
ブログネタ:怖いもの
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『邪な鬼』と書いてジャキ。もっともジャキはこれでいていちおう人間、目下鬼たちの山カッツから、人間の里へ下りるところだ。騎竜ゴーストに乗り、悠然と。そう、ジャキはドラゴンに乗って戦う竜騎兵だ。まばゆい晴天の太陽の下……
ちなみに鬼退治などしてはいないが。ジャキが戦ったのは人間の公国相手だ。皮肉にも、鬼、『悪鬼』の指揮官として。
ふと、ジャキの騎竜ゴーストが言いだした。
「おなか減りました。狩りをしませんか?」
「そうだな、獲物を狩ろう。適当な動物いないかな?」
「小動物発見! さっそく頂きます」
ゴーストは超高速で、空中の獲物を鉤爪にがっしり捕らえた。ジャキは着地させ、たしかめた。
「鳥……種類は解らないが食えるよな。よし、吐息で火炙りにしてくれ。岩塩と火酒持ってきてよかった。うん、美味そうだ」
さっそく焼き鳥肉を食べるジャキとゴースト。
ゴーストは満足気に言う。
「酒は調理に使うと格別ですね。わたしにはまだ足りません」
「おれももっと食べたい。次の獲物を探そう」
「了解!」
快活に答えるゴーストは宙に上るや今度は急降下し、草原の獲物を捕らえていた。ジャキは感心する。
「犬か。まあ食えないことはないな。ゴースト、炙ってくれ」
たちまち犬も食肉と化した。ジャキは舌づつみ打つ。
「ふむ、赤い犬は美味い!」
「わたしはまだ足りません」
「狩りを続けようぜ! こんどはどこにする?」
ゴーストは森の木々目掛けて突進し、たちまち一匹仕留めていた。ジャキは舌舐めずりした。
「猿、か。一度脳みそってやつを食べてみたかった。ナマで生きたまま頭蓋骨切開して食うのだよな。抑えていてくれ」
……ジャキは猿の脳みそに満腹していた。身体はゴーストに与えた。
ゴーストはたちまち平らげると、訴えた。
「わたしはもっと食べたいのですが……」
「おれは満腹だ。酒が無くなったな。買いに行きたいよ。銀貨なら五百枚はある。だがそれより眠くなった」
「ゆっくりご休息を。わたしは狩りに向かいます」
……ジャキが気付くと、もう日は沈んでいた。驚いたことに、ゴーストはたくさん包み紙を持っていた。問い詰める。
「まさか人間の村人を食べたのか?!」
「いいえ。近寄ったら村人はみんな、「お菓子はあげます、お菓子はあげます」って言って、勝手に。なんだってみんなわたしにただで食べ物くれるのですかね」
「景気の良い村だな。おれも入ろう」
ジャキは上機嫌で村の酒場に入った。銀貨を一枚取り出し、看板娘に渡す。
「酒を持ってきてくれ! 上物を」
看板娘は驚愕の声だ。
「お客さん、無事だったのですか? 村は魔物に襲われて……」
「そんなものは怖くないね!」
「では貴方こそ勇者だわ! 伝承によると果実から勇者が生まれ、猿の妖魔ハヌマーンと鷲の魔獣グリフォン、それに地獄の番犬ケルベロスが彼に協力して、鬼の山の悪鬼を退治に向かってくれるはずなのです。ではきび団子をお渡ししますからぜひ……」
「ふむ? おれはそんな器じゃないよ。軽く食べてしまうのによさそうな仲間だな。鬼だからって殺して財産奪うのはいけないよ」
運命に描かれた脚本をまるで無視して、ジャキは酒を飲んでいた。
(終)
後書き 天に唾吐く神聖冒涜行為ですね。多々昔話は脚色されましたが、これは……外れ過ぎ。別に反省なんかしませんが。