断である。新発田湊にある同盟軍の武器弾薬庫が狙いの官軍は領内に迫る。迎え撃つ決死隊は数人の若い藩士と処刑寸前の罪人たち。その罪人たちの面々は...妻を新発田の侍に手籠めにされ怒り狂って相手を惨殺した駕籠政を始め、いかさま博打の常習犯や、檀家の娘を手籠めにする破戒僧、火付け、密航者、辻斬り、強盗など一筋縄ではいかない連中ばかりである。官軍が迫りくる中、この寄せ集め軍団はどう戦うのか?
武士の時代が終わろうとした時代。武士であろうとした若き藩士と生き延びるためいやいや戦に加わった罪人たち。主君のため命を懸ける武士がいる一方、姑息、冷酷、猿知恵と身内からも相手からも罵られるが藩を守り切ろうと奔走する家臣もまた武士。武士の一分を通そうとして命を散らせる若き藩士を中野大河が演じています。一方真逆の藩士、家老溝口は藩を領民を守るため酷いことするんやねぇ。嘘に嘘を並べ立て、裏切り、騙し、ありとあらゆる方法を使って必死に生き残る方法を探す。一見これは「武士の風上にも置けん」奴やねんけど、どうしても観ている側としては彼の心情を察してしまうわけです。これを阿部サダヲがやってるんやねぇ。うまいわぁ、この人は。先日の「ラストマイル」でも言ったんやけどねぇ。うまいんよ。冷酷、冷徹なんやけど観客は100%憎み切れへん。なんか切ないんやねぇ。当然の如く、彼にも悲惨な運命が訪れます。そんな小藩の家老を演じた阿部サダオが今回もよかったわぁ。そしてもう一方の山田孝之演じる罪人は踏みつけられ続けて、逃げ回っていた自分に嫌気がさし、踏みつける奴に一泡吹かせようと、この時代のすべての不条理、矛盾を抱えて散っていく。歴史と言うのは酷いものです。しかしそんな不条理や矛盾を抱えて散っていた者たちが近代国家の礎になったからこそ今の日本はあるんやと思います。うん!日本人にしか作れない日本の映画。関心感心。
