(アメブロ創作同盟有志のキャラが出演します! 著作権はキャラ提供者さまにあります)
私、従軍心理医師、クワイエット・ラプターは重症患者を九名カウンセリングの激務を終え、得意の営業スマイルも限界に達していた夜だった。
副官にして親友のアーダ・フローラ、通称『従軍心理医師の筆』から通信が入る。
アーダは嬉々としている。「クワイエット、聞いた? イノセントちゃん、今夜の五分刈りに参加したって」
参加の意味が良く分からなかったのだが、とにかく私は答えていた。「切る暇もなく最近伸びていたからな、あいつなら似合うだろ」
「ああ良かった、貴女反対するかと思ったわ。頑なな品行方正準将閣下。今夜空いているわよね、合流よ」
「閣下はよせ」いらつきながら答える。私が婚期すら前にして、シント立憲君主国軍事上最高権力を握った事実を掘り返す話だ。
それは良いのだが私こと、ラプター準将に釣り合う男性はもはやこのシントにはいないとすら噂されているのを知っていた。これで結婚できるのか、私は。
「クワイエット怖~い!」懲りる様子の無いアーダ。「特等席のチケットを譲られたわ。下世話な話、一枚何十万クレジットするかしら。これも貴女の御威光あってよ、さっそくスタジアムに向かってね」
なんの話をしている? 特等席って、またあのネズミバンドの反戦コンサートか? いくらアーダがそのうちの何匹かを飼って……もとい、同居させているからといって……
すぐにアーダからシント中央スタジアム特等席チケットのデータが添付されてきた……『ゴブ狩り』悪鬼ゴブリン狩りだと!? 剣闘士による……
イノセント・レパード……『従軍心理医師の剣』、あの馬鹿なにを考えて! 仮にも私の統括する心理戦隊に所属する職業倫理を怠ったか? 同い年の親友男性と信じていたのに。
古代ローマのようなコロシアムの闘技場だなどと、頽廃した娯楽が復活したものだ。よりによって王国・帝国との戦争も、デーモンとの戦いも乗り越えた後だというのに。由々しき事態だ。
シントは立憲君主制とはいえ本来共和国だったのが王制になった間際だ。それも初代国王が機械工ヲタの代名詞、リティン元二佐技官とは。
時代は悪い方向へ進んでいないか? これでは戦死したものたちも浮かばれない。顔向けできない。娯楽として殺戮を愉しむなど、在ってはならないことだ。
古代の闘士のように、剣、楯、鎧、兜を身に付けて『人間の敵』悪鬼と戦うイベントなど、醜悪な! シントでは角に牙のある市民も当然生きる権利を有しているではないか。時代の逆行だ。許し難い欺瞞だ。
これは場合によっては気が進まないが、私の持てる権力で揉み潰す必要があるな。趣味ではないが。
そもそもゴブリンとされるのは、子供サイズの小鬼だ。そんなものを倒してなにが面白いものか! 力を誇示したいなら、大鬼トロルとでも戦ってみろ!
私は職場を後にし、明日からは連休なのを良い事に疲れた片頭痛のする身体を引きずってスタジアムに向かう。
闘技場は市民で超満員満席だった。さかんに喝采が上がり、活気が良い。戦争が終わったばかりというのに愚劣な……血に飢えているのか、民衆は!
とにかくアーダと合流し、特等席とやらに招かれる。すし詰めの一般席に気の毒なくらいのゆとりある豪華な座椅子。防弾ガラスなど張っていない。シント将官としてのプライドだ。喧騒がもろに響いてくる。
いらただしく着席するや、通信回線でイノセントにきつく厳命する。「無辜な敵を殺しでもしてみろ、軍法会議に掛けるぞ!」
だがイノセントは当惑した声だ。「これはシント君主初代リティン王の勅命による試合です。ソング総統の裁可も経ています。つまり任務の内ですが?」
直ちに検索に掛けた。迂闊にもそれは事実だった。ここしばらくの情勢の変化を激務の中で見落としていたか。市民は剣闘士とゴブリン、どちらが勝つかで賭博して遊ぶ算段か。
特等席にはもう一人客がいた。警備員総監。時雨は決然と言った。「シント警備兵隊から転身したシント初代警備員総監として、僕こと時雨は決してこの下劣なゲームを許さない! 血の応酬を愉しむなど、科学技術文明も退廃の極みというものだ」
「同感だ、時雨。いったいなぜこんなことに……」
アーダは説明した。「リティン王の発案で、前戦乱により失われた軍事費を回収するためのイベントよ」
しかし、鋼鉄の鎧に剣に楯で武装したイノセントら剣闘士相手に、子供サイズのゴブリンとは非道な……
とりあえず『味方』の布陣を確認する。イノセント、アレス、コウ、リオン。なんだ、ガキ男ばかりではないか! それもイレギュラーなアナザーデッキ。みんなわりかし軽装だな、鋼鉄の鎧なんて重たいだけだからな。武器は細身の長刀が人気の様子だ。
石田はパティシエとして、舞台裏でひたすらケーキを作っている。優輝も手伝っているらしい。ゲームの実況解説委員は浅尾と真理亜だ。
幼い魔女アルラウネは競技マスコットとして、巨大ハムスターたちと並んでパレードしている……ん? もう一人の魔女がいないぞ、セラフ。目下最強を謳われる時雨に勝てる妖艶ロリ娘。嫌な予感がするのは私だけか?
ここでこの四人の剣闘士の前に、悪鬼ゴブリンたちが姿を現した。私は目を疑った。完全武装だと!?
イノセントは驚愕の声だ。「うわ、聞いてないぞ! ハンデありすぎじゃないか!?」
浅尾は中継する。「身長百四十センチほどの小鬼、ゴブリンの八名の群れ。しかし身に付けているのは、アステロイド・フルプレートアーマー隕鉄鉱製総板金鎧、軽量にして極めて強靭。事実上刃は通用しない。打撃も威力分散される。手にするはフリーズ・フォトン・ソード、光子の剣」
イノセントは叫んでいる。「詐欺だ、この前にはただの鋼鉄製の武具なんて紙切れだ! クワイエット、聞こえているならなんとかしてくれ!?」
なんとかって、国王に総統両者の催しとあれば、私にだって介入できない。しばし黙視座視するか。
真理亜が解説する。「ビビる剣闘士、対するはフルアーマード・ゴブリンレベル4! ただのゴブリンとレベルで3、武装でさらにレベル3分くらい強い!」
私は時雨に問う。「なんだ、レベルとは」
時雨は気さくに答える。「ああ、段位みたいなものだよ。格闘技に武道はただでさえ、最強で十段がせいぜいなのに。初段ですら素人相手には無敵、二段ともなると凶器、三段となると初段以下の動きがおままごとに見える。それでも格闘家にとっては序の口なのが事実。しかも世界によってはレベルが99まであるとか上限がないとかの場合もある」
イノセントの剣の腕は、たしかカトラス(海兵の三日月型短刀)がやっと二段程度らしいが。二段対六段の戦いか? にしても隕鉄鉱の武具とはね。
つまりこれは新兵器の実験場か。賭博の掛け金を親の総取りって算段だ。王を気取る技師ヲタリティン、謀ったな。一見小鬼ゴブリンが弱いかに思わせ、そっちにたっぷりと金を賭けているのか!
うやむやのうちに、戦いは始まった。イノセントは作戦を提示していた。正面から足を止める打撃戦では勝敗は解り切っている。軽装の利点を生かし散って走り回り敵を翻弄、敵に気付かれない死角を突け、と。
まるで空中の戦闘機戦闘のセオリーだな。さすがに私直属の心理戦隊連隊長だけはあるか。
イノセントは執拗に三人のゴブリンに追い回され、必死に逃げまくっている。これは仕方無いな、囮だ。
コウは無駄に動かず、近寄って来たゴブリンを冷静に剣で牽制している。少し威嚇すると、さっと退く。
アレスはコロシアムの隅で、一対一でゴブリンと剣を交え競り合っている。互角なのか? 否、ゴブリンは手加減を命じられているな。
善戦しているのはリオン一人だった。闇魔法ダークドラゴンイリュージョンはゴブリンを圧倒した。
と、耳を劈く『ハムメタル』ロックがコロシアムにハウリングしまくる。「哀愁……忘れないで胸に刻み……強く生きる光に……愛情に変わるまで~♪ きっと……すべてが許され……解り逢える日は訪れる……それだけを信じて~♪ ともに生きよう、今日を祝福してウォーイズオーバー、パストからプレゼント! さあ兵器はいらない♪ ぼくら理解の絆前にして! 生きていく仲間のみんな、この平和にありがとう!」
人間サイズハムスターバンドが反戦ソングを激しくロックンロールしている。なんてシュールな光景……めまいを催すがこれが現実か。アーダのハムの一匹もいるのだよな、つ~か見分けがつかないが。
コロシアムはとたんに大合唱となり、愛と勇気と勝利の平和を叫び出した。イノセントらは噛ませ犬で使われただけか。賭博の売り上げ掛け金はほとんど慈善団体に寄付された。
コロシアム以外からも、大手企業から民間人に至るまで、破壊された街の復興と戦没者遺族への義援金が殺到していた。
一応ハッピーエンドか。それもハムスターなんかの力で……後に分かったのだが、この計画はアルラウネが予知し、優輝が立案し、セラフが演出したらしい。
一句浮かんだ。「世も末だ。否これこそが新時代」
(すまいるまいるさん、月村澪里さま、初孤羅さま、亜崎愁さま、ゆきえもんさま、SPA-kさま、akiruさま、秋月伶さま。有り難うございました)
(終)