海を越えた大人の文通で綴る「パリで待ち合わせ」
「パリで待ち合わせ」デボラ・マッキンリー国弘喜美代 訳早川書房〝主人公イヴの楽しみは読書と料理。若い頃に娘を一人産みますが、夫はすぐに家を出て行ってしまいます。娘が大人になった今はイギリスの田舎で静かにひとり暮らしているのでした。娘はおばあちゃん子だったので、イヴは母親の役目さえうまく果たせないまま。娘とは昔から微妙な距離感を感じていました。そんなある日、イヴが大好きな探偵シリーズを執筆するアメリカ人作家、ジャックにファンレターを送った事から物語は始まります。ジャックにファンレターを送りたくなったのはその食べものや料理に関する描写に共感したから。イヴの書く手紙にもイギリスらしい食文化や料理への愛情が溢れ、ジャックも親しみを覚えます。こうしてジャックとイヴの海を越えた文通が始まりました。時には電子メールを挟みながらもほとんどを紙の手紙でやりとりしていきます。ジャックは2人目の妻がパートナーをつくって家を出てしまったばかり。ベストセラー作家として成功を収めたかに見える人生でも、どこか虚しさを抱えているジャック。お互いに50歳を目前にしてなにか自分の人生に対する違和感、寂寞感を感じていたイヴとジャック。ある日ジャックはイヴに提案します。「パリで会いませんか。」…"二人はパリで会うことができるのでしょうか。2015年に発行されたこの作品は、BBCが映画化権を獲得したと何かで読みましたが、映像化はまだ進行中でしょうか?メグライアンとトムハンクスの映画〈ユー・ガット・メール〉もメールのやり取りでよき理解者として親密になっていきますが、実は彼らは書店オーナーとしてのライバル。最後までどうなるのかわかりませんでした。イヴとジャックも文通のなかで良き友人として信頼しあっていきます。そして離れた国に暮らす2人の共通の話題が、料理です。それぞれがレシピを送りあったり各国の味を再現してみたり…2人は周囲の人々との関わりを進めつつも、お互いの手紙を心のどこかで小さな拠り所にして現実を生きていきます。度々手料理の描写がでてくるせいでしょうか、全編を通して人の温かみを感じるようなすてきな作品です。読みやすく穏やかな作品で、秋にぴったりな雰囲気ですぜひお手にとってみてくださいパリで待ち合わせ [ デボラ・マッキンリー ]2,052円楽天