『軍議』を終え、各隊員は割り当てられた個室へ戻った。もっとも出入りは自由だから、カップル同士友人同士で集まっているのが普通だ。

 霞……いまは二人きりだから本名の水沢瞳は、アジトの個室で俺とチャブ台を挟んで談話していた。「良いレクチャーだったわ、不知火くんには才能があるのよ。誰にも真似できない、ニーズに対するシーズ、ええと……科学技術的先見性の素養」

 笑い飛ばす俺だった。「俺はまともに授業や講義なんて受けたことがない。大半は……いや、すべて独学だったといっても良い」

 悪戯にからかう瞳。「それはたいそうな自慢話ね、良く大学院出られたわね……飛び級までして」

「病気さ」俺は軽く言う。

「え?」ぎくりとする瞳。

「少年時代から、過酷な現実を受け入れるのが嫌で、外界をシャットアウトしてしまったのさ。だから学校は通えても授業なんて頭に入らず、暗記ものは一切できなかった。反面、知的好奇心が傾いていた数学の教科書はすらすら読み進め、身に付いた」

「やっぱり自慢じゃない。独学で他の教科も学んだらオールマイティだったわよ」

「常に授業と別のページ読んでいるから、教師から指されたとき問題がなにか分からず答えられない。だが中学レベルの数学、というかそのころから大学受験の校外模試なんて学んだ範囲は満点だったけどな、数学だけは。学んでなくても即興で解けることも多々」

「決定的に偏っているわね、普通できる人はどれか一つに長けると、自然と他の科目も軒並み伸びるのに……それも人並み以上に。まあそれが天才の所以か。授業聞かずテキストも読んでいないなら仕方ないわ」

「神無月はテキストを読み、自らの理論と突き合わせ検証し、納得して証明してから講義に臨んだ。大学は学ぶ場ではなく、確認するためだけの場所だったよ。トンデモ理論でっち上げて肩書きだけ博士号取って」

「その理論が民主制改革のソフトの発端ね」

「いささか劇薬だから、社会に出るには早急に過ぎたよ。きみの言う通りだ。資産家が私腹を肥やす権利、弱者が野垂れ死ぬ自由……」

「それもドラステックに改革されたわ」

「は、子供の夢だな。ドラえもんの持っている魔法のステッキか」俺はナノマシンを扱えたら、魔法使いになれるなとぼんやり考えていた。これは考慮しよう。

「ボケているように見えて、本気で言うところが素晴しいわね」何故か優しく微笑む瞳だった。

「?」俺は理解できかねたが、まず懸念を口にした。「AIのコウがどうも最近不調なんだ。常識外の統計ばかり口にする。まあ最初の銀河恐竜跋扈説は、宇宙へ出て確かめられた……地球に招いた分だけで総数が7×10の13乗としては、あの数百万のミサイルの津波だって微々たるものだろう。しかし彼らが地上に召喚されたと報告されたのに、現れていない」

 瞳は肯いた。「まったくね、今までどの仲間も……恐竜のことは触れられていないし直に見てもいない。ニュース報道すら、最初の発端の科学トピックなんてとっくに消えてしまった。そこが知りたいわね」

「いま打てる手はない。ただナノテックに対抗する策を立案するべきだ。もっとも俺は『ステイルメイト』戦役で明らかのように、A級パイロットではない」

「謙遜しちゃって。不知火くんはA-級って言ったでしょう? S級のわたしが指揮官ならこうする」

 瞳は九騎のドラゴンを三騎ずつ三小隊に分けた。

「一、高速追撃駆逐掃討部隊。敵陣を引っかき回す、オトリも務めてもらうわ。防御力が心配だから攻撃を受けると脆いわね、そこは作戦で」

騎竜シザーズ  :攻撃3 防御1 機動5 速度7

騎竜ニードル  :攻撃1 防御1 機動7 速度7

騎竜スレッジ  :攻撃7 防御1 機動2 速度6

「二、拠点防衛迎撃部隊。真正面から敵に対峙するなら、この部隊よ。もっとも速度に欠けるから、逃げる敵の追撃はできないわ」

騎竜ブレード  :攻撃3 防御3 機動7 速度3

騎竜アクス   :攻撃6 防御6 機動2 速度2

騎竜サイズ   :攻撃5 防御5 機動5 速度1

「三、バランス混成部隊。他の部隊の補佐に使うわ。主力が接敵したら、一気に投入すべきね」

騎竜フラッシュ :攻撃4 防御4 機動4 速度4

騎竜ハーケン  :攻撃5 防御6 機動1 速度4

騎竜フォース  :攻撃1 防御7 機動4 速度4

 俺は感心して意見した。「速度別に分けるのは妙案だな。しかもどの小隊も、攻撃向きと防御・回避向きが混ざっている。理想的に運用すれば統一指揮の欠落した敵部隊なら、数倍だって危険なく倒せる理屈だ。あ、それからリムの騎乗したウィンソンのデータは」

ウィンソン   :攻撃6 防御4 機動5 速度7

 瞳は感心している。「竜騎兵より二回り近く強いわね、彼らにひとたび狙われたら、反撃どころか防御も逃走も至難。かといって猪突は禁物ね。敵からすればどうせ倒すなら、攻撃能力の高い敵からにするでしょうから。わたしが敵なら、ウィンソンを真っ先に包囲するわよ」

 ルールは攻撃が命中するつど加害側の攻撃と被害側の防御を比較して、対等なら五分五分の可能性で倒せるということだ。さもなければ数値の差が現れる。

 機動は運動性能、旋回能力の高さで攻撃が命中するか、攻撃を回避するかはここで決まる。つまり命中率、回避率双方だ。

 速度はまんま飛行スピードだ。速度が高ければ、困難な戦いから逃げることも、敵の逃走を許さず追いすがることもできる。現実の戦闘機戦では二十世紀末まで最も戦闘機に重要な能力とされていた。それが、どんなに速く飛んでもミサイルからは逃げられないことから、機動性が重視されるのに変わっている。

 この竜騎兵性能評価システムは前世紀末期に、元は戦闘機戦闘模擬戦闘としてウォーゲームマニアの日本のエンジニアが考えたらしい。経営戦略に応用されるランチェスター戦略の影響も多分に受けており、エンジニア魂が光る。

 ここで、扉で大きなノックがした。ハムの声がする。「入ります!」

 応答を待たず、いきなり扉開け入ってくる公星。個室にはベッドもあるんだぞ! もし俺たちが子作り……もとい、愛を営んでいたらどうする気だ!

 ハムは叫んだ。「ナノテックに魔人が現れたようです。『籠の鳥伝奇』戦役の時と同じ展開になれば……まさに現代、惨劇が起こります!」

 ! 俺は立ち上がっていた。頭に血が上るのがわかる。激情に視界が茜色にかすむ。

 なんてことだ! ナノテックが魔法使うとは。総力を挙げての消耗戦となれば泥沼化するだけだ、戦禍の傷口は広がる一方になる。

「不知火くん、熱くならないで、あなたらしくもない……わたしたちの力なら、合わせればきっと対抗できるはず」霞は俺をなだめた。「だって『紙』の勝手な都合で世界が壊され、わたしたちがワリ食うのなんて馬鹿らしいじゃない!」

 

(グルっぽ『自由創作表現同盟』(管理人、初孤羅さま)の会員有志さまのご提供キャラに、出演頂きます二次創作です。

 亜崎愁さま、初孤羅さま、akiruさま、秋月伶さま、ゆきえもんさま、SPA-kさま、すまいるまいるさんありがとうございます。

 スレ『RPG風キャラデザインで遊ぼう†』の登録キャラで構成します。不知火ら一行の敵味方その他、コメントないしメッセージ受け付けます。

 キャラに取ってほしいアクションとかセリフとかあれば、連絡ください。めちゃくちゃに盛り上げるつもりです。

 追伸……著作権はキャラ提供者さまにあります)

(続く)