(R15指定です。初めにお断りしますが、この物語には不適切な表現が多々描かれています。分別とご理解のある方だけ読まれてください。通報はしないでくださいね。
 ゲストキャラ出演中! アメブロ創作仲間、月村澪里さまのキャラクター朋村雫華です。)
  
  
 ……俺は命令を下していた……自分の声がする。「総員臨戦態勢を執れ! マルバス大総裁、エリゴス公爵、アンドロマリウス伯爵は、悪霊軍団を率いて迎撃せよ! ベリオル王は右翼、オセー長官は左翼に展開、中央を補佐せよ。ナベリウス侯爵、グラーシャ・ラボラス伯爵、ブーネ公爵は上空に向かえ、制空権を奪え! 他の部隊は全軍全面展開! 各個の判断で死角から突撃、敵陣を蹂躙せよ。遊兵を作るなよ!」
 地の底を揺るがすような壮絶な雄叫びが鳴り響く。次々と吠える悪魔悪霊魑魅魍魎の軍団。地獄へ落され貶められ辱められた弱者たちの怒りの咆哮……
 ……大地を埋め尽くす神仏の大軍団……いざ戦え魑魅魍魎、たとえどんな強い敵でも、怯みはすまい……走り抜けよ、百鬼夜行……いざ往け、我が悪魔たち!
 口に出来ない四文字に賭けて。四文字ってなんだよ。「さ」の字「ふぁ」の字「お」の字? いずれも淫乱、魔王アスモデウス? 否、俺はチェリーだ!
「う……」俺は意識を失っていたことに気付いた。
 俺の指揮していた悪魔の軍団と、敵八百万の精霊神&御仏の天魔たちの連合軍の戦いは……どうなったんだ?
 千秋の声がした。「いいかげん起きなさいよ、下僕の大将、壊れた泰雄ちゃん?」
 俺は目を覚ました。辺りを見渡す……なんら異変はない、大学の構内……?! とんだ異変ではないか、あれほどまでの校舎の破壊があったはずなのに、完全に直りドラゴン出現前に戻っている。夢だったのか?
 千秋は嬉々と語った。「和睦に成功したわ。ほんとうに罪の有る存在は誰かって話題になって」
「和睦?」
「聞いて! なんと、世界から地獄が無くなったのよ。地獄に落ちた悪魔は堕天使、かつては天界の輝く光の天使だったのだもの。その他の鬼や妖怪だって、ほんらいは地方の地神精霊だったのが、別宗教に迫害されて悪のレッテルを貼られ地獄へ貶められた存在。みんな許され世界は甦ったのよ」
「ほう……」事態が良く飲み込めないが、おそらくすごいことなのだろう。いや、歴史的最大偉業と呼んでも良い!
「泰雄ちゃん、あなたは、私たちは救世主よ。各国間の紛争の主な原因だった宗教対立は氷解した。政治外交対立に資源利権争いについても、抜本的に見直された。平穏な共存の理解の旗を仰いで」
「ならば、富も権力も女も思いのままだ! 俺たちはこの地球の王だ!」
「なにいっているの、私たちジェイルバードは地球を守る任務の重責を担ったのよ。宇宙へ、太陽系へ、銀河に乗り出さないと」
「はふ?」我ながら間抜けな声を発してしまった。なんだ? 何の話をしている?
 朋村雫華がさらりと発言した。「あ~その件だが、ちょうど良い宇宙要塞を購入した。全長三百キロメートルほどの武装基地化された小惑星だ」
 俺は声を荒げていた。「宇宙要塞を買ったってどういうことだ!?」
「バーゲンで安かったから」さらりという朋村女史。
「あ……そう。良かったな」あまりの事態に、毒気が抜かれてしまった。なんでもありだな。
 小百合先輩は美貌に微笑みを浮かべ、提案した。「では戦勝と出港を祝って、乾杯しましょう。宇宙艦隊を組むのですものね。もうお金の心配はしなくて済むし」
 時雨は大乗り気で応じた。「了解! ああ僕の愛機戦闘艇クェルガイスト、久々に乗れるなあ」
 久々って……知らないうちにスターウォーズがあったのか? とにかく同意する。「ああ、賛成だ。俺も飲みたい気分だよ」
 千秋はくすり、と笑った。「泰雄ちゃんは酒飲むと壊れるのよね。酒乱なんだから」
「そうらしい、悪かったな」内心つぶやく。なんだかんだいって、俺はどんどん千秋に惹かれていくな。最初は単なる性衝動だったが、なにやら違う……ひょっとしたら、『愛』と呼ばれるものに。
「時雨ちゃんと小百合先輩は底なしよね。飲んでもまったく変化なし。まあわたしもだけど。新隊員の雫華さんはどうか楽しみね。ああ、彼女は侯爵で大将。たいへんな武勲上げたものね」と、面白そうに笑う。
 ……あえて発言はしないが、俺は思っていた。それはそうだろ、もとから壊れているんだから。
 かくして宴会は始まった。料理と酒をデリバリーし、次々と運ばれてきた。寿司やらピザやらビフテキやらに、俺たち若い成長期の食欲とせ……違った、なんとやらがとにかく刺激される。久々にタバコも吸ったし。
 ほろ酔いの神無月は科学的持論を展開した。「相対性理論を誤解して、時間は重力、質量が生み出していると語った人が結構いる。高名な前世紀の大作家ですらそうだ。無重力の宇宙に行けば、不老の身になれると。これはとんでもない誤解だが、物理学的には確かに質量がなければ、時間も空間も生まれないらしい。真偽は俺などにわからない」
 同じく軽く酩酊しているらしい雫華は首を振っていた。「肉体面知性面だけでなく、精神面、情緒面からもジェントルな人間でなければ、宇宙などへは繰り出せない。ここに問う。ほんもののパラノイアは誰か?」
 千秋は明言した。「時雨ちゃんね」
 時雨は決めつけた。「泰雄ちゃんが」
 俺は断言していた。「千秋だと思う」
 数瞬、沈黙が覆った。ついで全員で笑い転げた。神無月も小百合も。なんとかの三竦みだな。
 普段冷静な朋村女史もこの喜劇に苦笑していたが、毅然と断言した。「下らないが、少なくともアレキシシミアではない、安心しろ。ああ、失感情症のことさ。違うだろう? 千秋さんも神無月さんも、精神病やら自称狂ったなんて言っても、発想力にマヒしてはいないからな」
 俺も妄想力には不自由しない。千秋とあんなことやこんなことや、はたまたそんなことまでしてみたい!
 雫華は語る。「だが、泰雄くん。きみは酒飲むと壊れるのか? 場合によってはゲシュタルト療法が必要だな。いま、この瞬間を生き生きとするために、自己を自由にコントロールすることだ。自我と外界認識の形成と崩壊を自在に」
 俺は鼻っ面くじかれ、苦しげに言った。「これでもホメオスタシスは保っている真人間のつもりだが?」
 このセリフはツボだったらしい。雫華、腹を抱えてけらけら大笑し、涙すらにじんでいる。
 雫華は一転して真面目に語った。「喜怒哀楽。怒りは正当な権利だが、憎しみは狂気を呼ぶ。哀しみは人間として必要な大切な美徳であるが、時として怒り憎しみに転じる。それが恐ろしい。これが一つ」
 俺たちは無言でこの話に聞き入っていた。
 雫華は続けた。「……喜びは素晴らしい感情であるかに思えて、自らを不幸と思う人は、嬉しそうにしている人に嫉妬することがある。自分より不幸な人を嘲笑して、歪んだ喜びに浸る人もいる。楽をしているかに思えて、平和の無為の中に生まれた退廃に絶望する人すら……度し難い」
 シニカルなクール派に思われたこの朋村雫華女史の、意外な発言だった。
 とにかくみんなで美味い酒とふんだんな料理に楽しんだ。さまざまなテーマのディスカッションを盛んに交わし、有意義な宴会となった。
 現時点でのジェイルバード隊員は……俺、美嶋泰雄。藤村千秋。石橋小百合。次元万作(時雨)、神無月真琴、朋村雫華、か。奇しくも男女半々のパーティーだ。
 戦乱が収まったので、もはや神にも悪魔にも頼れないが。
 こうなれば、走り抜くまでだ! どこまでも、この命燃え尽きるまで世界を守るため戦い抜いてみせる! 敵が火星人だろうが金星人だろうが、このさい構うものか!