ヒラスズキとスズキの違い

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 先日、ヒラスズキの焼霜造りと塩焼きを夕餉の膳に出したが、娘も娘婿さんも、ヒラスズキそのものを全く知らなかった。

 そこで料理しているときに、書棚から魚類図鑑を出し、ヒラスズキのページを開いておいた。

「スズキにそっくりだけど、ちょっと違いますよね。これ、荒磯にしか生息していなくて、大きく波が砕ける場所でしか釣れないので、危険きわまりない釣りって書いてあるけど、ホントなんですか?」と聞かれた。まさにその通りで、わたしも取材で数回チャレンジしたが、ライフジャケットを着ていても、磯に立つことさえ恐かった。しかもかつて取材でお世話になった関西の方が、波にさらわれ、岩に叩きつけられ命を落としたことも記憶に残っている。

 学問的な識別法は、図鑑に詳細に書かれている。だが滅多に水揚げされない魚なので、実は、鮮魚店でも二つのスズキを知らない店もあるようだ。

 かつて千葉・那古船形の魚屋に立ち寄ったら、「フッコ1尾200円」と書かれたケースに数十尾のスズキの若魚・フッコに混じってヒラスズキの若魚が3尾、混じっていた。

 店の人に「このヒラスズキも同じ値段?」と聞いたら、親方が首を傾げて「どれも同じだっぺよ。どれも200円だ」と言われ、ヒラスズキだけを選んで買って帰ったことがあった。もう数十年も前のことだから味は覚えていない。

 だが今回、ヒラスズキを捌いて、身質に大きな違いを感じた。ウロコを引いて身に包丁を入れると、スズキよりもねっとりと身が刃にまとわりつく感じがした。そして三枚に下ろすと、身割れがしていない。

 釣ったスズキは、すぐに締めて血抜きをして、水氷で締めても、包丁を入れるとまず間違いなく身割れする。

 だがヒラスズキにはそれが無い。

 で、味は、真鯛とハナダイほどの違いがある。真鯛に似た身はヒラスズキで、普通のスズキはハナダイほど身が柔らかい。

 豊洲史上の目利き・丸山氏によれば、ヒラスズキは滅多に入ってこないそうだ。

 もしかしたらいずれ絶滅危惧種になるかもしれなる魚かも知れない。

 だが20年ほど前、東京都の水産試験場のホームに「羽田沖で採捕した稚魚」のデータに、なんとヒラスズキの稚魚が10尾ほど混じっていたという。その頃、千葉県の火力発電所の温排水の噴出口にルアーを投げて、ヒラスズキが釣友にヒットした。もう凄く強い引きで、玉網で受けたとき、「オオッ、こいつヒラだ!」と歓声が上がった、ということがありました。まさに豊穣の海、江戸前でありました。

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