東京のアパートに住んでいた頃、絵を描く部屋には陽が入らず、年中じめじめとしていた。
壁紙も天井も暗く、照明をつけてもあまり明るくならなかった。照明をLEDに変えればよかったのかもしれないけれど、金銭にその余裕がなかった。困窮していた。
反射光の効果を狙い、壁に障子紙を貼り付けたりもしたが、どうにも改善出来なかった。

そんな部屋で、一日中、真っ青な顔で絵を描いたり、古本屋で安く買った黴臭い小説を耽読していた。
地下生活者であった。私は兎に角、日がな一日暗い部屋におり、悶々としていた。

データを整理中、その頃の写真が出てきた。ポートフォリオに使用する為、妻に撮って貰ったものである。
私は容姿が爽やかな方であったから、何の苦労もなさそうな、つるりとした顔であるが、この頃は毎日気持ちが塞いでいた。気が滅入る生活に嫌気がさしていた。早く暗い部屋から抜け出したかった。
懐かしい写真を見て、その頃の気持ちを久しぶりに思い出した。

今は明るい部屋にいる。古い家に住んで古い車に乗っているけれど、気持ちはそれ程塞いでいない。

絵を描くことから遠ざかるほど、本を読まなくなり物事を考えなくなるほど、社交性を身につけるほどに、呼吸がしやすくなった。

闘わないのは楽だよ。

そして、楽に呼吸しながら、失っているものにも気がついている。

とっくに気がついているんだよ。

ばか。