俺ジェイルバード・マスター不知火は、先のラジオニュースの情報を検索していた。まさか現実世界にFRPG、架空中世西洋風戦士が現れるとは。たしかにいまや、人間サイズハムスターまで堂々闊歩している始末だから、むしろ自然な来客ではあるか。
戦士アレスにリディアか。異世界のジェイルバードつまりアナザーデッキ隊員の可能性が高い、というか間違いない。勇者アレスに女剣士リディア。端末をAIのコウに繋いで調査……
……検索ヒットした。彼らは未来異世界のシントへデーモン討伐に招かれた。やはり、アナザーデッキということだ。警察の手に掛かっているとは言っても、ここは助け解放する必要があるな。同志だから。
直ちに夜中ではあるが直人、涼平に話しておく。霞、朱莉、カズキはお子様、寝る時間だ。石田はまだ帰っていないし、浅尾は泥酔して寝込んだままだ。ハムは夜行性なのか? 起きているが。長い夜だな。
ゆえに俺は宣言した。「任務だ。これより刑務所に乗り込んで、件のアレスとリディアを救出する」
涼平は苦笑した。「おいおい。違うだろ、いきなり刑務所に送られるはずはない、この世界では初犯扱いだろうし。ただ持っていた剣に使用した痕跡がおそらく残っているな、これはやっかいだ。刃こぼれ、血さびとか……血液反応も検出されるだろうし、少し取り調べは厳しくなるかも知れない」
「あ、そうなのか。俺法律とか司法とか知らないし」
「俺も詳しくはないが、刑務所は裁判で有罪となってからのはずだよ。おそらくまだ警察署で事情聴取最中だな。それに二人とも従順にしているらしいな、強情を張ったりせず、素直に武装解除に応じて。留置所にすら入っていないさ、それより問題は……」涼平は言葉を濁した。
「なにかあるのか?」
「想像つかないか、素直に彼らが、異世界から時空を超えてやって来たなんて話したら、現実現世の誰が信じるよ。お堅い警察官連中なんて特に。悪ふざけだと思って厳しく追及する……としても二人の証言が変わらないなら、勇者たちの行き先は刑務所ではなく精神病院だ。なまじ入院期間は刑務所より長いかもな」
俺はゾクリ、とした。俺は……正確には神無月真琴は入院の体験があるのだ。神無月は民主制を抜本的に改革する『ソフト』を作り上げ、その運営保持に忙殺されて自我を崩壊させた。俺はかれの『残骸』を寄せ集めて出来た偽人格なのだから。精神科は、病棟によって環境は天と地だ。
金持ちが療養目的に入るような病棟なら白く清潔で広く、看護師職員みな優しく親切で、まるでリゾート施設。しかし病状の重い貧乏人が入るような病棟は、刑務所と変わらない。狭く薄汚れ、異常気質な患者が奇行を繰り返し、盗難や嫌がらせ頻発する。職員も陰鬱だ。単なるうつ程度で入院したら、かえって病状が悪くなる。
どのくらい入院生活が過酷かというと、かつて初日の出暴走にも加わった元暴走族がいるのだが、精神科に入院したときはものの一週間で耐え切れず、「もう悪いことしませんから出して下さい」と泣いていたとの実話がある。
ふいに直人が話しかけてきた。「アレスとリディア、ナノテックに目を付けられる可能性が高いな。ウィンソンとリムの二の舞は避けたい。なんとか阻止できないか、不知火」
はっとする俺だった。予見して然るべきところを失念していたな、それをこんな酒飲みに指摘されるとは迂闊だった。「そうだな、手を打とう。ガチに決めるさ。ハードウェアならやつらが上だが、ソフトウェアなら俺が制して見せる」
涼平は感心したように言う。「それが神無月の能力か……クラック行為で接点を断つのか」
ここでハム☆も進言した。「不知火さんは、言語こそ優れますがかなり高等数学をお忘れのようですね。質問があればなんなりとお任せください。数学科学士程度の知識でよろしければ、ですが」
俺はぐったりといった。「神無月にとって、数学だけが取り柄だったのにな。毎回数学だけ模試満点偏差値99。それを褒められもせず、他は軒並み人並み以下の低水準の劣等生」
しかしここで直人は意外なことを引用していた。「良い親は百点満点にただ肯き八十点台を褒め、それ以下を慰め励まし、むしろ九十点台を厳しく叱るものさ。百点取れる実力があるのに、何故努力しなかったのかって意味だといまになって知ったよ。これが理想なのだろうが、子供が全科目百点では事情が違ってくる」
「直人、それおまえの体験か?」
直人は皮肉にふっと息を吐いた。「不思議か、これがおれでは。こんな親心は当然子供には分からない。努力して九十点で叱られているようでは、なまけて零点で呆れられて放っておかれた方が良いと逃げてしまう。いじめの続く絶望的な学校という名の監獄の中」
「直人……おまえは負けてはいないよ、仕方無いさ」
「そこで逃げて負けて……おれは駄目になった。いまさら取り返しはつかない。高校は偏差値的にそこそこだったから、穏やかで目だったいじめはなかったが、一流とはとても言えないレベルからの劣等感に苛まれて、通う気が起こらなかった。恥ずかしかった。やる気がまったく起こらなくなった。酒買って飲んで。足りずにくすねて酒浸りになってなにもかも破滅して中退したよ……そこから合法スレスレの野良機械工、無職の浮浪者と大差ないジャンク屋商売さ」
「俺の私見では、私欲で詐欺や横領をするヤクザや役人よりは、住所不定無職の窃盗犯はマシだし、犯罪をしない浮浪者のほうがプライドは高い」
「ありがとう。だがいまは……おれは必要な時戦うことを辞さない。別れはしたが幸せにいてほしい真理のためにも……まあ、逃げないとはいわない。退路は常に確保する。戦屋のセオリーさ」
俺は直人を部下に持ち得たことに、初めて誇りを感じた。こいつはけっして間違ってはいないし、人の道を逸れてはいない。罪は許される。
そして俺は誰より強い。蠢動するナノテック、あいつらは間違っている、付け入る隙がある。だからやつらは負けるだろう。俺は真実を掴んで見せる!
俺は全員に睡眠を取るよう命じると、臨戦態勢に入った。これからナノテックの情報網に介入、錯乱だ。電子端末を操っての戦いは、俺の本懐……勝つ。
(自由創作表現同盟会員有志さまのご提供キャラに、出演頂きます二次創作です。
亜崎愁さま、初孤羅さま、akiruさま、秋月伶さま、ゆきえもんさま、すまいるまいるさんありがとうございます。
コメントないしメッセージ、スレ『RPG風キャラデザインで遊ぼう†』の登録キャラで構成します。過去の出演キャラでも再登場承ります。連絡お待ちします。不知火ら四人の味方役敵役その他勝手にでっちあげますが。
キャラに取ってほしいアクションとかセリフとかあれば、連絡ください。めちゃくちゃに盛り上げるつもりです。
追伸……著作権はキャラ提供者さまにあります)
(続く)