この珍事はネットニュースの片隅に、偶然挟まっていた科学トピックのトンデモ仮説から始まった。

 ‘恐竜は絶滅してはいなかった’、と。

 ‘恐竜は進化して科学文明を築き、宇宙船に乗り銀河開拓へ乗り出した……恐竜は巨大隕石衝突の事実を予知していた。地球脱出、いまや銀河宇宙は現在竜の眷族が支配している……’

 

 舞台は二十一世紀日本新都心郊外の公園。雲の見えない晴天の春の日差し差し込む眩い早朝のこと。三十代前後の男三人が公園の一角のベンチに歩み寄っていた。俺もその一人だ。三人は集まるや、しばし無言だったが、値踏みするように視線のみを交わし合う。

 俺こと不知火は、元部下に挨拶した。「また朝から飲んでいるな、不良中年!」

 三十路半ばの小柄な男が怒鳴り返す。「おれはまだ中年じゃない、このガキ!」

「なにがガキだ、俺は二十九になるぜ、意味もなく歳食って。先輩方は何歳年上だったっけ?」

 同じく三十路半ばの人並みよりやや高い背の男は、いまどき強いロングピースを吹かして笑う。「不知火はまだ春だろうが、時代は移ろいだな。俺たちの春は過ぎたさ、直人。いまは灼熱の真夏の中だ」

「おまえはそうかもな、涼平」やれやれと言い返す直人だった。相変わらずポケット瓶の安ウィスキーを、強烈なストレートであおる。

 俺だって酒飲みだが、乱れた飲み方はしないことにしていた。「俺は冬の情緒を好むよ。どんなドリンクよりも鮮烈な冷水が好い」

 直人はふっと笑った。「とかいって現役女子大生と付き合っているリア充は誰かな? 十歳差って犯罪だろ、ジェイルバード・マスター神無月真琴」

 俺はふっと吹く。「残念だな、神無月は死んだ。生きているとすればそれは俺たちの思い出の中だけだ。俺は不知火だ。姓は如月を貰った」

「魔王こと神無月の想い人は三歳年上だったな、別れるのか、不知火にその記憶が無ければやむないが。女を捨てるのは最低とはいえ、例外もある」

 はははは、と三人ひとしきり渇いた声で笑い合ったところで、本題に入った。

 俺はせめてもの誠意で語った。「久しぶりだな」

 涼平はタバコの紫煙を吹いた。「ああ、まったく。いまさらのようだが」

 直人は皮肉に問う。「おれたち『御隠居』が集まるなんて。事態はそれほどひどいのか?」

 俺は即答する。「愚問だ」

 嘆息する直人。「は、そうだな」

 なんのことか。組織『ジェイルバード』は有事の際有志たちが自然に集って結成されるのだ。『籠の鳥』あるいは『竜の眷族』として。

 涼平は指摘した。「だが単なる仮説だろ、真に受けるのか? こんな戯言。恐竜が銀河を席捲している? 人工知能のシミュレーター演算が指数計算的に狂っただけではないのか、不知火」

「いや」俺はかぶりを振る。「人間の文明の進化は恐ろしい加速度だ。現在のような情報化社会を、前世紀の誰しも、予期し得なかった。たった十年二十年で世界はガラリと一転する……ならば数億年に及ぶ恐竜の世界で、偶然数万年~数百年でガラパゴス的特化進化した恐竜の一族が、科学文明を持って不思議はない」

「ほう……」涼平と直人はこの異常事態を受け止めかねているらしい。

 俺は説明した。「それにザ・マスターの俺が来年は三十歳になる……ジェイルバードは新しいマスターを見つけなければ」

 直人は訝しげだ。「世代交代をするのだな。つまりセカンドデッキか。十代の隊員なんて……見つかるかな。ああ、おれは十九だった。不知火は十二か?」

 涼平は疑問する。「それを言うなら、幻の先輩連中ゼロデッキの人たちは、ファーストデッキの俺たちをなんと思うだろう」

 直人は自嘲した。「無能で怠惰な恥晒しさ」

 涼平は言葉叩いた。「おまえはな! 『紙』の分身外道野郎」

 俺も自嘲する。「いや、マスターは俺でも務まったレベルだ。世界は広い、俺なんかよりできる奴は文字通り何万といる」

 直人は息を吐いた。「は、嫌味かよ。できない人間は総人口数十億中マイナス何万の決定的多数か」

 涼平は指摘した。「しかし、俺たちと同じ『掟』と『誓』を受け入れる度量の持ち主はまずいない」

 直人は呆けた。「まずい、か。うまいはなしはそうないな。それとも不味い無いなら美味いのか?」

 こいつ、酒飲みの戯言が。しかし俺も人の事は言えない現状だ。「取り敢えず戦力はある」

 涼平は問う。「飛竜か?」

「ああ。かれらも味方してくれる」

 呆ける直人。「かれら揉み方か。最近肩こりがひどくて」

「オヤジかよ!」

「オヤジだよ!」

 涼平はタバコをフィルター元ぎりぎりまで吸うや、携帯灰皿に押し込んだ。「なんでオヤジ三人こんなところに集まって間抜けな会話しているのだろうな」

 俺不知火はマスターの神無月として、せめてけじめはつけるつもりだ。宣言する。「超絶超速宇宙征服! それが究極目的だ」

「のわははははははは!!」直人と涼平は肩を組んで笑い合う。「こうでなければな、ジェイルバードは。パラノイアの群れで結成される。現代の剣として」

「異世界のことなんだが」俺はやれやれと引用していた。「隕鉄鉱の『魔力』が解析され、同種同士が謎の斥力によって反発する作用を持ってしての、スラスター駆動が実現化され、反射質量無しの加減速が可能になった。ここでオーバーテクノロジーの時空間シフト……空間を占めるエーテル燃焼ドライブの副作用による、空間を破壊することによる異次元宇宙への侵入、そうかつての戦役の技術が担ぎ出された……」

 変わらずウィスキーをあおる直人に、新しいロングピースに火を点ける涼平だった。俺は続けた。

「……1999年次の『時の鎖』戦役と異なり、一瞬で……このままでは銀河系全数千億恒星系を恐竜または人類が席捲するのは一年もかからない計算だ。ハムカツ丼、違ったネズミ算式に加速しながら征服するのだ、これなら一億光年を超える超空洞ボイドの間隙をくぐって、超銀河団すら制圧できる。それすら砂粒となる無限の広がりの宇宙相手にはわからないが」

 涼平は指摘した。「魔王は決して、覇王ではない。征服王でもない。常に単なる数学の卓越者だ。世界を変えるほどの、だが」

「――わかっているさ」俺は暗唱していた。ジェイルバード。それは。

 目的――『世界を、時の鎖を護るもの』

 掟――『間違っているなら、神すら敵とする。輝いているなら、塵芥でも救う。虐げられる一人を守るためなら、全世界を敵に回す』

 誓いは――『籠の鳥は闇に潜み、籠の鳥は密に歌い、籠の鳥は欺瞞を見つけ、世の大空へ解き放たれる……たとえすべてを敵に回しても』

 例え二律背反しようと、誠意には偽りないのが隊員共通の志だ。俺たちのファーストデッキは。

 つまり籠の鳥の原型は梟じゃないかな、フクロウ。福が籠る。知識知性の象徴。すると天敵は同じく鳥、昼間元気な鴉だ。

 猫も言うまでもない。木の上の巣まで上ってこられてはかなわない。鴉は臭くて不味くて喰えたものではないと聞くから襲われないのが皮肉な点だ。

 俺はまさにその事実を訴えようとしていた。「涼平、検索はできたのか?」

「ああ、彼らはアナザーデッキだ。しかし自覚は無いな。闇部族というが、ほんとうに光の輝きを知る人間はこの部族から生まれる……皮肉だ。『狼牙の魔弾』所属だとか。どんな組織かな、自称義賊だそうだが。その立場からすると異分子な俺たちジェイルバードはどう思えるだろうな」

 直人はぼやく。「十八歳か、若いな。もっとも神無月なら黄金時代の歳だな。おれならどん底の歳だが」

「この俺が不知火としてではなく魔王神無月としては絶頂期だな、たしかに。敵のデータか」俺は端末モニターを虚空に開く。「男はウィンソン・ディウェル。女はリム・フィテル。美形のカップルだな」

 直人は吹いている。「おお、まるで少年時代のおれと真理みたいだ」

 涼平は無言で直人の頭を小突いた。俺もド突きたかった。ったくこの馬鹿一回死んでみるか?

 涼平は冷静に引用した。「まさか赤い豹になるとはね。それに鴉ならさしずめ堕天使フラロウスと堕天使アンドラスかな」

 直人は皮肉った。「似非クリスチャンは悪魔雑学に達者だな」

 涼平も皮肉に言い返した。「相手が悪魔怪物なら、ジェイルバードの非殺生の掟も適用されない。俺はガチに決めるぜ。直人は『武装』しているだろう?」

 俺は知っていた。直人の『武装』とは密造銃だ。

1、非殺傷ゴム弾エアガン『シュリーク』

2、人体で溶けるカルシウム弾拳銃『スクリーム』

3、弾丸を発射しない護身手甲鈍器『シャウト』

4、アルコール弾電動エアガン『シンフォニー』

 ……つまり直人は殺しはしない……?

 だが直人は巨大な対戦車砲のようなものを担いだ。

 はっとする。俺としたことが、気付くのが遅れた。迫り来る妖気に……

 

(新コラボ作品見切りスタート! 自由創作表現同盟会員有志さまのご提供キャラに出演頂きます二次創作です。不知火ら三人に襲い掛かる『敵』とは?!

 亜崎愁さまありがとうございます。いまのうちに謝っておきます。ごめんなさいすまいるまいるさん。

 センス会員奮ってのご参加、お待ちしております。コメントないしメッセージ、それからスレ『RPG風キャラデザインで遊ぼう!』に登録したキャラで構成します。前回の出演キャラでも再登場承ります。連絡お待ちします)

(続く)