(R15指定です。初めにお断りしますが、この物語には不適切な表現が多々描かれています。分別とご理解のある方だけ読まれてください。通報はしないでくださいね)
  
  
「悪魔退治って……散って行ったあいつら、どうやって見つけようか」俺は千秋に相談していた。
「さっきみたいに泰雄ちゃんの魔法で、召喚していくのが確実ではない?」さらりと言う千秋。珍しく正論ではある。
 しかし俺は説明していた。「召喚した悪魔に命令できる願い事は一つだけだ。それが叶ったら、魔法陣から一歩でも出れば、召喚者は殺されるんだぜ」
「だったら仲間になってって頼めば良いじゃない」
 仲間? それは甘いな。その契約を逆手に取られて犠牲になった悪魔召喚者は史実たくさんいるのだ。
 こうなればとことん戦い抜くまでだ! 俺は今回はしっかり、講義用の馬鹿でかいコンパスと分度器、定木にチョークで床に魔法陣を書いた。詠唱する。「あどにーえる……(中略)……しゃだい、我は望む死をグレーターデーモンに。出でよ地獄の門より!」
 しかし魔法陣に現れたのは、チビデブの警備員制服の青年だった……見憶えがある。次元先輩? 通称時雨。ってなんで?!
「時雨先輩!」語り掛ける千秋。
 はっと気付く。死をグレーターデーモン、氏グレーたー出ー門、時雨タン出え門ってわけか!
「時雨ちゃん。私の第一号! 逢いたかった。久しぶり、愛しているわ」言いながら千秋は時雨に抱きつく。
 時雨は悲壮な顔をして、目に涙を浮かべている。「ああ、千秋ちゃん。許して! お願い、僕をコロサナイデ」
 まさか次元万作、警備員幹部候補生、暴力団対策班のこの男が恐れる女とは……千秋、図抜けた実力の持ち主と知ってはいたが、これほどとは……
 時雨は高校一年の時に、先輩不良グループに絡まれた。一見小柄で温和そうに見えるからカモにされようしていたのだ。しかし時雨は十人ほどのクズどもを片端から潰し、凄まじい焼きを入れた。時雨の名は血の雨からきているという。
 とにかくこの時雨の功績で、俺の高校は不良のいない穏やかな環境となった。偉大な先輩なのに……
 千秋は吹いている。「私、大人になったら時雨ちゃんをたぶらかすのが夢だったの。大好き!」
「千秋ちゃんひどい! いくら僕がデブだからって薬剤で固めて捨てるなんて」
 ? 話が噛んでいないぞ。
 千秋は指摘した。「それは固めるテンプラの油カス! まったくお茶目の不思議ちゃんなんだから」
 俺は叫んでいた。「……どういうボケ突っ込みやねん! ほんま空いた口が塞がらんだぎゃあ! わてよういわんわ、マジで」
「それ、関西弁と名古屋弁その他が混ざっているわよ、いんちき芸人!」
「わい芸人やあらへん! ごっつぅいかしとるヒイロウやんけ」
「単なるイカレ壊れた変態じゃん。大嫌い! それに比べたら」千秋は時雨に甘ったるい声で告った。「時雨ちゃんには女の子のいちばん大切なものをあげるわ」
「僕を噛み殺すつもりでしょう、いやだよう!」涙声の時雨。
 ……男なら据膳喰わないのは恥だと聞くもんやがのう。真実の『漢』として知られとる伝説の時雨先輩が怯むとは驚きや……ごっつ千秋恐るべきやで、マイ・クイーン・ザ・モエトリアン。なんのこっちゃ。
 と、甲高いが凄みのある男の声がした。「何故俺を起こした! せっかくいい夢を見ていたのに」
 見れば、身長170センチほどの線の細い青年やった。俺は問う。「誰やねん、あんたはん?」
「俺は神無月真琴(かんなづき まこと)。数学科単科履修生だ」
「あなたまさか!」千秋は何故か驚いている。
「その先は不要だ。ジェイルバードは有事の際、必ず有志により再結成される……きみが8『ソーサラーサウザント』か。誓いは?」
 千秋は詠唱した。「籠の鳥は闇に潜み、籠の鳥は密に歌い、籠の鳥は欺瞞を見つけ、世の大空へ解き放たれる。例えすべてを敵に回しても」
「偽りはないな?」神無月は真剣に問う。
「もちろん。この『シナリオ』は、私の意志で導いたのですもの」
 なにを話しているのか。神無月……ジェイルバード……過去どこかで聞いた名だが。俺は意見した。「ここらで一休みしまへんか? 気晴らしに缶コーヒーでも飲みたいとこだきゃ」
 時雨は吹いている。「カフェオレだけあってカフェボクが無いのは不公平だよね!」
 真面目にボケる千秋。「メルシーボクはあっても、メルシーオレは無いでしょう?」
 ヒヒヒ、ヒーン!   突然の馬のいななく声。なんや?
 ここで、悪魔? が立ちふさがった。蒼白の馬に乗っている堂々たる姿からしてこいつは……魔導書レメゲトンナンバー13、力強き恐怖の王ベレスやんか!
 望むままに男女の愛を操れる魔力を持つ悪魔。しかし銀の指輪をし、魔法陣に呼び出さない限り、召喚者、つまりわいを炎の息で攻撃してくる、ヤバいこっちゃで! どないしよ?
 わいは思わず、ニードルの陰に隠れた。
 ニードルは臨戦態勢に入っている。「マイ・レディ、騎上してください。仕留めましょう、御命令を」
 しかしここで時雨が割って入り、訴えた。「千秋ちゃん、僕さあ……」
 !? この瞬間、千秋は突進し悪魔ベレスを殴り飛ばしていた! 悪魔は脆くもたった二発のボクシングのジャブストレート、ワンツーパンチで沈んだ。
 ああ、『千秋チャンプ・ボクサー』か。いかれてまんがな……。
 悪魔ベレスは千秋に平伏していた。「恋愛事に限り、汝の望みを何なりと叶えてさしあげよう」
 千秋は嬉々と答えた。「私とこの時雨ちゃんとをラブラブにして欲しいの」
「容易い望み、引き受けましょう。元から相思相愛、素直になるだけですね」
「え? 相思相愛なの!? 時雨ちゃんが私のこと……」
 時雨は涙ぐんでいる。「忘れた日なんてないよ! こんなに怖いのに、寝ても覚めても千秋ちゃんのことばかり……」
「嬉しいわ。さあ、『既成事実』を作りに行きましょう」
「やだ! トラウマだもん、千秋ちゃんは僕になにをしたか忘れたの?」泣きじゃくる時雨。
「なにかしたっけ?」
「忘れている~~!」
「ごめんなさい、今からでも謝るから、お礼は私の身体で……」
「やだ!」頑固に言い放つ時雨。
 このシチュエーションで断るんか? それも伝説の次元万作……じげんばんさく……『時限爆散』で知られっとるっちゅ~くらいの男の中の『漢』が。
 とにかく、時雨は泣いて縮み上がっとる。わいなら泣いて喜ぶとこやがのう……いや、こんなんめっちゃ恥ずかしで。
「私時雨ちゃんのために、純潔保って来たのよ。私では嫌なの?」千秋も涙を浮かべてきた。
「だって、僕が灰皿あげた時のこと! あれ防犯カメラに写っていて、千秋ちゃんが小学低学年生と間違えられて、僕警察に補導されて。おかげで僕私立中学退学させられるところだったんだよ。血液検査までされて僕がタバコ吸っていないって分かったから釈放されたけど……」
「許して! 中一でしょう? 私まだ子供だったの」
「それから僕が高校一年の時も……先輩の不良グループそそのかしたの、元はと言えば原因は千秋ちゃんじゃない! 僕の心と身体をおもちゃにしておいて……」
 おお! それは聞き捨てならんばい!
「お礼にお酒を時雨ちゃんに差し出したかっただけなの! それを連中奪ったから……」
「僕も高校生だったでしょ! 違法じゃない。僕が社会人一年目のときだって……わざわざ僻地に赴任までして逃げたのに、アパートまで追い掛けてきて! 僕未成年略取誘拐容疑で逮捕され掛かったでしょう?」
「おもちゃなんて大げさな。時雨ちゃんはどの道いじられキャラなんだから、諦めて運命を受け入れなさいよ」
 開き直る千秋はんはパネエすごいで……わてロリコン趣味を卒業しようか迷っちゅうとこやな。