小学生の夏休み、植物園に勤めていた父親が、幼馴染のシンヤと自分を植物園に連れていってくれたことがある。

オオオニバスという巨大な浮水葉の上に乗るという体験をさせてもらった。

先ず私が乗った。体躯の小さく痩せていた私は別段恐ろしいこともなかった。

次にシンヤが乗った。シンヤはポッチャリとした体躯で、自分が乗ったのでは沈むのではないかと不安げであった。

果たしてシンヤが葉の上に乗った瞬間、葉が大きく傾ぎ、シンヤの顔が恐怖で青ざめた。

そもそも、沈まないように職員が葉の両脇を固めていたのだから、恐ることは何もなかったのだけれど。


シンヤは中学で引っ越して、それから一度も会っていない。


シンヤ、今はもうおじさん、私も、もうおじさん、些細なことでは動じない。


オオオニバスが沈んでも傾いでも、笑い話にするだろうさ。

だから、あの青ざめたシンヤの顔、顔、あー、思い出すと、良かったなぁ、本当の、正直な顔!汗かいて、目がくりくり動いて、子どもだった、シンヤの顔!

涙が出そうだよ。