時を遡ること半世紀も前の話です。私、当時13歳。中学1年生の冬休み。お正月前の年末です。当時の親友と二人で西宮の下町から大阪は梅田の大都会へ繰り出しました。目的は当時、世界中を席捲したパニック映画の金字塔を観に行くこと。勿論その作品名は「ジョーズ」。もうその友人と冬休みに入る前から楽しみで、楽しみで、授業も頭に入らず、期末テストも悲惨な結果で。親には「遠出」することを早くから了解を得てました。13歳のガキには梅田へ出るだけでも大冒険です。まあ、次々と映画界の興行記録を塗り替えた作品です。大興奮の2時間でした。で、今回はその話ではなく、思春期の少年二人が興奮したのはサメだけではなく、その約2時間前、その劇場へ入る前...当時、もう一本の話題作がありました。真逆の内容、別の興奮です。その作品こそ「エマニエル夫人」。男性だけでなく女性までもが大挙して映画館へ押し寄せたと言う作品です。フレンチポルノ...その作品が隣の劇場でやってました。両作品が上映していたのは今は無き梅田グランドです。凶暴なサメが映っている看板の横で主演のシルビア・クリステルが裸で足を組んで椅子に座っているあの有名ポーズ。頭の悪そうなガキが二人、それに見とれてデレーッと観てたんでしょうなあ。もぎり(昔はこういう人がおったんですわ)のおばちゃんが「兄ちゃんらは観られへんでぇ!」と一言。我に返ってそそくさとサメの方へ。まあ、懐かしい思い出です。しかし大人になってもこの「エマニエル夫人」はまだフルで観ておりません。ところが50年経ってリメイクが出来ました。題名は「エマニュエル」。まあシルビア・クリステルの「エマニエル夫人」はテレビでもなかなか観れないですよね、と言うより放映出来ないでしょう。ビデオも借りにくいし。だから楽しみ...と言うのはスケベ過ぎるし、まあなんと言うかとにかく鑑賞してみましよう。
エマニュエルはホテルのオーナー企業からの命令で現地調査を行う査察官である。パリから香港へ向かう飛行機の中で見知らぬ男を洗面室へ誘うような奔放さも持つが、部屋から出てきたとき一人のアジア人と視線が合うが何事もなかったように席に戻った。香港の高級ホテルの支配人マーゴ・パーソンの出迎えを受け、豪勢な部屋に滞在する。ホテルの施設やスタッフの対応など、どれをとっても及第点だったがオーナー側はホテルランクのトップからランクが下がった責任をマーゴに背負わせ解任しようと「あらを探せ」とエマニュエルに命令する。
エマニュエルは滞在中に近くに住む常連客のゼルダと親しくなるがどうやら彼女はホテル内で売春行為をしているらしい。そしてもう一人、飛行機の中で出会ったアジア人がこのホテルに滞在している。彼はケイ・シノハラと言う常連客で毎回同じ部屋を利用しているが部屋で一夜を明かしたことはないと言う謎の人物だ。エマニュエルは知らず知らずのうちに彼に好奇心を持ち始める...。
そうそうエロくは無かったかな?50年前の作品はバンコク滞在中の外交官の妻。そして今回の舞台は香港。役どころは有閑マダムからキャリアウーマンへと変わりました。このあたりは時代の流れですな。しかし欧米人にはアジアの地域はどこも妖しく、ミステリアスに感じるでしょうなぁ。なんかちょっと色眼鏡で見られているような気もするんですが...。監督はオードレイ・デュバンと言う女性監督です。やっぱり女性らしく、思ったほどドギツクはなかったですね。
主演のノエミ・エルランは「燃ゆる女の肖像」や「TAR/ター」と言った話題作に出演したこれからの女優さん。勿論、シルビア・クリステルのインパクトが強いから彼女にとってはちょっときついかなとは思いましたがぜひ息の長い女優さんになってほしいと思います。逆にインパクトが強すぎたシルビアは可哀そう。最後まで「エマニエル夫人」から脱却でけんかったもんね。写真家出身のジュスト・ジャカン監督がほんまに綺麗にエロく撮ってるから目一杯に彼女の魅力を引き出したんだと思います。だから彼女の背中には何をやってもエマニエルが影を落とします。どんな役をやっても同じような役。強いて言えば全部「エマニエル夫人」。唯一らしくない役だったのがアラン・ドロンやジョージ・ケネディらオールスターキャスト共演の「エアポート80」のスチュワーデス役でしたが60歳と言う若さで亡くなりました。もう10年以上も経つんですよね。色々とトラウマを抱えていた方らしく綺麗だったのになんとも気の毒な方です。
まあこの作品がどうのこうのと言うよりなんとも感慨深いですな。思春期の1ページであり、隣でやっていた「ジョーズ」は自分の洋画作品映画館デビューの作品です。それから50年ですかあ。
しかしこの作品以降は「エマニエル」と言うのはエロの代名詞になりました。一時、ヤクルトや近鉄にマニエルと言う外国人選手がいました。この人のこの名前だけで失笑めいたものが聞こえました。それからもう帰っちゃいましたけどアメリカ・バイデン政権下での日本大使はエマニュエル。この男は評判悪かっただけに、この名前でだいぶ揶揄されましたね。
それだけインパクトがあったと言うことです。やはり彼女も映画史に残る女優さんと言うことです。