クエッタに2泊して、午後発の夜行バスでイランとの国境に向かった。クエッタから国境までは荒れた砂漠の景観ばかりが続く。ほとんど街もなく、数時間ごとに掘っ立て小屋の茶屋があるばかりである。さらに道も悪い。国道ということで一応舗装されてはいるが、時折信じられないほど大きな穴ぼこがある。突然ガツンという強い衝撃があり、一瞬身体が浮いて前の座席につんのめりそうになるときは、爆走するバスのタイヤが、穴ぼこに勢いよく取られたときだ。今思えば良くバスが転倒しなかったなと思う。ただ衝撃が半端なく、これではバスもすぐ傷んでしまうのではないだろうか。

夕方、砂漠の真ん中で何の前触れもなくバスが停車した。すると、乗客が次々と砂漠に降り始めた。どうやらイスラム教のお祈りの時間らしい。陽が暮れた後、地平線のむこうの赤紫色の宇宙に向かって、皆が一斉に跪いて礼拝を始めた。私も砂漠に降りて空を眺めた。

夜半になると標高が下がってきたのか段々と暑くなってきた。標高が1600メートルくらいあるクエッタにいたときは春の陽気で一瞬忘れていたが、あらためて自分が酷暑期のパキスタンにいることを思い出させられた。標高が下がればしっかり暑いのだ。酷暑期からは誰も逃れられない。

早朝に国境に到着。ここは村なのか?なんなのか?砂漠の真ん中のようなところに、出入国管理をするちょっとした建物と、お茶や簡単な食事を出すようなバラックが何軒かあるだけで、かなり寂れたところであったと記憶している。クエッタからの荒れた国道といい、この地域は政府から見捨てられたような土地であるようだ。そんな感じだと、こんなに寂れてしまうらしい。パキスタンとイランのお互いがお互いを歓迎していない関係であることを象徴しているように感じた。

国境を越えてイランに入国してすぐ、その辺をウロウロしていたおじさんをつかまえて両替をした。イランは銀行など正規な場所でのレートと、私的に行われるいわゆる闇両替のそ相場とは全然違う。詳しくは忘れたが10倍以上の違いがあったと思う。闇両替だとコーラ一本が数円、夜行バスが数百円とか、パキスタンとそれほど変わらない物価水準で過ごせる。ただ、イランはパキスタンより商品やサービスのクオリティが高い。バスなどもエアコンは当たり前であるし、そもそも道路が素晴らしい。パキスタン側の国境付近の道が劣悪だったから余計に感じるのだが、イランに入って一番印象的だったのは道路事情の良さである。やはり産油国は違うなと思った。
 

国境からザヘダンという街まで乗り合いのバンのような車両で移動して、そこから夜行バスで古都イスファハーンへ向かった。



↑イスファハーンのイマームスクエア

(つづく)