深夜のドラッグストアで、私は「半額シールの貼られていないカゴ」に妙に動揺した

ドラッグストアでカゴを持つ女性

閉店前のドラッグストアには、30代の感情が全部落ちています

5月下旬の夜は、少しだけ空気がぬるいです。昼間は半袖でちょうどよかったのに、夜になると風が湿っていて、梅雨の入口みたいな匂いがします。小満を過ぎたこの時期は、植物だけじゃなく、人の感情までじわじわ膨らむ気がします。

私は仕事帰り、22時過ぎのドラッグストアによく寄ります。

別に絶対必要なものがあるわけではありません。洗剤はまだあるし、化粧水も切れていません。でも、なんとなく寄ってしまいます。

コンビニより少し明るくて、スーパーより少し静か。ドラッグストアの深夜前って、不思議な空気があります。

そして私は最近、あるものを観察しています。

それは「半額シールが貼られていない人のカゴ」です。

閉店前になると、お惣菜コーナーには赤や黄色の値引きシールが増えていきます。30%引き、50円引き、半額。あのシールを見ると、ちょっとだけ勝った気持ちになります。

私も当然、見るタイプです。むしろ真剣です。

 

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でも先日、ふと前に並んでいた女性のカゴを見た瞬間、妙に心がざわつきました。

その人のカゴには、値引き商品がひとつも入っていなかったのです。

定価のヨーグルト。少し高いシャンプー。無添加の冷凍食品。小さな観葉植物まで入っていました。

なぜかわからないのですが、その瞬間、私は少し負けた気持ちになりました。

 

 

別に戦っていません。誰も私を見ていません。でも、「ちゃんと自分を扱っている人」に見えてしまったのです。

私は半額の唐揚げを握りしめながら、なぜか急に自分の生活を見直したくなりました。

 

 

 

「安く買えた」は幸せなのに、なぜか心がすり減る夜があります

もちろん節約は大事です。今の時代、値上げも続いていますし、固定費も簡単には下がりません。

だから、半額シールを狙うこと自体は全然悪いことじゃありません。むしろ賢いです。

 

 

でも問題は、「安く買えた」がいつの間にか、「定価で買う自分には価値がない」に変わる瞬間です。

私は昔、美容部員をしていた時期がありました。あの頃、お客様には「自分を大事にしてくださいね」と笑顔で言っていました。

なのに今の私は、自分用のハンドクリームを買うとき、300円高いだけで10分悩みます。

 

一方で、ストレスが溜まるとUber Eatsで1800円の夜食を頼みます。

人間って、本当に意味がわかりません。

でも最近思うのです。30代の散財って、物欲だけじゃないのかもしれません。

「今日も頑張った」を誰も言ってくれないから、自分で何かを与えたくなるのです。

逆に節約も、お金の問題だけじゃない気がします。

 

未来が不安だから、「今の自分」に使うのが怖くなるのです。

だから深夜のドラッグストアには、その人の生活が出ます。

何を我慢しているか。何を諦めているか。どこに疲れているか。

全部、カゴに出ます。

 

私のカゴには、その日こんなものが入っていました。

・半額のおにぎり
・安い炭酸水
・詰め替え洗剤
・毛穴パック
・チョコ
・アイマスク

完全に「疲れている女のスターターセット」です。

でも、それを見て少し笑ってしまいました。

たぶん私は、自分を雑に扱っているわけじゃありません。ただ、「効率よく回復したい」と思いすぎているのです。

30代になると、“ちゃんと休む”のが下手になります。

 

 

 

深夜のドラッグストアで、知らない女性に人生を救われました

その日、レジに並んでいたときです。

前にいた女性が、店員さんにこう言いました。

「このお花、値引きになりませんか?」

私は思わず顔を上げました。

 

その女性が持っていたのは、小さな切り花でした。たしか398円くらいです。

私は一瞬、「え、お花まで値引き待つんだ」と思ってしまいました。

でも次の瞬間、その女性は笑いながらこう言ったのです。

「今日ちょっと嫌なことあったから、せめて安く癒やされたいんですよね」

その言い方が、なんだか妙に可愛かったのです。

 

店員さんも笑って、「今日は対象外なんです、ごめんなさい」と返していました。

女性は「あー残念!」と言いながら、それでもちゃんとその花を買って帰りました。

私はその背中を見ながら、急に泣きそうになりました。

あの人、自分を見捨てていなかったのです。

398円の花で、自分を機嫌よくしようとしていました。

 

しかも、「安く癒やされたい」って、ちゃんと口にできていました。

私はずっと、「節約する自分」と「自分を大事にしたい自分」を別々に考えていました。

でも本当は、両立していいのです。

半額シールを愛していてもいい。ポイント5倍デーに命をかけてもいい。でもその中で、自分をちょっとだけ喜ばせることを、諦めなくていいのです。

その帰り道、私はコンビニでアイスを買いました。

しかも、値引きされていないやつです。

ほんの小さな贅沢でした。でも、その日はなぜか、それだけで少し救われた気がしました。

 

 

 

そして私は翌日、とんでもない事実に気づきました

次の日の朝です。

私は昨夜買った毛穴パックを使おうとして、袋を開けました。

すると、中身が入っていませんでした。

空だったのです。

 

私は一瞬、頭が真っ白になりました。

「え? 毛穴パックって空で売る時代になった?」

軽くパニックです。

袋を何度も確認しました。でも、本当に空でした。

レシートを見ると、しっかり代金は取られています。

昨日の私は、「半額シールのないカゴ」に勝手に落ち込み、「398円の花」に人生を学び、「定価アイス」で自分を癒やした気になっていました。

 

なのに最後に買った毛穴パックは、中身ゼロ。

人生、急にコントみたいになります。

でもその瞬間、私はなぜか大笑いしてしまいました。

最近ずっと、“ちゃんとしなきゃ”が多すぎたのです。

節約しなきゃ。綺麗にならなきゃ。疲れを取らなきゃ。老けたくない。失敗したくない。

でも、毛穴パックが空だっただけで、全部どうでもよくなりました。

 

完璧に生きようとしても、人生ってたまに「中身入ってませんけど?」みたいな日を普通に出してきます。

だったら、少しくらい抜けていてもいいのかもしれません。

私はその空っぽの袋を見ながら、朝からひとりで笑いました。

そして気づいたのです。

 

深夜のドラッグストアで本当に買っていたのは、洗剤でも化粧品でもなく、「今日もなんとかやれそう」という小さな安心だったのだと。

 

 

 

 

 

 

リッドキララ