10年ほどまえに仕事上の付き合いのあった人と、ばったり再会。
「えぇと、失礼ですが顔は覚えているのですが、名前が出てきません」
と正直に言ってみたが、
すぐさま、その人の会社と名前を思い出した。
それほど強いつながりが会ったわけでもないし、
その人個人に特徴があるわけでもない。
そして、
この俺はどっちかというと人の顔や名前は覚えない。
だが、どういうわけだか、この人のことは覚えていた。
それがあまりに「特殊」なことだったので
自分自身でひどく驚いている。
ここ数年のことなんてほとんど何も覚えちゃいないってのに。
やがて身体の自由が利かなくなり、思い出の中だけで生きるようになったとき、
俺は「どのあたり」の記憶をたぐり寄せることになるのだろう。