情報開示・マスコミ

 地震が来たときにはもう停電が始まって、テレビの情報は被災地に届かないので、ラジオでいかに多くの情報を流すのかが課題である。また、避難者にとって現地の情報が重要なので、自治体はHPでリアルタイムの情報を提供する必要がある。

 地震と原発に分けると、物理的被害では前者が圧倒的に大きいのだが、後者の報道が前者を圧倒して、被災者の現状についての報道が不足していたと指摘できる。

官房長官、保安院、東京電力*、そして途中から原子力安全委員会*の頻繁かつ細かなデータを示した会見は、国民に対してある程度情報を提供し、内容はともかく、不安を除去するのに一定の効果があったと考える。特に官房長官会見に手話があったのはよかった。しかしながら内容に齟齬が目立ち、一本化して行うべきだった。

また基本的に各論の情報だけが詳細に開示されても、根本的な情報が隠蔽されていたり、評価解釈がきちんとなされなければ意味がないといえる。

報道発表はリアルタイムで信頼できるデータであって、情報と行動指針が矛盾しないものでなければならない。楽天的な情報はかえって不安を高める。つまり、水道水の放射能汚染が安全だといいながら、飲用を控えろなどというのは最低の態度であろう。

官邸の会見は外国メディアを締め出したため、外国新聞雑誌には悲観的な記事が氾濫したので、3月23日からは外国メディア向けの会見が開始されたが、ほどなく出席者が皆無となった。

CM自粛で公共広告機構(AC)の唄、子宮がんのワクチンが耳についた。それだけでなく、自粛を示唆するような不適切なメッセージも多かった。東電はお詫びCMを流したが、そんな金があるなら、避難者へ迅速に補償を開始すべきだろう。記者クラブ制度とアヒルたたきで有名な日本のマスコミもさすがに今回はまっとうな報道姿勢だったが、TBSでは原発安全の学者起用が目立った。

テレビに毎日出演する学者たちの楽観的態度が気になった。汚染水が次々流れてくるというのに、格納容器の破損を認めず、水素のせいだなどと言い逃れしていたのは見苦しかった。原子力村の学者が東電に丸抱えされているという説が本当と思われるほど原発擁護なのには驚いた。曝露線量と線量率をことさらに混同して平気というのは、国民を愚かなものだとみなしているのだろうか。

地震と津波の予知

 まず緊急地震速報であるが、P波を観察して震度5以上が予想される場合に流したが、今回は3月11日14時45分50秒に発令されたS波はその10秒後から到達したので、ほとんど心構え程度しかできなかったものと思われる。余震でも73回発令されたが、そのうち26回のみが適切だった。というのは震源が広く複数にわたっていたため、評価計算が難しかったためである。

地震直後の津波警報は速やかな発令されたが、場所が東北沿岸全体と広範であったため、どの程度の確度のあるものか疑問であり、逃げるのが遅れた人々もいた。狼少年効果もあった。実際全国的に見れば避難したのは5%に過ぎず、避難しても津波到着前に帰宅した人も何割かいたという。地震の片付け中に津波の襲われた人も多い。リアス式海岸では波が大きくなることが知られていたのだから、市町村名を特定して特別警報を発してもよかった。たとえば、釜石、陸前高田、気仙沼等々である。逆に松島のような小島嶼がたくさんあるところでは津波の影響は減弱した。名取氏の小学校では津波の到着が 遅か ったために、安心して危うく解除されるところだった。災害時の情報伝達の問題が提起される。

 大津波警報は3m以上、津波警報は12m、津波注意報は0.5m程度の津波が予測される場合に発令される。

 岩手県普代村では明治三陸沖地震後につくった15mの防潮堤が役立った、宮古市でも、2.5km長の10mの世界最大の防潮堤が被害を小さくした。久慈市、釜石市、大船渡市、女川町にもそれぞれ3.8km1,9km0,7km0.8kmにわたって堤防が築かれていたが、津波を食い止めることができなかった。宮城県山元町の中浜小学校は海岸から200mしかなかったが、高台であるのと、建物を海岸と垂直方向に立てたため、崩壊をまぬかれた。

原発事故の対応

 東電が自社だけで対処しようとし、冷却と排気という初期対応が遅れたことは否定できない。設計者であるGM,東芝や日立の技術者の協力を早期に仰ぐべきであった。

 ドライベント*を命じられておきながら、菅総理の滞在中に行わなくて6時間おくれたというのは非常にまずいことだった。その結果、米国の強い要求で原子力専門のアドバイザーを官邸に常駐させることとなった。

決死の覚悟で業務に精励するのは、公の概念を日本人が忘れていないためであろう。もちろん東電の指示を断れば今後下請けの仕事がまわってこないこともありうるが、そもそも今回は東電事態の存続が危うい状況である。

なによりもメルトダウンや水素爆発の可能性知っており、SPEEDIの予測もわかっていながら住民を適切に避難させなかった罪が重い

 そもそも原発の立地が標高10mだったことが間違いであろう。ポンプや発電機が屋外設置なため津波でぬれた。到着した電源車のコードが短かった、プラグの形状が合わない。事前準備、備えがない。耐震性の総点検を申し入れた地元県議団の総点検にも必要なしと回答している。昨年2号機で非常用発電機が作動せずメルトダウン*の危機を経験したにもかわらず、改善していない。2003年には非常電源蒸気冷却装置が取り外されている。これらは文献1で分類類したタイプDのミスといえる。その背景には無責任官僚体制がある。すでに3年前にIAEAから保安院の独立性について疑問が投げかけられていた。保安院の審査は書類だけで、東電まかせ。日本原子力発電審査機構の地震実験機もリストラされた。保安院の会見を見ていると、微塵も責任を感じていないようである。原子力委員会*、安全委員会を含めて改組と人材の総入れ替えが必要であろう

 日本では東京で15,000人の原発反対デモ、ドイツでは25万人のデモがおこり、再検討をせまられた。アメリカでもオバマ政権が苦境に立った。

 震災翌日の会見で原子炉の溶融に言及した中村審議官を更迭した政府の態度は相変わらず古臭い隠蔽体質で禍根を残した。小佐古内閣参与は校庭の許容線量の決め方に反対で辞任したが、政府は守秘義務を示唆し、報告会が中止になった。気象学会理事長が会員に放射線予測を発表しないよう要請したのも学会としてあるまじき態度であった。放射能の情報公開では核種別データが故意か技術的問題か不足している。

 もうひとつ、5月1日にオサマ・ビンラディンが米軍に射殺されたことで、米軍のともだち作戦で同盟国としてのわが国が、イスラム原理主義テロの標的となる可能性が小さいとしてもあり、民間機を乗っとって福島原発の原子炉に突っ込んできた場合を想定して防衛体制をとる必要があろう。