これは僕が中学生の頃、部活の合宿で人里離れた宿泊施設に泊まった時の話だ。
その施設の手洗い場は宿泊者で共有するものだった。
通路の行き止まりに、長い流し台とたくさんの蛇口が向かい合わせで配置された手洗い場で、同じように長い鏡も向かい合わせになっていた。
よく言う、合わせ鏡というやつだ。
一緒に泊まった皆はそのことで騒いだりしてたが、僕はあまり気にしていなかった。
合宿最終日の夜、僕は急に喉が渇いた。
同室の人は疲れでぐっすり寝ていたので、起こさないように部屋を出て、手洗い場へと向かった。
窓から射し込む月明かりを頼りに手洗い場に着いた僕は、コップに水を注ぎ一気に飲み干した。
直後、背中に冷水を浴びせられたような嫌な寒気がした。
すぐそばに、何かの気配を感じたのだ。
部屋を出る時に時刻は確認しなかったが、もう夜更けだ。
そうそう誰かと鉢合わせになることはない。
そう思って、ゆっくり鏡に目を向けた。
鏡に映った僕の像が、正面・正面・背後・背後・正面・正面・背後・背後……とどこまでも並んでいた。