ここでロッドは意見した。「カード参謀、機甲戦闘機に、牙爪は無い。我らに肉迫しての接近戦闘はできないのでは?」
俺はそれを聞きはっとした。「失念していました、確かにそのとおりです、ロッドさん。ならば接近戦に持ち込めば敵機の反撃の危険なく一方的に攻撃できる! もっとも戦闘機は速度が速いから、そうそう攻撃の機会は無いだろうけれど。スパイク、アクス、ハーケンならなんとか」
「ディグニティの戦闘機の能力も解れば良いのですが」
「俺は闘いながらずっと計測していたよ。敵戦闘機は三種類いた。名前も調べがついた」言いつつ紙にメモを取る俺だった。「……出来た。機甲戦闘機の能力はこうだ」
× × ×
機甲軽戦闘機アエロー:攻撃3、防御2、機動4、速度7
機甲戦闘機オキュペテ:攻撃5、防御4、機動2、速度7
機甲重戦闘機ケライノ:攻撃6、防御6、機動1、速度7
× × ×
グレイシャは目を通し、しばし考察してから述べた。「ハルピュイア隊……異国の神話の半鳥半人ハーピー三姉妹、か。アエローならより機動性の高い竜騎兵隊で、先制攻撃さえ凌げば応戦できそうだが、特にケライノの能力はすごいな! 飛竜の一回り上だ」
俺は肯いた。「ケライノはスパイクかアクスなら応戦できる。危険は大きいけどね。オキュペテでも特性によってはなんとか。とにかく戦闘機は機動性が悪いから、ウィンドならまず撃墜されないよ。アエローに包囲された時だけ用心して」
俺は次に書いた。「後は戦車の能力だけど……ケンタウロス隊ね」
× × ×
機甲軽戦車レオンケンタウロス:攻撃7、防御6、機動1、速度2
機甲重戦車ドラコケンタウロス:攻撃8、防御8、機動1、速度1
× × ×
グレイシャは唸った。「機甲戦車とは攻撃に防御が凄まじいですね……これでは竜騎兵は砲弾が命中したら即撃墜です」
俺は説明した。「いや、これは地上目標に対しての話さ。上空の目標に対しては、戦車の装甲は半減するし、まず主砲は当たらない。先制攻撃すれば竜騎兵ならカモにできるさ」
「戦闘機に戦車の特性をご存じとはカードさま、まさか士官学校に?」
「即中退。戦略講師が馬鹿だったからな~。三騎以上の用兵を戦略と位置付けていた。つまり戦術とは二対二以下だとさ。未開の蛮族か? 数を一つ、二つ、たくさん、たくさんと数えるほど数字を知らないのか。言わせてもらえば百万の将兵を用兵しようと、戦いが戦場から出なければ、あるいはなにか入ってこなければ戦術だ。
もちろん、撤退するとかの指揮なら戦場を出るわけだから戦略となる。密使が情報を運んで来た場合も。過半の戦いは戦略で決まる。戦闘が始まる前にね」
「その講師小手先の戦術理論を戦略と呼んでいたわけですね、父上が知ったら怒る以前に呆れて即解雇しますよ。商人として入ったなら、金貨騎士団の士官学校ですね。ちなみに僕は学校へは行かず家庭教師でした」
「いずれ敵に回すとすれば、嬉しいくらい戦闘知らずだ。戦術屁理屈でも負けているのに、俺相手に勝負になるか」
しかしシェイムが意見した。「その講師、まさかスカラ卿? だとすると侮れない。戦略を度外視し、用意されていた戦力だけで戦い抜く、前線指揮官としての戦術腕は抜きんでていた老練な騎士だ。かれは戦術に長けるだけ戦略という名に、諧謔を込めていただけかと思われる。戦略は戦場の外で決まると、割り切っているんだ。俺は指揮官を目指す幹部候補生ではなかったから、かれの講義は受けていないが実戦指揮でのうわさは華々しい。この前の隣国都市を陥落させた戦術も、スカラ卿の発案によるところが大きいとか」
「たしかにスカラっていったよ。でも金貨騎士団のお坊ちゃんが?」
「スカラ卿は平民上がりだ。鼓笛隊の一兵士として少年から従軍し、生き残り昇進し騎士になった経験のある猛者。なまじ最初から騎士として剣を指南された俺がお坊ちゃんだな。とにかく人望実績ともにある司令官だ。前のジャッジの命令で司令官職は処刑というのに助かったのも、人望あってのことだろう」シェイムの顔は歪んだ。「もっとも、騎士兵士が臨機応変な戦術指揮について来られないのさ。中隊長として俺の指揮した兵はまるで魯鈍だったな。それでいて無力な獲物には残虐。戦争なんて馬鹿らしい……なんで戦って来たのだろうな、当たり前すぎて失念していた」
グレイシャは意見した。「あのとき戦いを任されたのはほとんど僕の王錫騎士団でしたよ。敵が戦列を維持できなくなってから、金貨聖杯両騎士団が突撃したのです。略奪暴行の極み、僕は初陣でしたが二度と経験したくありません」
サーナは優しく問う。「だから遊歴にして、『緑の樹林』亭用心棒になったのよね。貴女のような強さと純真さを持っている大人も少ないわ」
「僕が子供なだけです。それは自覚しています」
「あら、いつにもまして素直ね。なにかあった?」
「ティナさんが、性愛を体験しても大人にはなれないと語っていましたから」
一同はここで概ね、吹いている。俺は嘆いた。「あのね、そんなもの体験していないの、グレイシャちゃんは! だからお子様なのだよう……」
「なんという侮辱! ここでいざ決闘を、名誉に掛けて!」
「俺泣いて良い? グレイシャの貞操を守り続けているのに酷いよ!」
「だったら今晩、もう一度一夜を共にして頂けますね?」
俺に断る理由はもちろんなかった。この外見だけでも可憐で清楚、貞淑でいてかつ強く潔癖、非の打ちどころのない美人なお子様、もとい乙女と愛を交わすと思うと、生つばが出て動悸が高鳴った。ああ、十八歳になれてよかった!
ついに告白する。「俺と結婚してくれ、グレイシャ! 知っているだろう、結婚前に子供作ってはいけないんだよ」
「ありがとうございます、カスケードさま」グレイシャは涙浮かべていた。「それは知っています。でもどうすれば子供って作れるのです?」
「ああ、グレイシャちゃんはもう!」頭を搔きむしる俺だった。
みんな笑いを噛み殺していた。そのくらいの分別のあるのが大人だよね。代りに祝福の賛辞がどっと上がる。
サーナママは好意的に見物していた。「あらあら、では結婚式ね、舞台はここでよろしいのかしら? 私の店に戻る、みんな。今度は野次馬を近寄らせないからね。さっそく晴れ着を借りに行くわ。それとも思い切って買ってしまう?」
もちろん快諾し、式典をママに任せ金貨包む。……しかしまだこの場で戦術理論を展開披露していた。離れたところから連絡を取りつつ敵陣の一点に集結、敵が気付き態勢を構える前に突撃してそのまま通過、敵の隊伍を乱し戦意を挫き反撃を受ける前に四散して逃げ散る。連絡を密にして暗号を交え、離れた地点で士気を保ったまま再集結。
これはなかなかの積極案だ。上手くことが運べば……
俺はそれを聞きはっとした。「失念していました、確かにそのとおりです、ロッドさん。ならば接近戦に持ち込めば敵機の反撃の危険なく一方的に攻撃できる! もっとも戦闘機は速度が速いから、そうそう攻撃の機会は無いだろうけれど。スパイク、アクス、ハーケンならなんとか」
「ディグニティの戦闘機の能力も解れば良いのですが」
「俺は闘いながらずっと計測していたよ。敵戦闘機は三種類いた。名前も調べがついた」言いつつ紙にメモを取る俺だった。「……出来た。機甲戦闘機の能力はこうだ」
× × ×
機甲軽戦闘機アエロー:攻撃3、防御2、機動4、速度7
機甲戦闘機オキュペテ:攻撃5、防御4、機動2、速度7
機甲重戦闘機ケライノ:攻撃6、防御6、機動1、速度7
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グレイシャは目を通し、しばし考察してから述べた。「ハルピュイア隊……異国の神話の半鳥半人ハーピー三姉妹、か。アエローならより機動性の高い竜騎兵隊で、先制攻撃さえ凌げば応戦できそうだが、特にケライノの能力はすごいな! 飛竜の一回り上だ」
俺は肯いた。「ケライノはスパイクかアクスなら応戦できる。危険は大きいけどね。オキュペテでも特性によってはなんとか。とにかく戦闘機は機動性が悪いから、ウィンドならまず撃墜されないよ。アエローに包囲された時だけ用心して」
俺は次に書いた。「後は戦車の能力だけど……ケンタウロス隊ね」
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機甲軽戦車レオンケンタウロス:攻撃7、防御6、機動1、速度2
機甲重戦車ドラコケンタウロス:攻撃8、防御8、機動1、速度1
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グレイシャは唸った。「機甲戦車とは攻撃に防御が凄まじいですね……これでは竜騎兵は砲弾が命中したら即撃墜です」
俺は説明した。「いや、これは地上目標に対しての話さ。上空の目標に対しては、戦車の装甲は半減するし、まず主砲は当たらない。先制攻撃すれば竜騎兵ならカモにできるさ」
「戦闘機に戦車の特性をご存じとはカードさま、まさか士官学校に?」
「即中退。戦略講師が馬鹿だったからな~。三騎以上の用兵を戦略と位置付けていた。つまり戦術とは二対二以下だとさ。未開の蛮族か? 数を一つ、二つ、たくさん、たくさんと数えるほど数字を知らないのか。言わせてもらえば百万の将兵を用兵しようと、戦いが戦場から出なければ、あるいはなにか入ってこなければ戦術だ。
もちろん、撤退するとかの指揮なら戦場を出るわけだから戦略となる。密使が情報を運んで来た場合も。過半の戦いは戦略で決まる。戦闘が始まる前にね」
「その講師小手先の戦術理論を戦略と呼んでいたわけですね、父上が知ったら怒る以前に呆れて即解雇しますよ。商人として入ったなら、金貨騎士団の士官学校ですね。ちなみに僕は学校へは行かず家庭教師でした」
「いずれ敵に回すとすれば、嬉しいくらい戦闘知らずだ。戦術屁理屈でも負けているのに、俺相手に勝負になるか」
しかしシェイムが意見した。「その講師、まさかスカラ卿? だとすると侮れない。戦略を度外視し、用意されていた戦力だけで戦い抜く、前線指揮官としての戦術腕は抜きんでていた老練な騎士だ。かれは戦術に長けるだけ戦略という名に、諧謔を込めていただけかと思われる。戦略は戦場の外で決まると、割り切っているんだ。俺は指揮官を目指す幹部候補生ではなかったから、かれの講義は受けていないが実戦指揮でのうわさは華々しい。この前の隣国都市を陥落させた戦術も、スカラ卿の発案によるところが大きいとか」
「たしかにスカラっていったよ。でも金貨騎士団のお坊ちゃんが?」
「スカラ卿は平民上がりだ。鼓笛隊の一兵士として少年から従軍し、生き残り昇進し騎士になった経験のある猛者。なまじ最初から騎士として剣を指南された俺がお坊ちゃんだな。とにかく人望実績ともにある司令官だ。前のジャッジの命令で司令官職は処刑というのに助かったのも、人望あってのことだろう」シェイムの顔は歪んだ。「もっとも、騎士兵士が臨機応変な戦術指揮について来られないのさ。中隊長として俺の指揮した兵はまるで魯鈍だったな。それでいて無力な獲物には残虐。戦争なんて馬鹿らしい……なんで戦って来たのだろうな、当たり前すぎて失念していた」
グレイシャは意見した。「あのとき戦いを任されたのはほとんど僕の王錫騎士団でしたよ。敵が戦列を維持できなくなってから、金貨聖杯両騎士団が突撃したのです。略奪暴行の極み、僕は初陣でしたが二度と経験したくありません」
サーナは優しく問う。「だから遊歴にして、『緑の樹林』亭用心棒になったのよね。貴女のような強さと純真さを持っている大人も少ないわ」
「僕が子供なだけです。それは自覚しています」
「あら、いつにもまして素直ね。なにかあった?」
「ティナさんが、性愛を体験しても大人にはなれないと語っていましたから」
一同はここで概ね、吹いている。俺は嘆いた。「あのね、そんなもの体験していないの、グレイシャちゃんは! だからお子様なのだよう……」
「なんという侮辱! ここでいざ決闘を、名誉に掛けて!」
「俺泣いて良い? グレイシャの貞操を守り続けているのに酷いよ!」
「だったら今晩、もう一度一夜を共にして頂けますね?」
俺に断る理由はもちろんなかった。この外見だけでも可憐で清楚、貞淑でいてかつ強く潔癖、非の打ちどころのない美人なお子様、もとい乙女と愛を交わすと思うと、生つばが出て動悸が高鳴った。ああ、十八歳になれてよかった!
ついに告白する。「俺と結婚してくれ、グレイシャ! 知っているだろう、結婚前に子供作ってはいけないんだよ」
「ありがとうございます、カスケードさま」グレイシャは涙浮かべていた。「それは知っています。でもどうすれば子供って作れるのです?」
「ああ、グレイシャちゃんはもう!」頭を搔きむしる俺だった。
みんな笑いを噛み殺していた。そのくらいの分別のあるのが大人だよね。代りに祝福の賛辞がどっと上がる。
サーナママは好意的に見物していた。「あらあら、では結婚式ね、舞台はここでよろしいのかしら? 私の店に戻る、みんな。今度は野次馬を近寄らせないからね。さっそく晴れ着を借りに行くわ。それとも思い切って買ってしまう?」
もちろん快諾し、式典をママに任せ金貨包む。……しかしまだこの場で戦術理論を展開披露していた。離れたところから連絡を取りつつ敵陣の一点に集結、敵が気付き態勢を構える前に突撃してそのまま通過、敵の隊伍を乱し戦意を挫き反撃を受ける前に四散して逃げ散る。連絡を密にして暗号を交え、離れた地点で士気を保ったまま再集結。
これはなかなかの積極案だ。上手くことが運べば……