経過はあまりにあっけなかった。春に冬将軍戦法、焦土戦術とは効くね! いや聞かない話だが効果は絶大だ。いくら強くても食べ物が無ければ動けない。
俺はあの怪獣ペアが攻めてくるのは、深夜と思っていた。それも、昨日の翌日、つまり今日の。今日中に俺たちの戦力を把握し、人の目盗んで深夜猛獣と化して襲撃に来る……ならば今朝は睡眠時間に充てるはずだ。その間に暗躍する俺。
ウィンソンとリムの銀行預金カードのIDとパスワード、それに契約者名に生年月日をハッキングで探し出し、カードを紛失したと銀行に虚偽の申告をして、使用不能にしたのだ。
これは、使用不能にするなら銀行側は即実行するが、使用再開の時には時間が掛かるし、なにより銀行に通帳と実印を持って直接出頭する必要がある。そこまでの猶予はないはずだ。大量の食費を下ろすことはできない。つまりあの二人はもう動物になれない。
それに得物のナイフピストルは破壊した。等身大の人間としても卓越した力量はあるだろうが、これではもはや俺たちの前には多勢に無勢。大勢での弱いものいじめはガラではないがね。
そうして朝の九時半までに『仕事』を済ませ、ベッドにうつ伏せになり泥のように眠った。自然に目覚めると、時計は二時半を指していた。五時間熟睡か。
巨大ハム☆が事実を報告する。「ウィンソンとリムの身柄を確保しました。恭順の意を示しています」
身柄は押さえられるとして、恭順とは意外だった。「ナノテックの非道性を二人に伝えたのか?」
「いいえ。強いて挙げれば私が少し愛の歌を聞かせてあげただけですがね~」少し得意げなスターハムだった。「かれらも獣として、私に共感したのでしょう、きっとよい仲間になれますよ」
話が上手過ぎるな……否、美味過ぎるか。油断して猫と鴉に喰われるなよ、生ハムの星……公星よ。それはさておき。「二人の待遇は礼節をもってしよう。ジェイルバードの資金力は戦力費用としては少ないが、衣食住の生活レベルからは莫大だ。それと引き換えに協力を仰げないかな? 一気にアレスとリディア救出してもらえるとしたら、このペアは絶好だ」
「それでは派手になり過ぎでは? カズキと朱莉のペアもよろしいかと思いますよ」滔々と語るハムスターは、すでに参謀の見識と貫録である。
ふむ、この公星は食糧にするのは惜しいな。食べなくてよかった。
しかしここで意外なニュースが飛び込んできた。俺には不得手な分野の経済欄からだが。
日銀が大幅な金融緩和で貨幣の発行高を増やし、円安インフレ傾向になりつつあると?! 株価は軒並み上昇している。世界的に好景気な話題が少しではあるがうわさされている半面、大幅な貿易赤字が。
俺はぼやいた。「工業製品の消費は、デフレ社会では求められたが過度なインフレ社会では有害だな、あまりに加速度的な変化は劇薬となるだろう。伝説のバブル期みたいに、高景気と同時に円高にならないのならなおさら、下がった円だけ日本は損する」
「そうかもね、わたしは社会学の先生が話されていたのを聞いたわ」霞も話し始めた。
……戦争なんていまの文明社会あってはならない。過去と現在、物の価値観も金銭面での価値もまるで違うのだ。百年、五十年前なら、まず必要なのは社会の運営維持、食糧生産だった。ここまではまあ健全なのだが。戦争が起こるのも、生きていくための最悪ではあるが最後の非常手段と割り切れる。しかし。
それが伝説の日本が経済世界一の『飽食の時代』を迎え、庶民は薄っぺらい歪んだ虚栄心を満足させるために『今はこれがナウい!(今とナウとは重複?)』『流行に乗り遅れるな!』をキャッチフレーズに巷でブームの商品をとにかく買い漁り、持っていないものに自慢していた。どんなにくだらない商品であれ、流行りものは売れた。
科学文明進歩の時代、たとえ無意味で無価値であれ、とにかく新しいものが最上とされた。歪んだ消費経済、どんな下らない実質的に役に立たない商品でもブームなら売れた。持っていないものは、『遅れている』、『ダサい』、貧乏人と馬鹿にされた。ちなみにいまこれらの単語は死語に近いから、いま言うと恥掻くどころか新鮮な響きね。
電気製品からしていまの製品と比較すると一万分の一の性能もないオーディオ機器が軽く十万円単位で取引された。日本で最初の電卓なんて桁数が六桁、つまり百万円未満しかない。しかも液晶画面はとても小さいのに本体はいまのノートパソコンみたいに大きいのが、昭和中期当時物価が安かったころに数万円したとか。いまの金換算なら、性能億倍以上のパソコンが買える。単なる電卓ならいま十桁以上の小型で使いやすいのが、百均で買える。戦争の理由なんていまの日本も世界もどこにも無い……
……と、霞のレクチャーはこんなところだった。俺は想いを馳せた。
庶民はテレビコマーシャルの軽薄な宣伝に流されていた。マスコミに洗脳されていたといってもいいな。近代史は狂っている、歪んでいる、欺瞞に満ちている。それが情報化社会を迎え、いちばん大切な価値のあるものはなんだろう……と突き詰めると、人間各々個人の、世界の、自然な地球に芽生えた文化とその遺産に行きつく。
どんな仕様の形態で在れ、文化こそが至上の宝なのだ。個人の知的財産はなにより勝る。
しかも、実質的に商売にする理由は無い。無料であるいは新聞代を高くした感覚の定額制で動画音楽活字垂れ流しに、好きなものから楽しめるいまは理想社会だ。しかもCMが入らない分、余計な大企業の金儲け主義の番組に付き合う理由もなく、むしろ健全だ。
不景気ってされても、みんななにが不満なんだ? 肉の値段は野菜に並ぶほど安くなったし、トイレのウォッシュレットなんて二昔前は無かった。温度管理風呂も。三昔前ならエアコンどころか灯油ストーブすら、一家に一つリビングにあるだけだったと聞く。水道もお湯が出ない。
酒はタバコと同じ、定額だった。しかも過去安かったタバコと違い、高級嗜好品だった。ビールはロング缶300円した。いまは発泡酒ならディスカウント店に行けば半値以下で買える。
繰り返すが、文化こそほんとうの宝なのだ。自然に歴史的遺跡に個人の芸術、技術、学問、スポーツ競技。これらを戦争で失われるなど、いまの時代愚行甚だしいではないか。
人間の文明は進歩している。こうして全世界が光で繋がった交流の輪、平和という絆結べる夢の時代。しかし日本は政治経済外交面防衛面で大変な窮地に立たされている。この現状を打破したかったのだ、俺ではなく神無月は。
(自由創作表現同盟会員有志さまのご提供キャラに、出演頂きます二次創作です。
亜崎愁さま、初孤羅さま、akiruさま、秋月伶さま、ゆきえもんさま、すまいるまいるさんありがとうございます。
コメントないしメッセージ、スレ『RPG風キャラデザインで遊ぼう†』の登録キャラで構成します。過去の出演キャラでも再登場承ります。連絡お待ちします。不知火ら四人の味方役敵役その他勝手にでっちあげますが。
キャラに取ってほしいアクションとかセリフとかあれば、連絡ください。めちゃくちゃに盛り上げるつもりです。
追伸……著作権はキャラ提供者さまにあります)
(続く)