(アメブロ創作同盟有志のキャラが出演します! 著作権はキャラ提供者さまにあります)
気付くと僕こと時雨はベッドに寝ていた。なんだ、ベオセルの寝室じゃないや残念。僕は彼女との一夜を楽しみにしていたのに……酒飲み過ぎたかな?
ここで爽快な温度の空気にはっとする。エアコンが作動している。この部屋は、文明水準中世のキュート王国ではない! とにかく落ち着いて状況を確認する。ビジネスホテルのような寝室……。
誰か入ってきた。シントの美貌女性士官、アーダ・フローラ一尉だ。「無理やりシントへ連れてきて申し訳ありません、自由騎士時雨卿。実は昨夜のネズミは嘘だったのです。発生がシンセサイザーというのは」
僕はきょとんと問う。「ネズミ、シンセサイザーは嘘? なんのことかな」
アーダは説明する。「確かに最初に発見されたのはシンセサイザーでした。『紙』情報経由の証拠写真もあります。でも食べ物の無い飲食厳禁な慰安局の倉庫なんかに、ネズミが湧くわけがないでしょう?」
「でもたかがネズミなんかで……」
「それが、食糧庫で繁殖したハムスターが中央処理装置に入り込んだのよぅ~っ! そいつら通信ケーブルカリカリ齧っている始末。とんだ非常事態だわ」
「ん~っ。ネズミショートして死なないかな? 電圧電気椅子並の数千ボルトはあるでしょ?」
「シントの電算機は極めて省力化されているわ、電線ほんの数ボルトしかないのよ。少し抵抗があればショートしてもなにも感じない電圧だわ。まして光回線では。コンピューターにバグならぬラット……ハムスターが湧くなんて。シント開闢以来の不祥事なのです」
「食糧倉庫から穴開けたのかな。サイバーなハムだ」
「それがグルメなハムスターどもで……シント総統の食事用の素材だから、極めて高級品なのに。これをシント中央処理区画内部に侵入して駆除できるとしたら、強く小柄な貴方が適任かと。この任務は内密です。私の上官にして親友ラプター準将は知りません」
うやむやだが、任務は引き受けざるを得ないな。僕の格闘家としての矜持に掛けて。僕の身体に合った侵攻スーツを用意してもらうことになった。中々揃わないだろう、兵役対象外のチビなのに全身筋肉なんて。
この空き時間に僕はひと月近く前、シントを襲ったデーモンの群れの映像を見せてもらった。
触手の一薙ぎで街壁が家並み五件分は吹き飛ぶ。凄い破壊力だな、やはり悪魔の魔物デーモンとは血も涙もない冷血動物だよ、両生類もびっくりだね。まさにクトゥ○ーの呼び声だ。それともケ○ロ軍曹か?
体長三十メートル級がグレーターデーモン……十七メートルのナックルファイターが子供サイズだ。雷光、火炎、吹雪、これだけでも驚異の脅威。さらに直接打撃力ときたら……? あれ……これってヘイトが変身したときの姿じゃないか。ならば対抗手段もあるな。
ここで、スーツが届いた。軽く着替える。炭素樹脂繊維かな、防炎防刃防水。肌着のように着心地が良いのに極めて実戦的。俄然戦意が湧いてくる。
僕は吹いた。「大事の前の食事。たかだかハムスターの群れ、美味しく食べてやろうじゃないか!」
ピーッ! ピーッ! ピーッ! 通信回線に割り込み音声が入った。ああ、不知火ちゃんか。
「時雨」不知火は真剣な素振りで僕に問う。「おまえネズミ算って知っているか?」
「うんにゃ?」そう、このときの僕は知らなかった。ネズミ算の恐ろしさというものを。
不知火は講義した。「昔、ジェイルバードの先輩に直人って隊員がいた。かれは拳銃の類希な使い手だった。かれは至近距離からの手や足をピンポイント狙撃するのが常道だった。敵を殺さず戦闘不能にする。かれは自戒していた。拳銃とは人殺し専用の武器であることを。単に銃なら狩りにも使えようが、拳銃ではそうはいかない。伝説では、剣を帯びることを戒め、斧で戦った戦士もいた。斧、槍、鎚、弓矢、これらは狩猟や工具だが、剣とは人殺し専用の武器だからと」
「共感できるね! 僕が素手で戦うと同じく」
「とにかく直人は兵士でも戦士でもなかった。が戦屋ではあった。どんなに過酷な状況でも常に退路を確保する。相棒の涼平は戦士で、仲間が全員撤退するまで戦線を退かなかった。見習って退路は俺が確保する。時雨は最善を尽くしてくれ」
アーダは口を挟んだ。「これだけの力量と見識があって、なぜ貴方は軍への任官を断るのです? 力あるものの義務と感じますが」
「あたりまえだよ、だって」僕は逆に聞いた。「ここに問う。戦争とはなにか?」
「国家の防衛のための最大の手段ですよ」アーダは断言した。
「国家のでっちあげた最大のごっこ遊びだよ。個人の喧嘩、乱闘……どころか殺人の方が数桁マシだ。規模も犠牲者も大義名分も義理人情も」
「確かに兵法の模範解答には戦争は外交の最終手段、最悪の策とされます……これは任官試験に出すと落第ですが」
「戦争に大義名分など関係ない。兵士には戦争の目的は教えられない。ただ前線へ運ばれ、敵兵を殺せと命じられるだけだ。都市を攻略するなら民間人も殺し辱め略奪し……」
「ですがシントは募兵制です。歴史的にも戦時に突然徴兵される新兵と、募兵で正規の訓練課程を終えた二等兵士には雲泥の差があります。力量もモラルも」
「言ってはなんだけど、僕のいた時代ではどこの高校も受からなかったような不良クズレが、単にほんものの銃を撃ってみたいからって志願していたよ。それでいて、ほんとうに戦争になったら逃げるなんて軽く構えているのが多い」
「シントの防衛軍は決してそんなことありません! イノセント一尉の武勇伝もいずれ打ち明けますよ」
「いまでいう士官学校に相当する大学上がり士官は、どうせ士官は前線へは出ないから、なんて安楽椅子に座っているつもりなのが実在した」
などと答弁している内に、ミッションの時間が来てしまった。僕は狭く薄汚れた通気管の中を這い進んだ。だが、ものの三十分後。
不知火はそっけなく言った。「悪い知らせがある。補給線が断たれた、食糧は現地調達しろ」
「現地調達?」馬鹿みたいに問い返す馬鹿な僕。
「ハムスターは無菌で無害なことが判明した。生でも食べられる」
「ひええぇ!」運命とはかくも過酷なものか?!
「火は無いな、刺身で食え。宇宙の戦士よろしく」
実言うと、すでにちょろちょろ走り回るハムスターの群れに遭遇していた。しかし、あんな小動物を殺戮するなんてできないよ。とにかく中央制御装置に取りついた部分だけ追い払えば、任務完了……え?
僕は叫ぶ。「詐欺だ! なにあの大きさ! 160cm、100kgはあるよう。怪物じゃん!」
「染色体工学処理された、三倍体の三倍体のハムスターだ。全長が九倍ということは重さは三乗して729倍になる。これの三倍体が生まれたら、さらに重さは27倍の怪獣だ。そうなったら勝ち目はない。その前に仕留めろ、心してかかれよ」
騎士が初陣でネズミに喰われて終わるなんて、恥ずかしいぢゃないか! 歴史に残る逸話となるか闇に葬られるか? 『紙』を呪う僕であった。しかし前進あるのみ! なにやら賑やかな音楽流れるホールに躍り出る……あれ? 楽器倉庫というよりステージだ!
ハムスターはギターを演奏していた! 他にもドラムやベースも。四匹ハムスターボーカルが大音響で歌う(つ~か言葉話せるほど知能が高い巨大ハム?!)。
「……きっと愛は、きっと愛は、いつか地球を救うのです~。だからいまこそ勇気を持って武器よさらば、平和を我らに~哀しみよさようなら~♪ 今日の日にこんにちは! 明日を夢見て~我らは遠き旅路を歩き続ける、友よ、たゆまずあせらず希望を胸に♪」
歌い終えると、四匹の巨大ハムスターたちはなんと僕を歓迎した。「武器を帯びず単騎やってきた勇気ある外交の使者に、敬意を表します。どうか食材の提供と共存の道を模索して頂ければ、有難いです」
僕はうやむやの内に、巨大ハムスターバンドの賓客にされてしまった。五つ星レストラン並の山海の珍味な高級料理でもてなされた。厚遇されているな。で、激しい反戦ロック聴きながら美味な食を堪能した。
(すまいるまいるさん、亜崎愁さま、akiruさま、初孤羅さま、月村澪里さま。ご参加ありがとうございました。不備があれば訂正します。言動をアドバイス下さい。他の会員さまもお願いしますね、参加待っています)
(続く)