(アメブロ創作同盟有志のキャラが出演します! 著作権はキャラ提供者さまにあります)

 

 それは、キュート王国国境間際のさびれた宿場村での事件だった。梅雨の間の眩く温かい晴天下、殺風景な荒野にときの声上がる。

 私シント共和国……否、立憲君主国女将官にして軍属心理医師クワイエットは、予期こそしていたが悲惨な事実を静観していた。まさか一人相手に心理戦隊特別班十名以上で……いや、こうでなくてはな。千兵は得やすく、一将は得難しだ。

 小兵時雨一人に主力班石田、浅尾、イノセントは挑戦の意志表示を済ませると、順番に殴る蹴るの打撃戦力攻めをしたが、どうやら合気術で返し技を喰らいひねられ軽く転がり倒され土が付き全滅……

 次いで補佐班真理亜は時雨に試合なら技ありを取れるほど善戦したが、立ったまま不意に肘関節決められ動きを封じられた。残されたアレス、優輝、アーダには手を出す術もなかった。三人とも優しいからな。

 もっとも、四人倒されたというのに怪我人すら出ていないが。しかし予備班。

 時雨はセラフとアルラウネを見て、何故か顔が青ざめていた。悲痛に叫ぶ。「ああ、千秋ちゃん許して! 僕をコロサナイデ! お願い!」

 私は意味がわからなかった。ロリコンか、時雨。

 アルラウネはきょとんとしている。「どうしたの、時雨お兄さん。変ね、お兄さんの未来見えないわ。ちあきちゃんってそんな怖い人?」

 時雨は半泣きだ。「怖いよ、だって魔女なんだよ!」

 セラフは笑い飛ばした。「たしかに傍から見れば、私もアルラウネも魔女かも知れないけど、そんなに怖がることないのに。取って喰いは……しちゃうかもしれないけど。あなたなかなか可愛いから」

 どういう会話をするんだ、この餓鬼女は! 遮って私は語る。「再三失礼をいたしました。私は貴方を任官させたいだけなのです、警備兵隊幹部要員として」

 時雨は訴えた。「僕ちゃん、これで本職は警備員だよ! それも少し昔まで、新都心支社取締役補佐官職の警備員監査役だったんだ。それが僕小さいころから変な世界へ行ったり来たり……戦闘機どころか、宇宙戦艦すら操舵した!」

 何の話かよく分からなかったが、兎に角私は問う。「でしたらシント警備兵職に就くのに、なんの問題も無いでしょう? 実力からして監査役より役不足かもしれないですが、警備兵総監職を任せます」

「この国の警備兵は、武装しているのが気に入らないの! 警棒どころか、拳銃に短剣だなんて。そもそも警備員じゃなくて警備兵だものね」

 私は感心した。得難い度量だ。アーダとイノセントたちに語る。「そうか、警備兵を警備員として再編成すべきかな。ならば武装はどうしたものか……」

 浅尾は引用していた。「伝説の二千年紀、いわゆる光の文明当時のこの国は公務員の警官こそ拳銃を所持しましたが、一発撃つだけで死傷者出無くても重大なトピックニュース扱いされるほど治安が安定していたものです」

 石田も同意する。「民間雇われの警備員は警棒すら持たないケースが多いぞ。軍隊は無く、代わりに自衛隊があったが、後方支援任務ばかりで正面戦闘になるケースなんてまずなかった」

 時雨がうなずいた。「僕もその時代の人間のはずなんだけど……生まれてこの方、行く先々戦場!」

 アーダが報告した。「元技官リティン王の私設軍隊と化している人型乗り込み巨大マシン、ナックルファイター隊からも時雨を推薦する誘いが来ているわ。せっかくの逸材をそんな部署に回すわけにいかない」

 私は述べた。「異国との戦争が無きいま、軍隊の任務はその半分を終えたのだ。後は自国内の治安維持を旨とする警備や救助の部隊が必要だし、工業生産・都市運営要員に軍から大幅に民間へ人員を移すべきだ」

 すべては世界の盤石な平和と安寧のために……私たちはこれらの提案を時雨に打ち明け話し合った。時雨は意外にも、すぐに素直に「お~引き受けしま~す!」と語ってくれた。最初から話し合うべきだったようだな、どうも血の気の多い班員が多くて。

 ここに警備隊総監、時雨が任官された。時雨は提案した。「すべての警備隊を、素手の格闘技の格闘家に鍛え上げてはどう? もっとも、格闘技は『心』を介さないものに伝えるのはご法度。人選は心理戦隊とかいうみなさんにやってもらうね!」

 リオンが意外にも、時雨に申し出た。「僕も時雨お兄さんのように強くなりたい!」

 真理亜は優しく声をかけた。「リオンなら立派な戦士になれるわ、いまだって強い魔術師でしょう?」

「セラフお姉ちゃんにいじめられたくないもん」

 セラフは笑い飛ばした。「ガキが生意気な!」

 つうかこの二人、実年齢何歳だ? 私なんかよりはるかに長く生きているような印象も受けるのだが……

 アレスも興味があるらしい。魔法剣士としての勇者であれ、剣ばかりに頼れない事は多いからな。それでも剣の強さは素手の強さの三倍段とされるが。

 ここでいきなりではあるが時雨との訓練は始まった。優輝は自分には無関係と思ったのか口を挟まなかったが。攻撃技ではなく、防御技……受け、払い、撥ね、弾き、回避などの体さばきには興味を持ったようだ。なんだかんだいって男の子だな。

 ここで明らかになったのは、技を柔術だけに限れば、真理亜が時雨を凌ぐということだ。もっともルール無用なら、打撃あり払いあり関節技あり返し技ありで、時雨が圧倒してしまう。

 アレスはリオンと組み手し、良い勝負だった。互いに素人だし打撃技は使わないので、柔道というよりかつての国技とされた相撲技に近いルールでの取り組みとなったが。互いに手加減し合っているのが可愛い。

 石田と浅尾は仲良くじゃれている。半ば空手、半ばボクシングのルールで寸止め打撃し合う。力では石田が決定的に強いが、打撃戦は必ずしも力ではない。女子供の素人の力でも、急所を一撃すればノックアウトできるものだ。

 イノセントとアーダは訓練に加わらず、警備隊組織の部隊構成について論じ合っていた。編成も規律も、できるだけ簡素化して直轄し易いものが望ましい。珍しいな、真面目に働く二人を見るのは。

 当の私と言えば、見物しながらセラフ、アルラウネとお茶と菓子を楽しんでいた……?

 見た目十五歳くらいのすらりとした美少年がたたずんでいる。黒髪黒い瞳の東洋人だが、日本人離れしている。ピアスを左一個と右二個。フォーマルな衣服。

 クールな印象だが、なにやら常人には無いものを感じるな、霊気、オーラとでも呼べるような……私は端末を参照してみた。この少年は!

コウ・ソン(十八歳)

体力53、精神70、感性70、運命 7

 童顔な青年は高い声で名乗った。「コウと言います。ここで俺のする仕事はもうないらしい……」

 そうだった、優輝の話していた時雨とガチして勝てるかもの男だ。能力が見事なラッキー7……「貴方も探していました、『上』から依頼受けたのですか?」

「俺はバイトに穴開けて来たのです……本職も用済みか。ならば、初夏の陽気を満喫させてもらいますよ」

 無防備に横になり、うたたねを始めるコウだった。

  

(月村澪里さま、初孤羅さま、亜崎愁さま、ゆきえもんさま、SPA-kさま、akiruさま、秋月伶さま。有り難うございました)

(終)