4.手順書の確立

製造業におけるリスクマネージメントは、一面品質保証マネージメントでもあるから、国際標準化機構のISO 9000が一つの指針となる。また特に医薬品ではGMP(製造および品質管理の基準)が参考になる。そのなかで中枢的な役割を果たすものに手順書があり、ここで説明しておきたい。もちろん手順書は製造業だけでなく、あらゆる業務について重要である。

その代表的な標準作業手順書(SOP)とは、誤りなく工程を進めるための手順を定めたものであり、一般的な用語でいえばマニュアルといってもよいであろう。マクドナルドの接客マニュアルなどかなり精細なものであるが、SOPの1つと考えられる。思い込み、「何々のはずだった」、誰かがやるだろうというような人為的ミスの防止には大変重要なものだが、あまり細かく規定すると、工程がふえて過誤の確率も増加するという矛盾をかかえることになる。したがって、コンピュータシステムのプログラム同様、工程が少ないほど優れているといっても過言ではない。

各論の中には確かにSOPの不備がもっとも大きな原因であるようなものも散見される(たとえば各論17の美浜原発事故)が、絶対的なものではない。

操作手順書にはフローチャートがつきものであり、イエスノー手順が示される。工程の中間過程での事実の有無によって次の工程が変わってくるからである。手順書どおりに行わなかった場合を逸脱といい、逸脱によってできた製品などを減損するという考え方もあるが、ケースバイケースで審査すべきであろう。

SOP自体はきちんとした工程を定めるものでいいことである。しかし、問題はSOPをどう理解しどう運用するかであって、SOPさえ完全なら、素人でも仕事ができるというようなSOP至上主義は誤りである。SOPがなぜそうなっているのかということを作業者全員が理解することが大切である。したがって、手順書は上から押し付けるのではなくて、作業者自身が作るのが望ましい。

 手順書は日々改善していくことが必要で、その原動力になるのは、インシデント・アクシデント報告である。しかしながら、手順書を完璧なものにすれば事故は防止できるという誤ったドグマに陥らないこと、むしろ従業者に安全の文化を醸成することが大切である。

 手順書のもとになるもので基本的な事項を定めたものを基準書と呼ぶ。たとえば製品の基準書から具体的な製造の基準書、あるいは品質管理基準書、衛生管理の基準書などもある。これらは、作業者自身ではなく、監督者がつくるべきものである。いずれにせよ、基準書の場合でも、その意義を作業者が認識することなしには意味がない。

 わが国の場合、手順書に限らず、会議の議事録などでも整備されていれば内容は問わないというようなところがある。科学研究費の申請や報告、監査報告書等も米国と比べて膨大な資料を要求するが、内容を精査しているのか疑わしい。このへんが形式主義、形骸化と筆者がつとに指摘する理由である。