中学生の頃、少年誌の広告に載っていたパワーリストが欲しかった。1キロだかの鉛が入ったそのパワーリストのキャッチコピーは、これでパンチ力アップ!であり、いかにもパンチ力のありそうな筋骨隆々の青年がパンチを繰り出しているイラストがズバッ!という効果音とともに書かれていた。


私は、憧れた。いいなぁ、欲しいなぁ、強くなりたいなぁ、と焦がれた。強くなり誰からも馬鹿にされない自分の姿を夢想した。


結局、お金もないし、買い方もよく分からなかったので、憧れは憧れのまま終わった。


それから25年、かつての中学生はおじさんとなった。

このおじさんは、時々ふざけて拳を空に突き出し、わんつー、ぱんち!など言って一人で笑うときがある。

わんつー、ぱんち!かつての弱かった自分へ、わんつー、ぱんち!相変わらず弱い自分へ、わんつーぱんち!水前寺清子もびっくりな、鋭いぱんち!


そして、恥ずかしくなって、止める。


わんつーぱんち!それにしてもよく生きている、と思う。

打ちのめされても、恥をかいても、貧困でも、よく生きている。かつての少年が、よくぞ生き抜いている、と思う。


わんつー、ぱんち!弱いなりに闘ってきたんだろうな、と思う。


わんつーぱんち!よく頑張ったね、思う。


わんつーぱんち!時々、自分の中の少年を、抱きしめたい、と思う。


わんつーぱんち!わんつーぱんち!