合格通知が来たのは、友達と都会で頭をカラにしてハジけている時だった。
某牛丼屋○○屋は周りと比べると時給が高く、受からない人はザラにいると聞いていたので、大学の球技大会終わりに適当に面接に行った私は「死んだな〜」くらいに思っていたのに。
バイト合格したわ、と友達に伝えるとそいつは「死んだな〜」と言う感想を述べた。
そこからは、早かった。
自分の意思とは反対に自動的に埋められていくシフト、1度入れば絶対に延長されるバイト時間、次々とやってくる民度が地の底まで落ちたジジイ共。
そんなゴミ捨て場のほうがマシだとも思えるような環境で労働し、「死んだな〜」とぼやきながらテイクアウトの袋をセットする毎日を送っていた。
夏本番を迎えようとしている7月末のある日、百均のサイコロくらいの大きさの部屋で休憩をとっていると、化学実験に失敗した博士もしくは7年家がないオッサンの異名を持つ(勝手に命名)店長が休憩室に入ってきた。
「あのさぁ...8月の夏休み...シフト入れるね」
私は固まった。まるで何語とも判別がつかない言語で話しかけられたような、バグがおきていた。
バイトの面接の時。私は確かに言った。
「8月から1ヶ月間、アメリカに短期留学しますので、その間は入れません。申し訳ないです。」
バイトの面接の時。店長は確かに言った。
「あ〜そう??それ以外は大丈夫だよね〜?だったらOK〜」
私は色んなことを考えた。
この人は記憶力を司る脳の一部分がミジンコに置き変わっているのかとか、あの時とは違うサブ店長なのかとか、本当に色々考えた。
最終的には面接を受けたことも夢なのかと思い始めた。
自分の願望を伝えると、その化学実験に失敗した博士もしくは7年家がないオッサンはそそくさと部屋を出ていった。
ここまで時間にして7秒。7秒の間に竜巻がおき、全てを混ぜくりかえして去っていった。
やめよう。
休憩室から出ると、化学実験に失敗した博士もしくは7年家がないオッサンに、今度はサブ店長に切り替わらないように、ハッキリと、
「申し訳ないですが、今日で辞めさせていただきます。」
と伝え、残りの業務を全うした。
オッサンがどんな顔をしていたかは知らない。
バイトとは、会社と違い引き継ぎやら退職届やらそういったものはないようで、案外あっさりやめられた。
最後に○○屋を出る時、化学実験に失敗した博士もしくは7年家がないオッサンが見送ろうと出口まで来た。
クソとはいえ、3ヶ月はお世話になった。私は深深と頭を下げて「お世話になりました」と伝えた。
「8月は入らないよね...?」
こいつとは二度と言葉を交わしたくないと思った。
チャリに乗ってF1顔負けのスピードで寮に帰った。
オッサンがどんな顔をしていたかは知らない。
これが私のバイトデビューだ。
バイトに入るまでは、内情を計り知るのは困難だ。どんな人間がいるのか、どんな関係なのか。入ってみるまで分からない。
得られる情報は時給だけの、まさにギャンブル。
ただ1つ、良かったことと言えばアメリカでの話のネタができたということだ。
夜の大学生諸君は是非時給だけでバイト先を選んで欲しい。
化学実験に失敗した博士もしくは7年家がないオッサンに会いたいなら。