味方の量産型雑魚隊を誤認し全滅に追い込んだヒロインの私、千秋は無敵の人型兵器全長十七メートルのナックルファイター内で、経緯を黙って聞いていた。
通信に割って入る声と、映像。豪奢な衣服に身をくるんだ、やせぎすな疲れ切った顔の冴えない男。眼が子供みたいにキラキラしているが、たぶん重度の躁病なのだろう。こいつがシント君主リティンか。
「まさかMS隊を全滅させてしまうなんて! あれは対ゴキブリグレーターデーモン退治の為に、ナックルファイターを援護する目的で余は召喚したのだよ。人工知能無人機だったのがせめてもの救いか……ああ、落ち度が余にあることは認める。まさか召喚後寝落ちしてしまうなんて……歳かな、体力の限界だ」
ソングが優しくなだめていた。「陛下は気落ちなさらずに。シントの守護神。絶対に必要なお方ですわ。才能は国民の誰しも認めるところです」
「才能なんて技師には関係ない。必要なのは1に体力2に気力、3、4、5もみな努力だ。余は兵法は知らない。各員の勇戦を期待するのみである」
超人的な能力を誇るエスペランサ隊が健在なら戦力になったのに……かれらがいなくったいま、私たちは現有戦力だけで戦い抜かなければならない。
ミリタリーヲタ風に言うと、戦略面で戦場戦略は設定された。後は個々の戦術面で戦い抜くのみ、た。
私のナックルファイターには、優輝とアヴィが……黒猫と白猫が射出兵器としてついてある。他には量産機を三好、公星、アレス、リディア、セオ、ドーハンが操縦する。
陸戦兵の味方はいない、シントの街は機銃座で埋め尽くされ、戦車に戦闘機があるとしても頼りない。
これ以上の戦力は無かった。軍事予算問題で。月にマス・ドライバー基地なんか設置するからだ! こんなマッドな君主に治めさせて、市民は平気なのか!?
アレスは優しく声を掛ける。「デーモンとの戦いなら、ナックルファイターの望むところです。戦力的に優位。なにも心配はいりません」
公星は警告した。「今回のデーモンは、ゴキブリの不浄霊が集まったものです。人間の怨霊相手とは勝手が違うかもしれません」
セオは語った。「霊を鎮めるなら、神官たる私のよくするところです。巨大ゴキブリの不浄霊相手では、どこまで通じるかは解りませんが……」
ドーハンは楽観的だ。「戦ってみなければわからんわい。このカラクリ機械の動き、まるで二十歳に若返ったようじゃ」
ここで日が沈んでから一刻立ち、完全な闇夜となった。新月の夜。デーモンは現れナックルファイターのレーダーに捕捉された。
リディアは慌てて報告した。「デーモンの群れ、三十万匹もいるわよ! あれを相手にするの? ナックルファイターより全長二倍は大きいし」
アレスは叱咤した。「諦めるな! 雑魚どもを何匹倒しても終わりは見えないだろうが、親玉を斃せば残りは消えるはず! そこまでの血路を開けば!」
三好は注意した。「気をつけなさい、いくらナックルファイターが強くたって、何体からも組み敷かれたら起き上がれないだろうから、危ないわよ! 初の床入りがゴキブリ相手なんて青春はダメよ!」
と、ここで突然通信が割り込んだ。地上からだが、生身!? 危険なのに。見ればフルプレートすらしていない少年少女三名。
「僕たちの出番のようですね」と、若者の声がした。コウのほか、高校生らしいおとなしそうな日本人少年に、まだ小学生であろう女の子がいる。コウは語る。「大麻栽培を諦めました様子ですね。僕らは退魔士としてならば、喜んで参戦しますよ」
大麻と退魔……この世界の『紙』はオヤジギャグをつくづく好むな。四十路も近いと人間こうなるものか。ああ、歳は取りたくないなあ……
(続く)
後書き すまいるまいるさん、亜崎さま、akiruさま、ゆきえもんさま、SPA-kさま、初孤羅さまありがとうございます。みなさまの貴重なキャラをできるだけ反映させます。
追記……みなさまのブログのリンク貼りをしたいとは常々思うのですが、私はその方法を知らないのです。訳あって携帯からしか操作できないのですが、検索してもタグとかまるで理解できない……プログラム言語ならオブジェクト指向使いこなしていた過去があるのに、情けない(T_T)。