私は新庄真理。新都心の某薬局勤務の二十四歳の薬剤師。非凡なところは、アニヲタでコスプレイヤーなところくらい。
外野から違うだろ、との突っ込みが来た。潔癖鉄壁無敵の乙女、ハイブリッド重装甲の上に触ると爆発するチョバム装甲をし、精神障壁フィールドまで兼ね備えているガンダムにも勝てるスーパーマリ。余計なお世話だなあ。私、装甲なんて着ていないわよ、普段は薬剤師の白衣。
私には才があった。学識を生かした薬物精製を利用した、護身術の天賦の技量。身長百五十六センチで切れ長の目、くせのある長髪と整ったスタイルの私は男の目からは美人に映るらしい。たびたびナンパで軽薄な男の誘いを受けてきた。でもことごとく撃退した!
女をルックスで判断するような男、人間の屑よ。つい最近も深夜コンビニ前で暴走族七、八人から粗野な誘い声を口々に乱暴に掛けられたことがあった。一対一で女を口説けないようなヤツ、産廃以下よ。次の朝のニュースでは、暴走族がコンビニ駐車場で乱闘して負傷し全員倒れていたとの話題が少し流れた。あら何故かしらね、暴力沙汰に訴えるなんて最低よ。
私には彼氏いないわ。学生時代付き合っていた男いたけれど、就職してから疎遠になっちゃった。自然消滅?
でもめちゃ頼りになる親友がいる。学部違うけれど同期の方城逢香。彼女剣道三段なの。昇段試合も受けると聞いたわ。身長も百七十一センチとモデル並みに高いしかっこいいよね! まあ顔が美人系ではなく可愛い系統だから、動物の「着ぐるみ」みたいだけど。言っては悪いけれどね。
その逢香も最近彼氏と別れたらしい。彼氏、すごく社会的に貴重で難解なソフトウェアの開発をしていて、男ばかりのせせこましい電算機室に休日返上で缶詰なんだって。
オフの日に互いに薄い化粧とお洒落な衣服で軽くめかし込んで二人で逢って、街の散策とショッピングを楽しむ。それから庶民の味方安いファミレスに入りワインとピザを頼む。
さっそくグラスワインを前にその話題。私は問う。「真琴ちゃんのことだけど。ほんとうに好いの? 逢香」
逢香は寂しげな、でも嬉しそうな眼を向けた。「自分に誇りを持てない男が、女を愛せるはずはない。そう言っていたわ」
私はその後を問わなかった。内心語る。素敵な心掛けよね、そんな男情熱と勤勉、真摯さを持ち合わせる人間滅多にいないわ。逢えただけで人生の宝物よね。
逢香は話題を変えた。「真理の最寄りのコンビニで、暴走族が倒れていた件だけど……あれって真理、なにまた使ったの?」
私はさらりと答えた。「事故は予期しても起こるものね。物騒な世の中だわ。犠牲になるのはたいてい弱い女子供老人よね。その例外でなによりだわ」
逢香は苦笑している。「あれを事故と言い張るの。さすがね。そいつら恐喝にひったくりの前科もあったし、院行きかしら?」
「働きもせず学校にも行かず、親に買ってもらった、あるいは下手すると盗んだ、それもわざわざ騒音大きくするマフラーのバイクに乗って無免許で走って、深夜に騒音撒き散らす連中よ。喧嘩上等とかいいつつ、寄って集って他人を傷付けるばかりで痛みを知らない、甘やかされて育ったお坊ちゃんよ。そんな腐れガキ連中世界にいないほうが好いじゃない」
「まあたしかに、不良なんてつるんで数で力を誇示しているだけよね。そういうのは一対一では喧嘩もできないどころか、目も合わせないわ。それでいて自分をかっこいいと思っている」
「例外も居たでしょう? 私には涼平とか、逢香は真琴」
「とか、か。真理はモテるものね」
「逢香が『妖精の王子様』、真琴一筋だっただけでしょう? 直人なんか逢香もナンパしていたじゃない」
「まあそうね。私は新しい恋ができそうにない……」
「あの鬼才、ジェイルバードのマスター神無月真琴の才能と他の男比べては暴力よ、逢香。私なんて。涼平、ヘビースモーカーでロリコン、一典、短絡的で優柔不断、直人、大酒飲みのろくでなしだったわよ。みんな『掟』は守っていたけれど」
「真琴も初めて出会ったころは、髪の毛染めてつんつんに逆立てて、サングラスしていたわよ。生ガキなんだから」
「懐かしいわね、かれはマーダックと名乗っていた。初めてのジェイルバード・ファーストデッキ結成だったわね」
逢香は断言する。「それでもジェイルバードの面々はみんな孤高の戦士よ。集まれば無敵の力を発揮するけれど、みんな一人でも戦い抜く覚悟があるわ」
「正規隊員は全員で十三名か。するとまだ出逢っていない隊員も多いわね」
逢香がやれやれと言う。「元が秘密結社みたいなものだもの、仕方無いわけね」
私は否定した。「違うわ。『紙』とか呼ばれる世界の『創造主』が、無能で怠惰だからよ。全員の隊員なんておそらくもとから想定していないわ。その後の運命も」
「では私は忘れ去られて行かず後家になるの? 嫌ぁ!」
「私もよ。可能性は高いわね、逢香。『紙』っていわゆる官能ものを嫌うから甘いロマンティクもありえない」
「未来からの風の知らせによると、真琴は十歳年下の女子高生と結ばれるらしいわ! 私三歳以上年上だし……」
「古今東西男はみんな年下好みなのよ、ロリコンよ。ケダモノよ。鬼畜よ。適齢期数え十五歳と時代が違えば私たち行き遅れの年増よ。ここは新しい出会いに期待しましょう……願っても無駄かもしれないけれど」
「彼なんかどう? 如月士浪。『ソードダンサー』戦役の時の真琴の後見人で七歳年上の紳士よ。あるいは中河大地。『時の鎖』戦役の敵だけど有能よ。二人ともイケメンだし。って……真理は打算や外見で男選ばないのよね」
「あら私、計算高いわよ。理想と実力共にある男が好みだから。それでいて、私自身自立した女性でありたい」
(終)
後書き 年頃になったこの二人を書いてみました。未来の話は『ステイルメイト』とか一連のコラボ作で作ってあるので、蚊帳の外に置かれた真理と逢香はどうなるものか……
私を含め、私の友人は、相手はいるけれど経済的に子供育てられないから結婚できないのが多いのです。子供作らない約束で、籍だけ入れているカップルもいます。